A requiem to give to you
- 再誕を謳う詩・前編(2/5) -



某少女の座右の銘を真似て言えば、シンクは何か言いたそうにしていたが、やがて大きな溜め息を吐いて首を横に振った。



「ホント、アンタの相手をしていると疲れるよ……」

「ふふふ」

「笑うな。……それでグレイだっけ? アイツなら朝からどこかへ出掛けてるよ」



と、シンクは思い出したようにそう言った。そう言えば己はグレイを探していたのだと言うのを思い出し、それから首を傾げた。



「休みの日の朝からとは珍しいですね。因みにどちらへ?」



問いかければさあね、とシンクは肩を竦める。



「ボクだって別にアイツと四六時中一緒にいる訳じゃないし、教会内にいる時くらいは別々に行動だってするさ」

「それもそうですね」



シンクは現在教会を出る際には監視が必要だ。その役目は主にグレイが担っているのだが、彼にだってプライベートくらいあるだろうし、ずっと監視をしているわけではないだろう。

そんな事を思っていると、シンクが「あのさ」と声をかけてきた。



「ボクからもアンタに聞きたいことがあるんだけど」

「? はい、何でしょうか?」



一体何を聞かれるのだろうか。【クリフ】の事か、或いは【イオン】の事か。それとも───



「アンタのその趣味、誰かに実行したことってあるの?」













…………………。














「私の実力がどの程度の物か、その身で体験してみますか?」



ニッコリと笑ってそう言えば、己と同じ顔が真っ青になった。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







本人不在の中何やら不穏なフラグを立てられている男ことグレイは、人知れぬ地下へと来ていた。



(見た物が正しけりゃ、確かこの先…………の筈だけど)



見たのは偶然。名前も知らない同僚(先輩なのか後輩なのかはわからない)から読み取った記憶にあった場所。場所自体は別に興味はない為、普段だったら気にする必要はない。しかしそこに映ったモノは、睡眠を貪りたい休みの日の朝から体を突き動かすくらいにはスルー出来る物ではなかった。

恐らくだが、一般人はまず入れない場所。物理的に、と言うよりは法的な問題だ。だから見つかれば怒られるでは済まないだろう。それくらい秘密裏にされていて、且つ厳重な警備で守れられている……そんな場所だった。

行き方は読み取った記憶の通りに進めば良いから問題はなかった。地下だからか、灯りは等間隔で少なく設置されている為大変薄暗いが、夜目は利く方だからそれも大丈夫だ。問題があるとすれば、目的地に辿り着くまでに誰かに遭遇しない事だった。

当たり前だが余程人を寄せ付けたくないようで入口は隠されていて、そこ自体には警備はいなかった。しかしこの先には確実にいるだろう。人数まではわからないが、然程いないとは踏んでいる。



(一人、二人程度だったら最悪昏倒させて記憶を消しちまえば良いしな)



そんな事を思いつつも、気配と足音を消しながら更に奥へと進むと、やがて突き当たりに何かが見えてきた。

それは一見するとただの壁だが、二つほどの丸い窪みと、二つの光る玉のような物が埋め込まれていた。恐らく、これは扉を封じる為に施された仕掛けだろう。



(多分、窪みに同じような玉を嵌め込む感じだよな)



そしてそれは、ここの警備を任されているであろう兵士が所持しているのかも知れない。今から戻ってその兵士達を探すのは果てしなく面倒臭い。かと言って、このままでは先に進むことは出来ないだろう。

どうするか、と考えてからグレイは壁を、そして天井を見渡した。それから一つ、目に入ったのは格子の蓋がされた通気口だった。

ここは地下だ。いくら何でも密閉されれば中で生きる事は出来ない。ならば外の空気を入れる為の場所があるのは当然だ。

グレイは通気口の真下まで来ると壁を蹴り、勢いをつけてさして高くはない位置にある天井へと手を伸ばした。格子へは簡単に手が届いた。それから螺子で留まった蓋を外し、中へと侵入する。

通気口の中は大人一人がギリギリ通れるくらいの狭さだが、細身のグレイでは問題なく通る事が出来そうだった。一つ不満があるすれば、立ち上がる事が出来ないので這って移動しなければならない事だろうか。



(埃っぽいしカビ臭ェ………さっさと用事を済ませて戻らねーと、体調不良待ったなしだな)



なんて、例外はあれど体調不良とは基本無縁な己が思うのも変な話だが、それくらいの悪環境なのである。

予想通り壁の先にも通気口は続いており、難なく突破する。しかし歩くよりも服の擦れる音が立ちやすい為、尚の事気をつけながら進み続ける。

暫く進んだ先に、下からの明かりが見えてくる。気配を殺して下を覗き込むと、一人の兵士の姿が見えた。備え付けられた机に向かって何やら書類仕事をしているようだ。



「………………」



見える範囲では、他に兵士はいない。気配も感じられないのを確認すると、グレイは兵士に向かって意識を集中させ、小さく息を吸った。



「───トロイメライ」



そう囁いて直ぐ、兵士は机に伏して動かなくなった。そのまま様子を見ていたが、やはり誰かが駆けつけてくる様子がない。

グレイは格子を外して下へと降りる。兵士の背中が穏やかに上下し、完全に眠っている事を確かめるのもそこそこに部屋を見渡そうとして───
















「───こんな辺鄙な所まで、物好きだな」



耳に馴染む低く、重たいバリトンに心臓が跳ねた。
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