壊れてそして | ナノ
■ 漢字の不思議

「ねね、クロぴークロたんクロ黒尾ー」
「うぇーい?」
「春瀬さんの気になって気になって夜も眠れない事きいて」
黒尾の机を挟んで向かい合わせになりながら、春瀬は机に突っ伏してポソポソと話し出す。机に散らばる髪を見て伸びたなと思いながら、返事をする。
「なんだよ」
「うん。昨日保体で鬱の話が出たの」
「おお」
「……昨日だっけ?」
「……いや、黒尾君は知らんぞ他クラスの授業事情なんて」
「まぁいいや」
「うぇい」
「私はだな黒尾君。鬱って漢字を初めに作った人が誰か気になる」
沈黙。今までちゃんと相槌が帰ってきていたのにと不思議に思って春瀬はチラッと黒尾の顔を見る。何とも形容し難い顔をしているではないか
「ハルちゃんごめん、全く気になんねーな」
「うそん」
なんでや〜と突っ伏しながら彼女は黒尾の腕に手を伸ばして揺さぶりはじめる。片手で紙パックのジュースを飲みながら、黒尾はなんだこの生き物はと思っていた。
「スマホで調べろスマホで。現代人の武器だろ」
「調べたんすよ。でも答えがないんすよ」
「あら調べたのね。お早いことで」
「ありがてぇお言葉じゃ」
「じゃあ諦めろ」
この話はお終いだと、黒尾は飲み切ったパックをグシャリと潰した。春瀬はえーと非難の声を上げた
「図書館にも行ったんだけどわかんなかった」
「お前のその時折発揮される謎の真面目さはなんなの」
「それみーちゃん達にも言われたましたなぁ」
「みーちゃん?ってよくつるんでるギャル?」
「そそ、みーちゃんとゆっこ」
「お前あの2人といると逆に目立つよな」
「うっそ」
先日生徒指導に捕まっていた(いつものことだが)春瀬は、身なりはまぁそれなりにだらしないものの、あそこまでケバくもないしギャル感はない。それ故に3人で歩いてる時は寧ろ少し地味目に見えてしまうから不思議だ。全員頭のゆるさは似ているが。
「誰だー誰なんだ鬱という字を作った奴はー」
「あ、まだその話続くのね。」
「授業暇な時にたまに考えるんだよねこういうこと。黒尾の黒は、里君っていう人の下の毛が四本生えた時に出来た漢字なのかなとか」
「俺の名字の一部を毛生え記念日にしないでくれない」
「………尾っていう字にもそういえば!」
「…毛っていう字が入ってる!!じゃねぇよバカ」
周りにいるクラスメイトが2人の掛け合いに肩を震わせてることなんて露知らず、当の本人達はそのまま会話は続行される。
「あ、豆知識あるよ私。豆知識。鬱って漢字覚え方があんの」
「それは多少興味があるので教えてみなさい」
「うむ。『リンカーンは、アメリカンコーヒーを、三杯飲んだ』って順番で書いてみて」
「三杯も…?リンカーン下痢にならない…?」
「思った……?心配だよね…じゃなくて書いてみて」
「うぇーい」
何かのノートを出して、紙の上でシャーペンを走らせる。春瀬は、この人男の割には字が綺麗だよなぁと思いながらアメリカを米にして〜、と順番に指示を出す。
「………おお、書けた」
「ね、ね、凄くない」
「リンカーンがアメリカンコーヒー派なことにも三杯飲んだ事にも衝撃だし覚えやすいなこれ」
「でしょ。この豆知識、星、いくつ頂けるでしょうか……!!」
「……ほしっ」
「どきどき」
「ふったっつ!!」
「えぇーーーーーー「うるっさいなお前等はほんとに」
気が付くと机の側には夜久が立っていた。その手には大量のパンを持っている。ジャンケンで負けた人が購買で買って来るという勝負をし、見事彼は負けたのであった。
「黒尾と貴田が揃ったら茶番がやかましい」
「しどい。パンありがと夜久君〜すき〜」
「うぜぇ」
「やくもんパンありがと〜すき〜」
「アンパンマンみたいな韻を踏むなこの野郎。海は?」
「委員会」
食うぞと夜久も椅子を引いて座る。いただきまーす、と3人仲良く声を合わせた。


「ところでクロ、なんで星二つしかくれなかったのさ」
「くだりが長くて飽きてた」
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