きれはし | ナノ
きれはし

この夢で出会えた君を追いかけて
世界は更に鮮やかになる

宇宙船に浮かぶ泡。
きみと、
ぼくを、
球体の上に滑らせて、
ぷつりと消える。

ハロー、
システムオールグリーン。

世界は今日も美しい。

虹色レンズ越しに見た
楽しげな夕焼け。

ピンクの鯨
スパンコールの潮をふいて
「お嬢さん、散歩はいかが?」

なんて、素敵なお誘いをしてくれるの。

大粒の涙を選んで、
金魚鉢に落とす。

小さな球体の波紋が
ミニチュア銀河を作り出す。

悲しみの輝きはいつだって、

眩しくて見えないもの。

この温かいものを
優しさと呼ぶなら

レンジで温める、この
冷えきったものは何と呼ぶの?

両手から零れ落ちた
言葉の欠片みたいに、
忘れ去ってしまったものが

冷たい温度を孕んで泣いている。

この口は、
ノイズを吐き出すためにある。
傷だらけのスピーカーが
そんなこと言って笑ってる。

ねえ、
僕のヘッドフォンの中で

泣き声が揺れているよ。

あの大きな樹の根本には
大切な宝物があるって、
幸せそうな顔をした女の子。

笑顔を瞼の裏に焼き付けたら、
泥だらけのスニーカー、
ぼろぼろの靴紐を結び直して。

雨が降れば
あそこで雨宿りをしようね。

空に投げ付けた虹の種が
大きな花になる。

深海魚の鱗を持って、
明日、
ピクニックに行こうよ。


進化した尾びれで歩いてゆけるなら。

昔の夢の足跡を辿って、
大樹の根本に腰をおろす。

すべての幸せがここに有るよ。
柔らかくて曖昧で、
母親の体温にも似た優しい世界。

ああ、でも、

もう、行かなくちゃ。

静かに水溜まりを踏んづけて
それでも波立つ薄っぺらい鏡。

虹を映すならきっとそれは甘くて、
夕焼けを映すならきっとそれは暖かい。

母親と手を繋ぐ女の子の、
小さくて、可愛くて、
すこうしだけ泥の跳ねた長靴で、

できるなら、かき乱して。

次に飛び立つのなら、月の都へ。
買ったばかりの紅い靴と、
お母様に貰った白いワンピースで、

幸せの夢をポケットに詰めて。
ありったけの背伸びをして、
星に願う。


しあわせをちょうだい。

唇の端っこから
あぶく、が、ひとつ。
(こぽり 冷たく弾ける音
 こぽり 愛情の離散
 こぽり 忘れられた人の温度)

唇を溶かしていく

虹色のあぶく、が、ひとつ。

空中遊泳する金魚を
小さな両手で捕まえた、あの日。

鮮やかな色彩が
目の前いっぱいに広がって
はじけて、
消える。


そんな毎日のくりかえし、くりかえし。

見上げてばかりのお人形
ネジを巻いて
ネジを巻いて
首の後ろ、小さな灰色の。

甘すぎる世界で窒息してしまいそう
見渡す限りの青空が私を責める

泥だらけのスカートを翻すあの子が、
羨ましくて仕方なかった。


ネジを、巻いて。

泣き腫らした目に
青い空が、痛くて堪らない。

人の居ない交差点で
深呼吸、いち、に、さん……
雨の匂いと風の唄。声。命。

夢から醒めることだけが、

僕は正しいものだと追い掛けていたのに。

時計台の鼓動を聞いた。
銀色の宇宙船に似た冷たいかたち。
幸せを包む手のひらと、
負けん気の強い男の子。

忘れ物は確かに見つけた筈。
なのに、
隠れん坊はまだ終わっていない。

あの街では夜を作っています。
青空に暗幕をかけて、
ひとつひとつ星を縫い付けて、

仕上げにほら、まん丸お月様。

あの街は今日も夜を作っています。

崩れた鏡の世界の中で
君はずっと赤い靴を作っていた

(誰か見つけておくれ)
(忘れかけた隠れん坊)

遠くで声が聞こえる
雨音のような
囁き

夢の中で見る夢の話をしよう

曖昧な距離感
体温も痛みもわからない胎内の世界
記憶が木霊して、
褪せた輪郭に色彩をぶちまけた。

この世界で見た夢の話をしよう
幸せに続く夢の話を、

振り返れば、曲がりくねった道。

手のひらには傷痕。
泥だらけの膝小僧。
血の滲む唇。

何度頬を濡らしただろう。
足跡の無い道は、怖くて。
背筋を伸ばしても、先は見えなくて。
何度目を閉じただろう。
すがり付く為の腕ばかり探して。

胎児になりたかった。
あの体温が欲しかった。
全て忘れて眠りに付きたかった。
だけれど。それでも。
…きっと、

幸せはこの道の先にこそ、
あるものだから。

――世界の夜が明ける。

傷だらけの手のひら
冷たさも
温かさも
わからなくて、

それでも

ずっと、抱き締めていたくて。

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