2015/12月
「手編みのマフラーなんて、良かったのに、」

作るの大変だったでしょ?と聞かれて、私は首を振った。
大変だったことなんてない。だって。

「貴方のことを、考えていられたから」

「そっか」

喜助さんはそれだけ言って、でも嬉しそうに目を細めて私を見詰め返してくれる。
この瞳が、好き。
昔からそう。この瞳で、こんな風に見詰められたら、恥ずかしいけれど、でも嬉しくなる。
けど、やっぱり恥ずかしい。だって、最初の頃を思い出すから。もっと甘えていいから、と言われたときのことを。
独りで居なくてもいい、泣いてもいいんだと教えてくれた私の大切な人。
思えば、私はあの時から、この人に惹かれていたんだ。

ふわりとマフラーを互いの首に巻き付ける。

「喜助さん、お誕生日おめでとう」

「ん、」

ーーー喜助さん、
生まれてきてくれて有り難う。
私と出逢ってくれて有り難う。

たくさんの想いを込めて、そっと触れるだけの口付けを交わす。
喜助さんは、もっと、と強請るように私の背中に右手を回してきた。
マフラーが首に絡んだままで、外そうとした私の手を喜助さんがやんわりと阻む。

「日付が変わったら、このまま初詣にでも行きませんか?二人で」

「ふふ、それもいいかも。でもね、喜助さん。・・・二人じゃ、ないわ」

「え?」

驚く彼の手を取ってお腹に当てる。

「・・・風華、それって・・・、」

こくり、と頷くと喜助さんはぎゅうぎゅうと私を抱き締めて。

「喜助さん、苦し、」

「最高のプレゼントだ、」

「・・・喜助さん、」

「ありがとう、風華」

きつく抱き締めてくる喜助さんの声が、少し掠れていて。
私も涙が滲んできた。
不安だったのかもしれない。喜助さんが喜んでくれるだろうかって。
でも、そんなことは杞憂だった。
こんなにも、愛されているのに。
堪らなく嬉しくて、喜助さんの胸に擦り寄る。

「風華、」

喜助さんの少し潤んだ綺麗な翡翠の瞳がじっと見詰めてくる。
私はそっと瞼を閉じて、またその唇が触れてくれるのを待つ。薄い唇で覆われて、下唇を咥えられる。開いた隙間から、彼の熱い舌が滑り込んできて、体の奥がじわりと疼く。
彼の作務衣の襟元をきゅっと握り締めて、私も舌を伸ばそうとしたとき。

柱時計がぼーんぼーん、と鐘を鳴らす。

「あ、」

ふと、どちらともなく唇が離れて、反応した二人の声が被った。
その合間にも間を置かずに鐘は鳴り続けている。
全部で十二回。

「・・・それから、今年も宜しくね」

「こちらこそ、不束者ですが宜しくお願いします」

音が止まったところで、二人で顔を見合わせて笑って、そのままじゃれ合うように畳に転がって、また笑いあう。

今年もまた真っ白なページに、たくさんの想い出を詰め込んでいこう。
二人で。・・・ううん、皆で。


新しい一年が、今、始まる。






(Happy Birthday !!)


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