A requiem to give to you
- 蘇る魔界(3/5) -



その言葉に、最後に見た時の様子を思い出す。

シンク達と共にジェイドの家に来た時の彼は寝不足からかお世辞にも顔色が良いとは言えなかった。いつかの時よりはマシではあったが、レジウィーダがダアトを出る時からずっと忙しくしていたから、夢の事もあって余計に疲労が溜まっていたのだろう。

それでも、あの日強制的に泊まらせてたっぷりと睡眠を取って帰った時は随分と回復していたようだが、やはりあの後もまた忙しかったのだろうか。然程日を置かずにケセドニアの事があってバタバタとしていたから、あの後の事は全くわかっていない。



(て言うか、アイツもタリスもヒースもずっと皆の為に動いているんだよね)



比べて己は、何か成果を出したのだろうか。元々はトゥナロを探す為にセフィロトを回っていた。流石にタルタロスやアルビオールのような移動手段はないので、行けなかった場所もあるが、それでも一人で行ける場所は大体探した。

しかし彼は見つからなかった。あるのは聳えるツリーと神秘的な空間だけ。音素が引き合うと言う事で第七音素を発生させたりもしたが、あの特徴的な音素を感じる事すら叶わなかった。



(やっぱり、地核に行っちゃったのかな)



フィーナが地核に落ちたと知った直後に彼は消えた。地核にはローレライがいた事も考えるに、彼女が何かをした可能性は限りなく高い。



「レジウィーダ? 急に黙ってどうかしたのか?」



ガイがそう言って声をかけてきた事により思考を中断する。そしてガイを見て、「そう言えば」と口を開いた。



「ガイやヴァンってホドの出身だけどさ、確かフィーナさんもだよね?」



その言葉に他の者達もえ、とこちらを向いた。そんな皆の様子も気にせず、ガイは一度目を瞠ると直ぐに苦笑を浮かべた。



「………よく、わかったな」

「わかったって言うか、ちょっと知る機会があってね。それより、フィーナさんとそのお姉さんとは昔からの知り合いだったんでしょ?」

「知り合い………。まぁ、知り合いっちゃあそうなんだが………正直なところ、あまり関わった事はないんだ」

「そうなのか?」



ルークが問うとガイはああ、と頷く。



「フィーナ達のレンテル家はホドに家はあるんだけど、彼女の父親のレンテル氏がマルクトの外交官の一人でさ。元々島の外で長期的に仕事している事が多くて、家族皆で別家の方で過ごす事も多かったらしいんだ」



その話を聞き、ジェイドも「レンテルと言えば」と会話に入ってくる。



「ホド戦争開戦時は大陸の方の任についていたと記憶しています。戦争後に引退して、その後のことはわかりませんでしたが……」

「て、事はさ。フィーナ達の家族は生きてるって事だよな?」

「死亡報告はありませんので、少なくともご両親はどこかで生きているのかも知れませんね」



その辺はマルクトの方で調べたらわかりそうだ。それよりも、



「フィーナさんのお父さん達は、フィーナさんの状況をどこまで知ってるんだろう?」

「全く知らせていないのか、或いは彼女に手を貸していて裏で暗躍しているのか…………後者であるのなら、野放しには出来ませんね」

「ちょ、ちょっと待てよ」



淡々と述べるジェイドにルークが慌てて間に入る。



「フィーナの親を捕まえようとしてるのか?」

「捕まえる、と言うより………前者にしろ後者にしろ、一度事実確認は必要でしょう。それにもしも何も知らされていないことで、シルフィナーレを止める為に協力を仰げるのならそれはそれでこちらの利点にもなりますしね」



ジェイドはそう言うと再び眼鏡を押し上げて黙り込む。彼の言葉で、一つわかった事がある。



「ジェイド君も、フィーナさんは生きてるって思ってるんだね」



ジェイドだけじゃない。先程までの会話で、誰も彼女の死を言及する者はいなかった。



「まぁ、明らかに不自然だしな」

「そうねぇ。トゥナロが消えたタイミングも変だったし………フィーナが何かしたんでしょうねぇ」

「それもだけど、そもそもネビリムさんのレプリカが自己判断でローレライの鍵を狙って襲うなんて考えにくいわ。確実に彼女に指示をした者がいるだろうし、そうなるとそれが出来る人物も限られてくると思う」



ヒース達の言葉に肯定しつつ、ティアもそう言う。そしてその言葉に他の者達も頷いていた。



「あの人の目的はイマイチわからないけど、マジヤバな事をしようとしてるってのはわかるよ」

「彼女が生きている事で怖いのは、地核でタルタロスを破壊されないかって事ですかね」

「旦那、しれっと恐ろしい事を言うなよ」



シャレになんねーって。ガイはそう言うが、可能性がゼロではないのが本当に怖いところだ。

ですが、とナタリアが首を傾げる。



「わたくし、未だにわからないのです。フィーナはどうしてここまでするのかしら?」

「ヴァン師匠達の動機と同じじゃないのか?」



少なくともヴァンやシンクは預言が原因で人類の滅亡を望んでいた。先のフィーナがホドの出身と言う事を考えるに、同じような理由である事は浮かんでくるだろう。そんなルークの言葉にナタリアは首を横に振った。



「だとしても、それでもレジウィーダを執拗に狙う理由がわかりませんわ」



そう言われてレジウィーダは目を丸くした。



「そう言えば…………あたし、何をどこまで皆に話してるんだっけ??」

「多分、皆殆ど知らないと思うわ」



まぁ、フィーナの言葉からある程度察している人もいるとは思うけど。タリスのその言葉に皆は同じように頷いた。



「無理に聞くのもな、と思って聞いてこなかったけど、正直凄く気にはなってたよ」



ヒースの言葉にまぁそうだよね、と苦笑する。近くではティアも少しだけ申し訳なさそうな表情を浮かべていた。



「その……亡くなったって言う貴女のお兄さんの事もあるみたいだから、聞いて良いのかわからなかったの」

「そっかぁ………何だか気を使わせてしまったみたいでごめんね」



レジウィーダはそう言って一度深呼吸をする。それから皆を見ると意を結したように頷いた。



「折角思い出した事だし、今後の選択肢として必要になるかもだから………話しておくね」



レジウィーダとその兄、そしてフィーナ達姉妹との間にあった事。そして、フィーナ本人が話していた地球へと来た経緯についてをダアトに着くまでの間、レジウィーダは静かに皆に伝えた。
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