A requiem to give to you
- Intermezzo(3/3) -



「いやぁ、相変わらず賑やかな人達ですねぇ」



鶴の一声とはこの事か。入ってきた人物のそのたった一言で言い争っていた二人はピタリと言葉を止めた。



「あ、ジェイド君だ! おひさー♪」

「チッ、また面倒臭そうなのが来やがった……」



そんな対照的な態度にもどこ吹く風か、新たな来訪者であるジェイドは二人に軽く挨拶を返すとイオンを向いた。



「ご無沙汰しております。お体の方はもう大丈夫ですか?」

「心配をかけてすみません。この通り、忙しさはあるものの体調は安定していますよ」

「それは良かった。あ、それでこちらはピオニー陛下からの各街の現在の状況をまとめた物になります」



そう言ってジェイドはイオンに持ってきた書類を渡す。新たに増えた書類にイオンは少し笑顔をぎこちなくするも、丁寧にそれを受け取りお礼を述べた。



「それで」



と、ジェイドは再びレジウィーダ達を向いた。



「先程、何だか面白い話を聞いたのですが…………レジウィーダ、貴女は神託の盾を辞めるのですか?」

「あ、うん。辞めるってかもう辞めたわ。ついさっき辞職届が通ったとこなんだよね」



レジウィーダがそう返すとグレイが思い切り顔を顰めるのを見て、ジェイドは少しだけ吹き出しそうになるのを抑えながら「そうですか」と一言呟き、それから思いついたようにこう言った。



「では、これからはマルクトで過ごすのはどうですか?」

「え?」

「は?」



ジェイドの言葉にレジウィーダはキョトンとし、グレイは何を言っているのかわからないと言った表情で返した。そんな二人にジェイドは続ける。



「セフィロトを巡るにしても、先生のレプリカの行方を追うにしても、ダアトだけでは情報を得るには限界があるでしょう。タリスやヒースがキムラスカにいますし、ここにはグレイがいる。だったら、貴女がマルクトに来ればほぼ全域の情報を得る事にも繋がるのではないでしょうか?」

「おお、成程ー」

「い、意外と理に適ってる……」

「幸いにも、陛下も貴女のことは気に入っているみたいですし、衣食住については喜んで用意してくれると思いますよ。それでそこを拠点とすれば動きやすいのでは?」



ジェイドの提案はレジウィーダとしては願ってもない内容だ。レジウィーダ自身ピオニー陛下は少し苦手だが、決して悪い人ではないのはわかっている。そして散々反対していたグレイも否定の言葉が浮かばないのか考えあぐねている様子だ。

なら、その提案を受けない理由はないだろう……と、レジウィーダは大きく頷いた。



「うん、そう言う事なら是非ともお願いしたいな!」

「では、帰ったら陛下に進言してみましょう」

「やった♪ ありがとうジェイド君!」



わーい、と両手を上げて喜ぶレジウィーダに無事に移住先が見つかったことに安堵するイオン。グレイはやはり納得がいかないような顔をしていたが、反対する理由が見つからなかったのか、やがて諦めたように溜め息を吐いていた。

それからグレイはレジウィーダに向かって「オイ」と声をかけた。



「何だよ。もう反対する理由はないだろー?」

「そうじゃねーよ。取り敢えず携帯出せ」



そう言われてレジウィーダは首を傾げながらも新しくした携帯のロックを解除して差し出す。それを受け取ったグレイは手早く画面を指で叩いて何かを入力するとほら、と返した。不思議に思って画面を見ると、メッセージアプリの画面が開いていた。



「お?」

「連絡先、登録しといたから後で何でも良いからメッセージ送れ。そしたらこっちからもお前の連絡先を登録出来るだろ」

「ああ、成程ね。確かにメッセージの方がやり取りしやすいか。でも、アンタの携帯ってフィリアムに渡してなかったっけ?」

「眠ってる奴に使えないだろ。今は回収してオレが持ってるから、何かあれば連絡して来いっつってるンだよ」



そう言うとグレイはそっぽを向いた。しかしそれは彼なりの心配の裏返しなのは流石にわかっていたレジウィーダは、素直にその気持ちを受け取ると「ありがとう」とお礼を言ったのだった。



「あ、それからジェイド」



と、グレイは思い出したようにジェイドを向いた。はい、と振り返った彼にグレイは指で銃を作ると心臓のある辺りを叩いた。



「………変な気起こしたら全身蜂の巣にしてやるからな」

「おや、それは一体なんの事でしょうかね?」



全くわかりませんね、と飄々と笑う彼に睨みを利かせるグレイ。そんな二人にレジウィーダはイオンと揃って目を丸くしていたが、やがてどこかおかしくなって声を上げて笑っていた。
















再び螺子が巻かれた物語【自鳴琴】。

先に待つのは希望が、それとも絶望か。

結ばれた約束を果たす為、彼の者の夢を叶える為、新たな物語は紡ぎ出す。



♪──────

    ♪ ──────



地核の底に揺蕩う歌。終焉【Finale】を願うようなその歌は、その時を待つかのように……静かに愛を響かせていた──────











To be continued…
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