壊れてそして | ナノ
■ 想う事告げる事

「おめーら早く出ろー。鍵閉めるぞ」
「「「うぃーす」」」
部活終了後、各々着替えを終えて帰る支度をする。帰りコンビニ寄りましょう!と特徴的な髪型をする二年次山本が声をかける。それに同意する者や、俺はパスと言う者。そんな声を軽く聞き流しながら、黒尾は部室のドアに鍵を差し込んだ。
「………」
「?なんだ研磨。忘れ物か」
「ううん。別に」
研磨がスマホを片手に、黒尾のすぐ横に立っていた。いつものようにただ彼のことを待っている、そんな雰囲気ではなく、何か聞きたげに黒尾を見つめる。
「なんだなんだ。居心地悪ぃ」
「クロ、今日掃除時間に告白されてたでしょ」
「…………そーいうことね」
しっかり鍵がかかったかドアノブを掴んで引いてみる。ビクリとも動かないのを確認すると黒尾は地面に置いていたエナメルのカバンを持ち上げた。
「なんて断ったの?」
「別に。今は部活のことで精一杯だって言った、つーか珍しいなお前が俺の告白云々に興味をもつの」
「別にいつもならどうでもいいよ」
「はっきり言われたら言われたでなーんか微妙だねぇ。……ん?じゃあ今日は?」
「今日は俺と、ハルも見てたから」
は?と素っ頓狂な声をあげて黒尾は歩みを止める。つられて研磨も一緒に止まった。
「………………ハル?って、あのハル?」
「うん。ハル。」
「………へぇ」
ボリボリと頭をかいて、少し気まずそうに、黒尾はまた歩き出す。研磨もまたそれについて行きつつ、リュックからゲーム器を取り出し、起動させた。
「あー…………どうだった?」
「…なにが?」
「ハルさん、何か言ってたか?」
「別に何も……。クロはモテるなとは言ってたよ」
「……ふぅん」
しばしの沈黙。別に黒尾が告白されている現場を春瀬に見られたのはこれが初めてでもない。過去にも一回か二回はあったはずだ。研磨はため息をついた。
「…………いい加減言えば。ずっと何もしないつもりなの」
「ずっとなわけあるか。………でもなぁ」
「まぁ……クロの思ってること分からなくもないけどさ」
「だろ?長い間培ってきた関係を変えるのって、なかなか難しいぜ」
長い間想いを持ち続けるのと、その想いを告げるのとはまた別の話だ。黒尾は春瀬との今の関係が変わってしまうのは嫌だった。行動を起こす前からそんなことを考えるなんて意気地なしなのかもしれないし、黒尾鉄朗は本来そんな男ではない。だが、貴田春瀬という想い人に対してだけは違った。
「今のあいつに言ったとしてもだ」
「うん」
「俺からそんな言葉聞いたら、絶対に離れるんだよな。色々と考え込んで遠慮やら何やらして」
「………」
ピコピコとゲーム音が側から聞こえる。真摯にコメントを返してくるよりも、聞いてないようで静かに聞いているこの幼馴染の性格に黒尾はしばしば、助かっていた。勿論、困ることもあるのだが。
「遠慮っつーか、多分、なんつーの。あいつ俺にめちゃくちゃ甘えてるとか思ってると思うわけ。」
「うん」
「俺としては全然そう思ったことはないし、寧ろもっと甘え倒したいところなんだけど」
「気持ち悪いよ」
「へぇへぇ。とりあえず俺が今はもし想いを伝えたとしても、ハルは断るだろうしガチで離れると思うわけ」
「そうだね。俺もそう思う。けどさ、いつまでそうしとくわけ」
「それな〜」
難しいよな〜と大きな身体を伸ばす黒尾。ゴキッと背骨が鳴る音がする。追い打ちをかけるように、研磨はゲームのコマンドに指を動かしながら言った。
「うかうかしてたらさ、他の人も動いちゃうよ。ハルだってクロみたいにモテるの知ってるでしょ」
「知ってますよ〜そんなの俺が一番知ってますぅ〜」
前方で部活仲間が手をブンブンとこちらに振るのが見える。すぐ行くと黒尾も手を挙げる。
「……………ハルはさ、中学の頃に比べたら今、随分変わったじゃん」
「あぁ〜あの他人との壁が凄かった時期な。通称ハルリンの壁時代」
「なにそれ」
「ハルの中学時代はあいつと俺の間ではそう呼ばれてるの。ベルリンとかけた的な?」
「………知らないけどさ。とにかく、中学校の頃のハルをさ」
「ああ」
「今のハルにしたのは、クロでしょ」
ステージをクリアしたようで、画面からミッションコンプリート!≠ニ明るい声が聞こえる。研磨は黒尾を見上げた。
「だからまた、変えればいいじゃん」
その研磨の真っ直ぐな言葉に、黒尾は目を丸くする。そして困ったように笑った。
「お前も大概、好きよね」
「………何を」
「ゲームだよ、ゲーム」
「…絶対違うでしょ。」
「んー」
研磨の頭に手を乗せる、鬱陶しそうにその手は叩かれる。前にいた仲間達の後に、二人はコンビニに入った。
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