百八本目の薔薇の花束を君に、
「・・・美味しそう」
「んっ、ふ、」
部屋に戻るなり、彼はそう言って執拗なまでに風華の唇を舌先でなぞる。
紅が取れてしまうのではないかと思うほど、丹念に舐める。
「唇が赤いだけで、どうしてこうそそられるんですかね」
最後にちろりと舌先で擽るように舐めた後に、唾液で濡れたその唇を自身の親指の腹で拭う。
その動きにさえぞくりとして背筋が跳ねた。
「ん、・・・プリンセスローズワイン、て言うんですって」
「へ?何が?」
「この口紅の色の名前です」
「・・・そーゆーコトっスか」
姫薔薇、と言われて風華がイメージしたものは一つしかない。
まったく可愛いことしてくれますね、と笑って彼はまた唇に舌を触れさせる。
何度となくそれを舐める合間に、ベッド際へ追いやられていたらしい。膝裏がそれに触れたと気付くのと同時に柔らかなスプリングの上に押し倒された。
「喜助さん、待って」
「無理、」
にべもなく断られて胸に大きな掌が押し付けられる。
指先でその弾力を楽しむようにやわやわと触れてくる。
「んっ、ぁ、」
下唇をふにふにと食みつつ、柔らかな乳房が揉みしだかれる。体の芯が火照り、次第に胸の頂きが尖り始める。ドレスの上からそれを弾かれて、背が跳ねた。
「あっ!」
「もう感じてるの?」
「や、だって、」
かりかりと引っ掻くような彼の指先の動きに、尖端がじりじりと痺れてゆく。服の摩擦さえ甘美な刺激になり風華はその身を焦がしてゆく。
焦らすような触れ方に、内腿を擦り合わせて耐えていると、もう片方の掌が下腹部を撫で回してきた。
「あ、だめ、」
「お腹擦ってあげてるだけっスよ?」
くつくつと喉を震わせて、男はつうっと人差し指で恥骨を辿る。
鎖骨に舌を這わせて、谷間の近くに吸い付く。
ちりついた痛みで花が散らされたことを知る。
その合間にも何度も胸の尖りを擽られ、下腹部をゆるゆると撫でられる。
「喜助さん、っ、」
「んー?」
間延びした声は、まだ彼が遊んでいることを示している。
「お願い、もっと、」
「もっと、なぁに?」
「もっと、ちゃんとして、」
もどかしい刺激ではなく、もっと強く快感を呼び起こす刺激がほしい。
もっと強く、求めてほしい。
もっと強く、愛されてたい。
「そんな顔して誘われたら、堪んないな」
焦れったさか、或いは情欲にか。
知らず、瞳が潤んでいたようだ。
服を剥かれ、胸を強く掴まれる。尖った先端を舌が弾き、もう片方の先端は指先で摘ままれる。
「あ、あぁっ、んんーーーー!!」
刺激に耐えようと顔の横でシーツを掴む指先にぐっと力が隠る。
胸に何度も吸い付かれ、無数の紅い痕が残る。
「こっちももうドロドロかな」
膝裏を抱えあげられて脚を開かされる。
びり、と裂けた音がして驚くと、ストッキングの中心が裂かれていた。
「や!何して、あっ、ああ!」
ストッキングの裂け目から露出した黒い下着を「黒っていうのもなかなかそそるもんですね」と繁々と眺めている。
その下着の上から長い指先がすりすりと擦ってくる。ぞくぞくと背筋を震えが走り抜け、その度に割れ目から蜜が溢れては下着がべったりと張り付く。
「風華ったら、やらしいなァ。形までクッキリ浮かび上がってますよ?」
にたにたと口許を歪める喜助の言葉にも翻弄される。ほぼ毎晩同じようなことを言われているはずなのに、一向に慣れない。どころか、言われることを望んでいるかのように、喜助のその追いたてるような言葉に体は悦びを示す。
「見ないでったら、ぁん・・・っ!」
「我慢しないでいいんスよ。風華がここから蜜を溢すのを見といてあげますから」
喜助はショーツを指に引っ掻けて紐状にすると、それを割れ目に擦り付けるように引き上げる。
「あ、あ、や!それ・・・、だめっ、あァ、ん!」
「おやおや、シーツまで伝ってますねぇ。勿体ない」
「ひっ、や、ぁあっ!吸っちゃ、やぁああ!」
