流星の導き
しとしと。
ぱたぱた。
天気はあいにくの雨模様。
空全体が鼠色で塗り潰され、気持ちまで滅入ってしまいそうだった。
口に放り込んだ砂糖菓子を噛み砕くと、いくらか気分は上昇した気がする。
数日前にもらったそれは、小さな包だが、まだ殆ど手付かずだ。
食べたときに甘さが口の中だけでなく、胸まで広がってしまうのは、もらったときのことを思い返してしまうからだろう。
砂糖菓子より、余程甘くて、あまりされても胸焼けしてしまうのではないかと、風華は密かに心配している。
その日、風華は雑務処理をこなしていた。
基本的に雑務処理は新人の仕事なのだが、その日は休暇の者が多く、手が空いているものがいなかった為、彼女が代わりに行っていた。
「卯の花隊長、終わりました」
「ありがとう、跡さん。丁度お茶を入れたところなのだけれど、どうかしら?」
「あ、いただきます」
纏めた書類を手渡して、煎茶を受け取る。
雨のせいか、肌寒く感じていたところだったので、熱めに入れられたそれを口に含むと和らいだ気がする。
「雨、止みませんね」
「そうですね」
しとしと。
ぱたぱた。
窓を叩く音が詰所に響く。
今は風華と卯の花しかおらず、元々物静かな人物なので、話に花が咲くことはない。
それでも、風華は卯の花の側に居ることが好きだ。
静かに、ただ冷静に物事を見極める。
だが、ときに苛烈すぎるほどの酷しさを見せるその様子に憧れてきた。
初めて会ったとき、彼女は母にこう紹介された。
『わたしの友人なんだけど、一言でいえば、苛烈。そういう人よ』
『かれつ?』
『そう。激しいって意味』
『そうなの?』
『普段は穏やかなんだけど、たまにね、怒るとこわーいのよ』
『あれは僕も驚いたなぁ。君より怖いぐらいだよね』
『ちょっと、あなた!』
隣で聞いていた父も首を大きく縦に振りつつも、母に叱られていたと思う。
その後表れた人物は、まったくそうは思えなかったが、隊に入ってから知った。
確かに『苛烈』というに相応しいと。彼女の名である『烈』という字は伊達ではないのかもしれない。
そういえば、彼女と初めて会ったときもこんな雨模様だった気がする。
けれど、灰に覆われた空の代わりに、庭の紫陽花が空色に咲き乱れていて、綺麗だったのを覚えている。
← 3/9 →