流星の導き

しとしと。
ぱたぱた。


雨はまだ降り続いている。
湯呑みがほぼ空になったとき、珍しく卯の花に声を掛けられた。

「跡さん、あれからどうですか」

「・・・あれから、ですか?」


何か卯の花に話していたことがあっただろうか。
彼女は首を傾げながら、最後の一口を含んで。


「ええ。浦原隊長とお付き合いなさってるでしょう?」

「ちょ、卯の花隊長!何の話ですか!?」


予期せぬ質問にもう少しで茶を吹き出してしまうところだった。
噎せてしまった風華の背中を軽く叩きながら、彼女はいつもと変わらぬ風に微笑んでいる。
からかっているわけでは、ないらしい。


「そんなに驚く質問かしら」

「いえ、あの、ちょっと予想できなくて」

「それで、どうですか?困っていることはありませんか?」

「いいえ。彼は、私には勿体無いぐらい素敵な方です」

「そう」


卯の花はそっと睫毛を臥せた。
白い肌によく映える彼女の艶やかな黒髪に、ずっと憧れていた。
今だって、そう。
けれど、風華は自身の髪だって気に入っている。
母から受け継いだものだから。


「はい、だから大丈夫です」

「本当に、心配なさそうですね」

「いつも、ありがとうございます。烈姉さま」


そう呼ぶと、卯の花は目を丸くして、それから珍しく、心から嬉しそうに笑ってくれた。

小さい頃はずっとそう呼んでいたのだ。
彼女も『跡さん』ではなく『風華』と呼んでくれていた。
いつの頃からか、呼ばなくなっていた。
そうして、いつの頃からか、卯の花を遠ざけるようになっていた。
両親のことを思い出してしまうから。
卯の花に憧れているし、恩も感じている。
けれど、頼りきってはいけないという思いと、両親がいない寂しさから目を背けたくて、ここ数年は仕事以外にはあまり顔を会わせなくなっていた。

本当は話したいこともたくさんあった。
けれど、掌から零れ落ちる砂のように、『当たり前』だったことが、するすると落ちていって、どんな風に声を掛けていたのかも分からなくなっていった。

その距離感に虚しさを感じていたのは何も風華だけではなかったようだ。


「構いませんよ、貴女が幸せなのでしたら」

「はい」


小さい頃のように話が出来ることが嬉しくなって、風華は弾けるような笑顔をみせた。



しとしと。
ぱたぱた。


不規則で、断続的なそれは、けれど嫌な音ではない。
この雨は人の心の蟠りまで洗い流してくれるのだろうか。
流しきった後は、綺麗な星空を見せてくれるだろうか。


しとしと。
ぱたぱた。


雨はまだ、降り続いている。




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