それでは、また明日 | ナノ
 閑話 雀踊り

 

尾形と佐久楽が外から戻ると、家の中がいやに騒がしかった。もう皆が戻ったのかと思ったが、聞こえてくるのは亀蔵と夏太郎の声ばかりだ。
出所の部屋を覗いてみれば、わあわあと竹籠を振りまわす二人の姿があった。

「…何の遊びだ?」
「あ、佐久楽!丁度良い、お前も手伝え!」
「雀が入っちまったんだ」

見れば確かに天井近くを忙しなく飛びまわる影があった。
小さな影は追い回す腕の間をすいすいと逃げてゆく。取って食われると思うのだろう、あちらも必死だ。
そしてこちらも真剣だろうが、妙な踊りを披露するかのように雀を追って跳ね回る二人を見やり、佐久楽は呟く。

「尾形、得意分野だったりしないか?」
「…何の話だ。撃ち落とすか?」

その手が素早く拳銃を取り出すのを慌てて止めた。

「待てやめろ」
「その方が早いだろう」
「食う訳じゃないんだ銃は使うな。お前の腕なら当たるだろうが家の中だ」
「………」

言いつつ炊事場へ向かった佐久楽は、手ごろな大きさの笊を手に部屋へと戻る。

「そんな笊で取れるもんかね」
「やるしかないだろう」

だが佐久楽一人増えたところで変わりは無かった。案の定夏太郎達の二の舞に雀に翻弄されるだけだ。

「夏太郎!そっちへいった!」
「わかった!亀蔵こっちだ!」
「お前がやれよ!」

扇のように広がる尾羽を追って、揃ってあっちだこっちだと駆けずり回る。その様を、無感情な目が見つめているのに気付き、佐久楽は足を止めた。

「見てないで手伝え尾形!」

言えば尾形は躊躇なく銃を構える。

「そうじゃない!!」

私の話を聞いていたかと牙を剥く佐久楽と黙り込む尾形との間を、強風に煽られたみぞれさながら斜めに落ちていくものがあった。
投下された糞がぺしりと乾いた音をたてて畳を叩く。

「ほら見ろこうなるんだ!」
「くそっ掃除したばっかだってのに」
「さっさと捕まえるぞ」

各々が手にした道具を構えなおすのを、「…おい」と呆れの混じった声が止めた。

「何だ?」
「追い出した方が早い」

言うが早いか、尾形は隣の部屋へ続く襖を全開にする。

「家の外に向けて障子と窓を開け放ってこい。それ以外は閉めたままで良い」

ちょいちょいと動く指に操られるかの如く、夏太郎と亀蔵が言われるままに動き出した。遅れて佐久楽も半開きだった襖を閉めにゆく。
また何を始めたものかと梁に止まった雀が訝るように見下ろす中、淡々と尾形は指示を出し続けた。

「追いまわすのも奥から外へ向けてだ。手に持ってるそれは奥に行こうとするのを追い返すつもりで使え。横じゃなく縦に動かすんだ」

無暗に動くな、横並びで行けとの指示通り、一列に並んだ三人は開いている襖へ向けじりじり距離を詰めてゆく。
何度か奥へ逃げ込まれもしたが、繰り返す内要領を掴んだのか、一部屋を越えてからは拍子抜けするほどにあっさりと雀は外へ飛び出した。

「出たぞ!」
「やったな」

肘を打ち付け合う二人を横目に、佐久楽も尾形を振り返る。やるじゃないかと声をかけるつもりが、そこにいたはずの男はもう影も形もなくなっていた。


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