壊れてそして | ナノ
■ 予想外の繋がり

「ねぇ〜赤葦、貴田春瀬さんって知ってる〜?」
場所は梟谷高校体育館。男子バレー部のマネージャーである白福雪絵が突然、赤葦にそう問いかけた。彼は二年生であるにも関わらず正レギュラー正セッターの座を獲得し、更には副部長という実力者である。さて、そんな彼だが部活後のモップ掛けをしていると先輩である彼女から先程の質問を急に受けた。思わず、は?と言いそうになったのはここだけの話だ。
「貴田、春瀬さんですか。すみません、分からないですね」
「そっか〜てことは、やっぱり三年生なのかもねぇ」
「そだね。おーい小見ぃ」
もう一人のマネージャーである雀田かおりが、近くにいた三年男子に声をかける。
「あ?なんだよ」
「あんたさ、貴田春瀬さんって人知らない?」
「貴田?あー……なんか、聞いたことあるような、ないような…」
「おっ!まじ!」
「もしかしてそいつ女か?」
「そー!!やった!もしかして分かる?!」
「俺じゃなくて多分木葉がそんな名前出してた気がする。おーい木葉!!」
聞けば聞くほど、次から次へと。呼ばれた木葉はネットを畳んでいた途中のようで少し待てと手を上げた。
「もしかしてその貴田ってやつ、不良か?」
「んーわかんない…けど、そんな感じなような、じゃないような……」
「どっちだよ。まぁほら、木葉は中学の時プチヤンだったからそういう奴詳しいと思うぜ」
「え、あいつってそうだったの」
そんな話をすると話の彼が近付いてきた。あちぃと上着の裾で汗を拭う。雪絵とかおりがニヤニヤしながら彼を見た。
「え、何だよ」
「ふーん木葉ちゃん」
「あんた元ヤンだったんだぁ、しかもプチ」
「は!?誰がそれをっ………小見、お前かぁぁぁあ」
「ふゅーふゅふゅ〜」
「小見さん、口笛出来ていないですよ」
「冷静につっこむなよ赤葦。恥ずかしいだろ」
からかわれているような(いや、実際からかわれているのだが)マネージャー二人のにやけ顏に、木葉は心底恥ずかしいというように顔を赤くしながら小見を睨む。彼はそんな木葉の眼光を物ともせず楽しげに眺めた。
「いいじゃねぇか減るもんじゃないし」
「俺の心がすり減るわ黒歴史だわ!!」
「ねぇねぇ喧嘩強かったのぉ木葉たん〜」
「腰パンオラオラ系だったの木葉〜」
「やめろぉーー!!!」
聞きたくないとマネージャー二人の頭をチョップする。しかしそこはやはり、女子ということもあるだろう弱い力でだ。雪絵もかおりもその彼の反応が面白くてケラケラ笑う。
「はぁ〜ごめんごめん。あんね、聞きたいことがあるの〜」
「やめろよまじで。なに」
「木葉さ〜貴田春瀬さんって女の人分かる?」
その名を聞いた瞬間、誰から見てもすぐ分かるくらい、木葉の表情がピシリと固まる。そして首をぎこちなく動かして、雪絵を見た。まるでギギギと機械のような擬音を立てそうな動きだ。
「………なんで?」
「なんでって、えっと、この前会ったから……なんだけど、」
「どしたのあんた」
「会ったって、」
まじか…と心底驚いたような声で言葉を溢す。これは十中八九知っているだろう。
「いやね、この前岬んとこの不良三人組に絡まれたんだけど助けてくれたわけ」
「うわ、そいつらよく喧嘩売れたな」
「ていうか最初マスクと眼鏡つけててさ、それを外して貴田さんって気付いたみたいで、そいつらめっちゃ後悔してたのよ」
「そりゃするだろ」
木葉は自分の腕を摩り、何処の馬の骨か知らないが御愁傷様であると思った。がしかし、ウチの大事なマネージャー二人を怖がらせた罰だなと思い直した。勿論恥ずかしいので言葉にはしない。
「なになに、木葉知り合い〜?」
「知り合いではない」
「やっぱり不良の間で有名なだけ?」
「有名っちゃ有名だけど俺が知ってる理由は単にボコられたことがあるから」
「え」
雪絵とかおり、大人しく聞いていた小見と赤葦も目を丸くしてその言葉に反応する。木葉は気まずげに言葉を続けた。
「あ〜……でもあれよ?誤解でよ?」
「誤解?」
「おお。中学ん時につるんでた奴が貴田春瀬の友達いじめてたみたいで、一緒にいた俺がそいつと勘違いされて一発殴られた」
「えぇ〜酷くないそれ」
「でもすぐ誤解とけてすげぇ謝られたから。あと、俺も知ってていじめ止めれなかったから悪いよ」
気まずそうに頭を掻く木葉。あまり聞かれたくない思い出なのかもしれない。
「悪い奴ではないのは知ってる……けど!!喧嘩中の貴田春瀬は怖い、すっげー、怖い…!!」
「おお…まじか…」
「でも女性の方なんですよね。なのに強いんですか」
「力が強いのは勿論だけど、そもそも頭がキレる。あと迫力がある」
「どんなだよ。俺の中では筋肉マッチョ系女子のイメージで固まってるぞ」
「いや〜」
「凄く美人な人だったよ〜」
「どんなだよ」
大して興味がなかった筈なのに、思わず赤葦と小見も会話に加わってしまう。不良界で超有名、男さえも潰す、悪い奴ではない、迫力があり怖い、けど美人。どういうスペックだと気になってしょうがない。そんな彼等の元に、大きな声で歌を歌いながら近づいて来るバレー部主将、木兎光太郎がやってきた。彼は木葉達の妙な空気に気付いてなんだなんだと声を上げた。
「へいへいへーい!!どうしたお前等!!!」
「うぉっ木兎」
「俺もう腹減ったぁ〜帰りコンビニ寄ろうぜぇ!!」
元気が有り余っているようにその場を跳ねる木兎。確かに言われてみれば空腹だ。
「そだね。帰ろっか」
「結局貴田春瀬って何者だよ…」
「お??へいへい春瀬ちゃんって、黒尾の春瀬ちゃんかー?」
「は?!」
本日何度目の驚きだろうか。まさか木兎が知っているとは、その上チャン付け、そして聞き逃せないのが、
「…………黒尾さんの…?」
「へいへいあかーし、お前よく俺と黒尾が春瀬ちゃんの話ししてる時横にいるだろー!!」
「すみません、お二人の会話に興味がなくて」
「ひどいな?!」
いつもなら赤葦に冷たいことを言われる木兎を笑っているところだが、今はそれどころじゃない。木葉が木兎の肩をガシッと掴む。
「貴田春瀬、黒尾と付き合ってんの?!?!」
「お??付き合ってはないって聞いたけどありゃー付き合ってるよーなもんだろ!!わっはっはっ!!」
「どゆこと?!」
「チョー仲良い幼馴染みだぜ!!」
黒尾が話す春瀬ちゃんの話おもしれーから飽きないんだよな〜と楽しそうに笑う木兎。MAX100%ビックリである。知り合いどころかまさかの幼馴染みときた。それにかなり距離が近そうだ。この話を最初に出した雪絵とかおりは東京も狭いもんねぇと驚き反面、感心した。


そしてこの時にはまさか、近々再会することになるとは思いもしなかっただろう。
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