四十八手
*首引き恋慕*
向かい合って互いの体を繋げたまま、上体を後ろへ反らす。
そうしなければ、首にかけた赤い紐が落ちてしまいそうだから。
両手を後ろについたまま、彼が回すような動きで腰を揺する。それに合わせ、結合部から、くちゃりと甘く融け合う音がした。
「恋慕う相手との、駆け引きでも、楽しんでたんですかね」
首にかけた紐を一瞥しながら喜助が呟く。
どこか独り言のような物言いにも聞こえたが、問いと判断して風華なりの考えを巡らせる。
「駆け引きというよりは、内密の逢瀬ではないかしら」
「内密ね、なるほど」
首引き恋慕ーーー互いの首に紐をかけたまま、向かい合って体を繋げる。
喜助に促されるまま、首にかけたものの、この紐が快感につながるとは思えない。
ただ、この紐を首にかけるという行為には、意味があると彼女は感じるのだ。
「もしくは、離れない、という意思表示か」
その昔、遊女が恋しい相手に、髪を、指を切って贈ったという逸話のように。
首という人体の急所に、拘束具をかけて無防備なまでに互いを引き合う様は、『命を共に』という痛烈な意味合いを伝えているかのようで。
『恋しい』を突き詰めた結果ではないかと思うのだ。
自身がもし、遊女であったら。
そのときに喜助に出逢っていたら。
互いの命が欲しいと思える程に、想い合えたなら。
ーーーーなんて、
ーーーーなんて、素敵なことだろうか。
そう考えてしまう自身は、やはり可笑しいのだろう。
もうずっと、彼に狂わされてしまっているのだから。
「ああ、その方がいいね」
余計なところまで思考を馳せかけていた風華を、喜助の熱を孕んだ声が呼び戻す。
かけた紐を指先でそうっと繰り返しなぞりながら、すっと視線をこちらへ流してくる。
「アナタも?」
欲の灯った緑柱色の瞳に見詰められると、得も言われぬものがぞくりと背筋を走る。
それを隠すように少しばかり大袈裟に溜め息をついた。
「もう。何度も言わせないで。離す気も、離される気も、ありませんから」
「上等」
「や、まって、・・・あっ、ん、ァっ、」
彼は首にかけた紐を手繰り寄せて風華の首を無理矢理引き寄せるなり、唇を重ねてきた。
その瞬間に、彼女は身を離すことを止めた。
ねっとりと絡む舌の熱さに、繋がる躰の熱に、膚を這う指先に、すべて委ねてしまいたいと願ってしまったから。
首にあった赤い紐は、いつの間にか、二人の体から滑り落ちて畳の上に環を描いていた。
それは、まるで永久に切れぬ二人だけの世界を表すかのように。
← 39/48 →