A requiem to give to you
- Intermezzo(1/3) -



ローレライ教団総本山・ダアト。世界が平穏を取り戻して早二週間ほどが経っただろうか。未だに先の戦争や崩落騒ぎ、そしてモース、ヴァンらが首謀となり引き起こした各地への被害などの処理に導師を始めとして教団の詠師や神託の盾騎士団の幹部、そしてその補佐らが日夜追われていた。



「ほら、今週分の報告書だ」



六神将の補佐であるグレイもまた例外ではなく、半数以上の六神将が不在(内二名は行方不明)で、更に同じ補佐であるフィリアムが謎の眠りから醒めぬ今、かなりの皺寄せが来ていた。元来、面倒臭がりで元の世界ではサボり遅刻の常習犯で学校では有名だった彼も流石にこの事態を投げ出す事は出来ず真面目に取り組んでいるようだった。

そんなグレイは現在導師であるイオンの部屋へと来ていた。私室と執務室を兼ねているこの部屋は限られた者しか入れないのだが、グレイは元より合言葉を知っているので最早出入りは自由のようなものだ。一先ず仕事の区切りをつけ休憩していたイオンのいる机に幾つかの書類を置いたグレイの疲れ切った表情を見て、イオンは労わるように「お疲れ様です」と声をかけたのだった。



「本来ならば幹部らでやらなければならないのに、すみません」

「全くだな………と、言いてェとこだけど、そもそも残った幹部が頭使うのが超絶苦手な子供と、地頭は良いが実年齢ほぼ二年の子供しかいねーってのがまずやばいだろ」



そう言ったグレイ自身も身体年齢だけならばアリエッタよりも下だし、そして何よりも最高指導者も実年齢はほぼ二年だ。いくら実力主義の界隈とは言え、これは狂気すぎる。しかしそれでも何とか回っているのだから、そこは彼らの手腕が本物だと言うことなのだろう。



「つーか、ディストを呼び戻せないのかよ。マルクト出身つったって籍はこっちにあるンだぜ? あいつ自身も関わってたんだし仕事させろや」

「ははは……本当ならば直ぐにでもそうしたいのですが、身柄をマルクトに引き渡してしまった以上、それをするには向こうとの協議が必要なので直ぐには難しいですね」

「なんで引き渡しちまったんだよ……」



申し訳なさそうにするイオンに思わず突っ込んだものの、ディストを捕まえる要となったジェイドのあの時のあの勢いを間近で見ていたグレイにはその気持ちはわからないでもない。それに下手にダアトで拘禁したところで普通に逃げられる可能性もあるし、説得する手立ても大してないのを考えると、彼の”大好きな”(強調)な幼馴染みらの側に置いておいた方が良いのだろう事も頭では理解出来ている。

しかしここまでの仕事量を考えるなら、今は猫の手ならぬ犯罪者の手も借りたいところである。



「チッ、肝心の大人共が揃いも揃って牢屋送りとかふざけやがって」

「やってしまった事が事ですからね。流石に彼らを教団で庇うのは難しいですよ」

「わーってるよ。でも文句の一つでも言ってねーとやってられないってだけだ…………まぁ、一番文句を言いたいのはお前だろうけどな」



そう言ってグレイが溜め息混じりにそう言うと、イオンも苦笑を漏らす。否定はしないところを見るに、色々と溜まっていそうである。

そんな時、部屋の扉をノックする音が聞こえてきた。



「どうぞ」

「失礼します」



イオンが入室を促すと、静かに扉が開かれた。そこから現れたのは───レジウィーダだった。



「レジウィーダ?」

「お前、そんな格好でどうした?」



二人して首を傾げながら彼女を見る。レジウィーダはいつもの青を基調とした軍服………ではなく、いつかのバチカルへ向かう時から旅の終わりまで着ていた白を基調とした緋色の模様の入った衣装に身を包んでいた。



「導師イオン」



そう言ってレジウィーダは一枚の紙をイオンへと差し出した。それを見て、グレイは直ぐに察した。



「お前まさか……」



その言葉にレジウィーダは小さく口角を上げ、それから一歩下がると敬礼したのだった。



「改めまして。私、レジウィーダ・コルフェートは……
















神託の盾騎士団の辞職を申請します」



そう、レジウィーダが今イオンに渡したのは、二年前と同じく辞職届だった。彼女の宣言にイオンは口元に手を当てて思考する。グレイはそんなイオンに「オイ」と釘を刺すように言った。



「まさか受理なんてしねーだろうな。このタイミングで抜けるなんて馬鹿な話はねェぞ」

「確かにレジウィーダ自身、幹部ではありませんが籍は神託の盾のアッシュの副官です。……ですが、」



そのアッシュも今は六神将の籍を外されている。彼自身もキムラスカやマルクトへ被害を出してしまっている以上、直接的な刑罰を課さない代わりの最低限の処置の上仕方のない事だ(とは言え、そもそもアッシュもダアトには戻ってはないのだが……)

それはさて置き、問題は目の前のこの少女だ。彼女自身がアッシュの副官として働いていたのは今回の問題が起きるよりも前だ。変な話、事実上の休職扱いになっていたのだから、今回の件を神託の盾としての後処理に参加させる必要もない。

イオンは暫し書類を見つめ、それから一つ息を吐くと改めてレジウィーダを見据えた。
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