お弁当。(蘭丸+ガラシャ)

「蘭。」
「え?」

蘭が振り返ると、見覚えのある女の子がいた。
赤い髪に丸い瞳。
手には少し大きめの包を持っている。


「光秀様の御息女様。こんにちは。」
「蘭、わらわの名前、まだ覚えておらぬのか?」
「いえ、そのようなわけでは。」
「ならば、呼んでみよ。」

え?

なんとなく呼びづらかった。

「ガラシャ様?」
「様はいらぬぞ。」
「やはり慣れなくて。」
「なぜじゃ?」
「光秀様は“たま”と呼んでいらっしゃるもので、どうもそれをよく聞いていると。」

「なるほどな。しかし、わらわはガラシャじゃ。ガラシャと呼ぶがよい。」
「わかりました、今度から。」

そう切り抜けようと思ったが。

「今じゃ、今呼ぶのじゃ。」
「え?」

ガラシャは蘭を逃がさなかった。

「言うてみるのじゃ。」


「では・・・が・・・ガラシャ。」

にっこりとするガラシャ。
その笑顔は花のよう。
「よし、今後よりそう呼ぶのじゃ!」

少し照れくさい蘭丸。
その笑顔は本当にかわいらしい。

「蘭、これ。」
ガラシャは手に持っていた包を蘭丸に押し付けた。

「父上の弁当じゃ。渡しておいてほしいのじゃ。」
「なら、直接光秀様に。」
「父上は忙しい。わらわは邪魔をするわけにいかぬ。だから蘭に頼むのじゃ。」

そう言い残すとガラシャは去って行った。
パタパタと小走りで去っていく。
ずっしりとしたお弁当、たくさん愛情がこもっているのだろうなと思う蘭丸だった。

「いいなぁ、光秀様。」

時に、家族の暖かさがうらやましくなる。
蘭丸は早速光秀のもとへ弁当を届ける。

「では、失礼します。」
「蘭丸。」
「はい?」

光秀は中に入っていた小さな包みを蘭丸に渡した。
「どうやら、たま子からだと思いますよ。」
「え?私に?」
「ええ。どうか食べてあげてください。」

少々歪だが、頑張って作った感じのある握り飯が二つ。
少ししょっぱかった。

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