■ 砂糖のように甘い君
木陰のかかった公園のベンチで骸は静かに本を読んでいた。ページをめくろうとした手に人の影が重なり顔を上げる。
『じりじりと太陽が熱を浴びせるこの季節、真夏の必須アイテムはこれ!』‥と、広告業界さながらのセリフを言わんばかりの笑顔で目の前に突き出されたのは、白くて冷たい溶け始めたソフトクリーム。
「君のおごりですか?」
「まさか!これは俺のだよ」
確かに影‥じゃなく、綱吉の手にその冷たい食べ物は一つしかなかった。綱吉は骸の隣に座る。
「普通一緒にいたら相手にも買ってくるでしょう」
「だって、一緒にいるのに本ばっか読んで俺のこと無視するんだもん。俺だってやりたい事やってるだけ」
「じゃあ一口だけ」
「やだ」
つんっと顔をそらしてアイスをぺろりと舐める。
骸は笑顔に怒りを滲ませながら綱吉に詰め寄った。
「一口くらい良いじゃないですか。ほら、溶けてきて手に垂れかかってる」
「え、うそっ!?」
綱吉は慌ててアイスを持ち上げ四方から確認する。指先についたクリームに眉を潜めた。
「うわー、もー、気をつけてたのにー‥。手がベタベタする…」
地面に向けて手を拭り汚れを散らす。服についてなかったのが不幸中の幸いだが、手に持っているクリームは太陽に掲げられいるせいで次から次へと指から手に溶けて伝ってきた。
いったん溶け始めると止まらないのがこの嗜好品の欠点だと綱吉は思う。
一人でじたばたしている少年を見ながら骸はクックッと口を押さえて笑っていた。
「アイスを片手にダンスですか。いや、実に面白い」
「別に踊ってないしっ、笑ってないで助けろよ!どうすれば良いんだよこれぇ〜」
「僕が持っていてあげるので手を洗ってきなさい」
「食べるだろ!?お前絶対食べるだろ!」
「じゃあそこでずっと踊っていれば良い」
彼も面白いが、自分の優位さにも笑いが出る。
まったくどうして彼はこんなにもドジなのか…。骸はポケットからティッシュを数枚取り出し、綱吉からソフトクリームを奪い取った。汚れないように広げたティッシュでコーンをくるむと、次はハンカチを綱吉に差し出す。
「これと交換ですよ」
意地悪く見せつけるようにクリームを舐める。クフフと笑い、綱吉の頭を撫でた。
「俺のアイス…」
「独り占めするのが悪いんですよ。ほら、早く手を洗ってきなさい。それとも僕が綺麗にしてあげましょうか?」
ふてくされた表情の綱吉の手を持ち上げる。べたついた指先に舌を絡め、口に含み愛撫する。
読みかけの本がパサリと地面に落ちた。
「む、むくろ!?」
驚いた綱吉は顔を赤らめ、掴まれた腕を引っ込めて後ろに飛び退いた。
「やめろよっ」
「おや?残念ですね」
「うぅううるさい!洗ってくる!」
振り向いて逃げるようにパタパタと走り出す綱吉を骸は笑顔で見送り、いつの間にか自分の手にもついてしまったクリームを舐めとる。
(甘い…)
煽ったつもりが煽られた。
ビクリとふるえた時の彼の表情に不意をつかれてしまった自分に苦笑する。
本を拾い上げ、空を仰ぎ見ながら、再び冷たいクリームを口に含んだ。
END.
(砂糖のように甘い君)
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