愛を教えて、
一騒動どころではない騒ぎを起こして技術開発局が創設されてから、半年余りが経った。
まだまだ組織に馴染まないその部署に助け船を出す為、かどうかは定かではないが、卯の花が打診したのは新薬の開発だった。
その開発協力者として喜助に指名されたのは、顔見知りであったことと、末席とはいえ、席次があったからだろう。
四番隊に知人はいないのかと問えば、「だってボク、怪我とかしませんし」とあっけらかんと言われてしまっては返す言葉もない。確かに、相当な実力者であろう彼がおいそれと怪我をする場面など想定もできなかった。
そうして週に一度は技術開発局に、というよりも局長室に通うようになった。ある程度話がまとまれば、局員に引き継ぐのかと思いきや、最後まで彼が請け負うらしかった。
医療には詳しくないから、なんて喜助は言っていたが、実際に話をしてみれば、並の四番隊局員よりも人体の構造に詳しいのではないかと思う知識量で、風華は内心舌を巻いていた。
その上、席次についてからは、あまり学ぶことも少なくなっていた今、分野外とはいえ、合間に聞く喜助の話も楽しくなっていた。
だから、少しだけ、残念だと感じてしまったのだろう。
「え、浦原隊長、今なんて?」
「ですから、これで最終調整に入るので、この仕事も終わりですよん。」
最後に、ありがとうございました、と言われて、慌てて「こちらこそ」と返事をしたものの、ちゃんと取り繕えたかどうか分からない。
「ところで、風華サン。」
「はい」
「今夜のご予定は?」
「今夜、ですか?特に何も・・・」
「じゃあ、新薬開発お疲れ会しません?」
「ま、まだ完成してませんけどね」と肩を竦めてから、彼は何やら書き留めていた書類から顔をあげる。
あの初めてあった夜以来、彼と食事に行ったことはない。思いがけない誘いに風華が戸惑っていると、「二人で」とすっと細められた喜助の視線に捕らえられる。
思わず背筋がぞわりとした。
そんな視線を向けないでほしい。
勘違いしてしまう。
「・・・浦原隊長はよろしいのですか?私なんかと二人で」
「モチロン。それに風華サンだから、誘ってるんスよ」
「あ、ありがとうございます」
顔が紅くなっていないだろうか、と思わず風華は俯いてしまった。
すぐにこういうことを言う人だと分かっていても、反応してしまう。
「それで、風華サン。お返事は?」
「あ、はい、浦原隊長が問題ないのでしたら、喜んで」
「決まりっスね。じゃあ定時の鐘がなったら迎えに行きます。お店は予約しときますんで」
イイ店知ってますから、と片目を瞑ってみせた喜助に、風華も、素直に笑顔を浮かべて「はい」と返事を返した。
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