ショーツを割れ目に食い込ませたままに、じゅるじゅると吸い付かれる。がくがくと腰が揺れる。
「だめ、やめ、ああっ」
割れ目の際を舌が丁寧にねぶってくる。
また、どろりと蜜が溢れ、下着から染みでてゆく。
「こんなのでも気持ちいいなんて、本当にやらしい体だ」
「んっ、ふぁ、・・・あ、んん!」
こんなの、と強調するようにぐっと上に引き上げられる。
駄目。これ以上されたらーーーーー
「あああっ!!!」
ショーツを引き上げる手が離れ、ほう、と風華が息を吐き出したときだった。
直接愛芽に歯を立てられたのは。
その強烈なまでの刺激に、風華は呆気ないほどあっさりと気をやってしまった。
どっと全身から汗が噴き出し、力が抜ける。その脚からするりと下着が抜き取られる。
「風華、いい?」
「っあ、」
熱い塊が入り口をつつく。
靄がかかったように上手く機能しない脳から、頷いて、と指令を受けた首が縦に振れる。
「あぁ、っ、んっ、」
喜助は膝立のまま、彼女の腰を持ち上げて引き寄せる。
いきなりの深い挿入に脳まで揺さぶられる。
「くっ、今日も、・・・いい具合だ、」
「あ、あぅ、んぅ!や、」
腰を高く持ち上げられているからか、最奥と内部の前面を同時に攻められてしまう。
男根が行き来する度に、泣き出しそうなほどの痛烈な刺激が全身を駆け巡る。
「どう?ここ、好き?」
「あ!あぁっ、やぁ、そこ、っ!!」
肉棒を半分程差し込んだ状態で、彼女の腹を上から押さえつけるように撫でつつ、下から押し上げるようにこつこつとついてくる。
「あ、ぅああっ、ひゃ、んんっ、ぅんっ」
「はは、今イったでしょ?」
「はぁ、ぁ、」
「でも、まだだよ」
突然ぐっと体を折った喜助は、また深く、浅く、挿入して、彼女の胸の頂に舌を這わせた。
「あ!!だめ、もうっ、やぁっ!んぅ、」
風華の声など聞こえていないかのように、喜助は唾液を絡めてぺちゃぺちゃと舐める。
先程からもう何度も絶頂を迎えている体は、その飾りをしっかりと尖らせ、快感に身悶えている。
そこへ執拗な舌での愛撫は、最早風華にとっては快感以上に仕置きに近いほど。
はらはらと涙が溢れていく。
「泣くほど気持ちいい?」
「や、こわい、の、」
「ん?」
「こわい、ぁ、からだ、へん、なのーーー!」
「大丈夫。もし、変になっても、ボクが助けてあげるから。」
ーーーーー何度でも。
合わされた唇の中で、その言葉を聞いたのと、下腹部の奥に熱いモノが満たされたのを感じつつ、風華の意識は真っ白になった。
「やっと、アナタとひとつになれた気がする」
「私も、」
大きな掌がゆるゆると下腹部を擦る。
擽ったさに身を捩れば、火照った肌をひやすように上質なシーツが纏わりついた。
「いつか・・・ごめん、なんでも、」
「産ませて、貴方の子」
言い淀んだ喜助の言葉の先を紡ぐ。
「・・・風華、」
「貴方はもう罪人でも裏切り者でもないわ。それどころか、貴方は私を、私たちを救ってくれた人」
「そんなことは、」
彼が反論する前にその唇を塞ぐ。
喜助が未来を約束してくれたのだから、それに応えない訳にはいかない。
「だから、もう、私の負担になるなんて思わないで。この体も、元に戻してくれていいの」
「気付いてたんスか」
当たり前だ。気づかない方が可笑しい。
こんなに身を寄せあっていて、何もない訳がない。向こうにいた頃は気を使っていた節があったにも関わらずだ。
「喜助さん、」
「ん?」
「家族になりましょうね、きっと」
「うん」
どちらともなく唇を交わし、二人はそっと身を寄せあっていた。
その日彼女が見た夢は、白い花が咲き誇る中、彼女をよく知る少女がその白い花で花束を作ってくれている夢だった。
二人の未来を、祝福するように。
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