A requiem to give to you
- 蘇る魔界(2/5) -



「それで思い至ったのは、影武者だった……って事にしようかと思いまして」

「”だった”?」



何故に過去形なのだ。そんな疑問が浮かぶが、イオンは構わず続ける。



「だって今のシンクは普通に素顔を出して生活してますし、存在がバレていたら影武者の意味がありませんから」

「言われてみれば確かにそうかもね」

「戦争が終わって、平和になって影武者の必要がなくなったって事にすれば、取り敢えずは何とかなるかな……と」



特に今は導師の影武者よりも預言の方への関心が集まっている。だからその発表自体多少は騒がれるだろうが、直ぐに沈静化するだろうとイオンは考えているようだ。ただ、そこまでの間に現時点でイオンの次に地位の高いトリトハイムに相当な負担がかかることは火を見るよりも明らかで、これは確かに頭が痛くなることだろう(かと言って別に同情はしないが)。

未だに困惑を隠せないトリトハイムをイオンは振り返り、優しく笑った。



「トリトハイム。僕は貴方の僕に対する信頼と、その手腕を信じていますからね」

「………は、はい」



オリジナルと違って気弱だがお人好しで優しい七番目…………………の筈なのだが、この三年近くの間で社会の波に揉まれすぎたのだろうか。この時の彼は何だかとてつもなくゾッとしたのは気のせい………だと思いたかった。






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







「旅は道連れ、世は情けって言うけど、ここまであっさりとメンバーが揃うなんて最早運命だね!」



レジウィーダのそんな明るい声に周りの者達もうんうんと頷く。



「確かに。預言には間違いなく読まれてないんだろうけど、それでも奇跡ってあるんだなぁ」

「必然ってモノよねぇ。預言じゃないけど、まるで小説とか物語みたいだわ」

「何かちょっとメタ臭いのが余計にね」



ヒースとタリスのそんな会話にルークが苦笑を浮かべる。



「つーか、ここまで来ると本当にお前らに預言がないのか疑わしいぜ」

「と言うより、レジウィーダ達にではなく寧ろ私達の預言に記されていた可能性はありますがね」



ルークの言葉にジェイドが眼鏡を押し上げながら自らの考えを述べる。そんな彼らに一人の少女が立ち上がった。



「預言でも運命でも何でも良くてよ! 理由は何であれ、またこうして皆と旅が出来るのは嬉しいですわ!」



少女、ナタリアはそう言って言葉の通り嬉しそうに笑った。それを見たアニスは、



「ついさっき大佐の胸倉掴んでブチギレてた人とは思えない発言だよね」

「アニス、それは言わない約束だ」



ガイがこっそりとそう言うが、ナタリアはぐるりと顔を二人へ向けるとにっこりと笑った。



「あら、二人とも何か仰いまして?」

「「何でもないで(ぇ〜)す」」



ガイとアニスは対照的な反応で同じ言葉を返していた。そんな三人のやり取りにレジウィーダは数時間前の事を思い出した。

グランコクマから真っ直ぐにバチカルへ赴いたレジウィーダ達は、先のケセドニア近郊でのマルクト軍襲撃についてインゴベルトへと話を聞きに行く為、急いで城へと向かっていた。

城の目の前まで来た時、丁度慰問に出ていたナタリアが帰ってきており、ルーク達が声をかけた。その声にこちらの存在に気付いたナタリアと言えば、形の良い眉を吊り上げて大股でジェイドの前まで真っ直ぐに来るとその胸倉を掴み上げ、件のケセドニア襲撃についてキムラスカが疑われていると言う事に遺憾を示していた。

ルークやタリス達がそんな彼女を何とか宥め、改めてインゴベルトへと事実確認をしに登城した。しかしやはりと言うべきか、インゴベルト……いや、キムラスカは襲撃への関与は一切ないとの事だった。一先ず襲撃を受けたフリングスを始めとした兵士達からの報告内容と、それに対するピオニーの意見をインゴベルトとナタリアへと伝え、一先ずお互いの疑念は払う事ができた。

そこで一つ、新な問題が浮上した。それはマルクト軍を襲撃した偽キムラスカ軍の正体がレプリカではないか、と言う事だった。

ジェイド曰く、フォミクリー実験による症状に似た事例があると言う。可能性の域は出ないが、仮にモースがレプリカで兵を造ったのだとすれば、これまでの辻褄が合うのだ。

そしてもう一つ。これは誰もが思っていたことではあるが、やはり預言への信仰はまだまだ深く、預言から外れた今もまだ縛られている者が多いと言う事実。モースが脱走した今、それを理由に好き勝手させない為にも一度国際的な基準を決める為の話し合いが必要があるのだ。

そんな訳で、現在レジウィーダ達はナタリアを加えダアトへとアルビオールを飛ばしている途中だった。



「ところでレジウィーダ」



と、タリスがレジウィーダに声をかける。



「これから私達が行く事って、グレイには伝えてあるのかしら?」

「それがさー。ダアトに行くって決まって直ぐに電話とメッセージ入れたんだけど、電話に出なければ既読も付かないんだよね」



コールが入るから電源を切っている、と言う事はないのだろう。そんな事を思っていると、ヒースが肩を竦めた。



「持ち歩いていない可能性はあるのかもな」

「そう言うもん?」

「だって、こっちからは連絡出来ないし、もし任務とかに出ているのなら途中で下手に鳴ったりしても邪魔になるだろ」

「まぁ、そう言われるとそう……かも?」

「それにあいつ何かいつも忙しそうだし、携帯を見る余裕がないのかも知れないな」
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