A requiem to give to you
- Intermezzo(2/3) -



「理由を、お聞かせ願えませんでしょうか?」



あの時と同じ質問をレジウィーダへとかける。すると予想していたのか、レジウィーダは真剣な眼差しでイオンを見返すと口を開いた。



「大切な仲間を取り戻す為、そして………今度こそ、約束を果たす為の旅をしてきます!」



彼女らしい元気の良い宣言。イオンはそんな彼女を見て、優しく笑った。



「受理しましょう」

「導師!?」



驚くグレイを他所にイオンは手早く辞職届に判を押し、それを机の引き出しに仕舞い込んだ。それを見てレジウィーダはガッツボーズをして喜んだ。



「オッシャ通ったー!!」



念願叶ったとは言え、あまりの喜びように寂しさなど吹っ飛んだイオンもまた穏やかな笑みを浮かべている。しかしグレイは納得がいかないようにレジウィーダに詰め寄った。



「オイ、ちょっと待てよ馬鹿女! 勝手に一人で暴走してンじゃねェ!」

「別に暴走なんかしてないって」

「じゃあ何で急にまた一人で飛び出そうとしてンだよ!? 大体、テメェ状況をわかってるのか!?」



百歩譲って被害の処理などの仕事はなしとしても、それとは別に今は様々な問題を抱えている。その中にはレジウィーダ自身も決して無視出来ない物だってあるのだ。

しかしレジウィーダは冷静に頷いて返す。



「わかってるよ。でも、だからこそだよ」

「はぁ?」



どう言う事だとグレイは問うと、レジウィーダは彼を真っ直ぐと見上げた。



「このままここでじっとしてるだけじゃ、何も進まない。フィリアムの事も、トゥナロさんの事もそう」

「それは……」

「それにネビリムさんのレプリカの事だって解決してないんだ。今はまだないけど、いつまた大きな被害が出るかもわからないんだし、そのままには出来ないよ」



確かに、理由はわからないがシルフィナーレは地核に落ちたとは聞いたが、ロニール雪山で見たあの凶悪なレプリカの行方はわかってはいない。一応、事情を説明しているマルクトが捜索を行なっているようだが、どこかに身を潜めているのか未だに進展報告は聞かない。



「なら、尚更一人で行くのは危険だ。前だってあんだけ苦戦させられてンだぞ」



そしてグレイもまた彼女に散々痛めつけられた経験がある。元より満身創痍なところへの不意打ちだったとは言え、全く逃げ出す隙すらなかったのだ。生半可な覚悟では相手は出来ないだろう。



「それに、仲間を取り戻す為って………何をするつもりなんだ?」



脳裏に己とよく似た。しかし全然色味の違う顔が浮かぶ。突如として消えてしまった彼は、グレイに回帰した訳でもない。本当に存在そのものが急にいなくなってしまった。レジウィーダはそんな彼を探そうとしているのだろう事は直ぐにわかったが、しかしだからと言って何の手がかりもない中どうしようというのだろうか。



「それについてはさ、セフィロトを回ってみようかなって思ってる」

「セフィロト? 確かにあの野郎が消えたのはセフィロト内だったけどよ……」

「うん。だから、仮にそこにいなくても、何か手掛かりはあるかも知れない。例えそれすらもなかったとしても、何もしないよりは………自分の足で動いて、この目で見て確かめていきたいんだ」



だからさ、とレジウィーダは続ける。



「あたしが動くから、アンタはここで待っていてほしい」

「…………」

「トゥナロさんを見つけて、フィリアムを起こす方法を見つけて後は帰るだけってなっても、アンタがここにいれば───」



















「また、お前がここに帰って来れるから……ってか?」



続けられるだろう言葉を先取りして言えば、レジウィーダは目を丸くした。それから苦笑を浮かべた彼女にグレイは顔を顰めた。



「……また、待たされるのかよ」

「え?」



ボソリと呟いた言葉が少し聞こえてしまったのか、レジウィーダが首を傾げる。しかしグレイは首を横に振ると彼女の意見を却下した。



「やっぱり、それは出来ねェ」

「頑固なやっちゃな」

「茶化すな。大体、いつ見つかるかもわからねーのに一生セフィロトを巡り続けるつもりかよ? 聖地巡礼じゃねーし、神託の盾から籍を抜いて、これからどうやって生活するつもりだ」



この世界だって何かをするにはある程度の衣食住は必要だ。果てのない旅をするには内容があまりにも過酷で危険だし、効率も悪い。それだったらせめてダアトを拠点に動いた方が何かとツテなども使いやすいし融通が効くだろう。そう思って問うと、レジウィーダはうーんと考える仕草を取ると、それから思いついたように両手をポンと叩いた。



「取り敢えず、どっかのギルドでも入って各地を転々としてみるのは有りかもな!」

「ねーよ」



馬鹿言ってンじゃねェ。

そう突っ込むと同時にグレイは目の前の呑気なその赤い頭に拳骨を落とした。



「いったぁ!? いきなり殴るなバカ男!」

「計画性が無さすぎるンだよ。思いつきで行動するな」

「でもそんな事言ってたら何も出来ないじゃん!」

「だからもうちょっと話し合ってからでも良いだろって言ってンだよ!」

「アンタと? 絶対に揉めるに決まってるし!」

「テメェが碌な考えをしねーからだろうが!!」

「アンタの拘りが強いだけだろ! もう少し柔軟になれば良い話だしー!」

「限度を超えてンだよ! 常識の範囲内で考えろ!」

「一番常識とか無視しそうな奴に言われたくないわ!!」



いつの間にか言い合いになってしまった二人にやり取りを見守っていたイオンがどうしようかと困惑する。二人は気付いてはいないようだったが、先程から扉の向こうに感じる気配に助けを求めようかと考え始めた頃、まるでそれを察したかのように扉は開いたのだった。
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