■ sentimental
暗がりの中携帯のバイブ音が鳴った。細長い指先が振動を頼りにシーツの上をまさぐっている。音が収まると 液晶画面の照明が持ち主の顔を薄く照らしだした。
色が違うその左右の瞳には彼の愛する少年の名前が映っている。
新着メールを開くと本文には何も記載がなく、けれども だからこそ相手の意図が感じ取れ、眠気の残る意識を払拭するように前髪を掻きあげた。指の隙間から藍色の髪がこぼれ落ちる。
ベッドから起き上がりひび割れた鏡で軽く髪をセットする。出口前に引っかけてあったジャケットを羽織ると、彼は寝室を後にした。
********
綱吉はベッドの中で泣いていた。部屋の光は月明かりのみで 電気はついていなかった。
携帯電話を握り締め 静かに涙を流す。流れた涙は頬を伝ってシーツのシミになり、のちに消えていった。
コンコン─。
窓ガラスが叩かれる。
身体を起こし視線を向けると、鍵をかけていた筈の窓はいつの間にか開け放たれており、冷たい風が肌を撫でた。
逆光で姿を象られた人間が窓の縁に手足をかけてクスリと笑った。
「こんな夜中に呼び出すなんて…、君も図々しくなったものですね。綱吉くん」
土足で部屋に上がり込む。
綱吉は鼻をすすり涙を袖で拭った。
布団で顔を半分ほど隠す。
「別に呼び出そうと思った訳じゃない…」
「嘘ですね」
「嘘…じゃない」
「この僕が勘違いしたとでも?」
「とりあえず靴を脱げよ骸」
「おやおや。これは失礼」
言葉では謝るものの、申し訳ないなどと言う気持ちは微塵も感じられない平謝りだった。
靴を揃えてベッドの下に隠し綱吉の側に腰掛ける。
[
prev /
next ]
←