王様ランキング

6


彼が裏切るはずがない。と何度も唱える。
まるで言い聞かせるかの様に

そして

彼は無事なのかと。それが一番の不安で


気が気じゃない



歩くたび、いや止まっていてもジクジクと太ももとお尻から広がっていくように痛い。ズボンは血にまみれているかもしれないと思うと、怖くて下を見れない。
見てしまったら、もっと痛くなってしまう気がした。
グッと踏んばって1歩ずつ進む。城への最短の道を迂回して、木々の間を進む。私なんかもし敵にあったとしたら一瞬で殺されてしまう。ならばせめて少しでも身を潜められるところにと思ったのに、こんなにヘロヘロだと自滅してしまいそうだ。
なんとか根に足を取られて転ぶことがないように進む。城の裏手に回り人影のない城壁の門に近づく。中を伺うと静まり返った様子に誰もいなさそうだと小走りで塔の影まで急ぐ。ビギッと強い痛みに身体が嫌な音を立てるがここで止まれない。必死に足を動かす。

使用人が使う裏口から城に入るとそこは驚くほど静かな空間だった。いつもはバタバタと騒がしいほどなのにこんなにも静かなのかと怖くなるほどで
急いで使用人の控室に入るとランドリー室へ続く扉を開ける。いつもは使用人と洗濯物で溢れかえるそこは誰もおらず洗濯物だけが散らばっていた。
踏まないようにとゆっくりとそれを避けて進んで、洗濯物が積まれたラックの後ろの壁を見る。


コンコンコンコンコン

壁を一定のリズムで洗濯物の竿でノックする。

『………』

非常用の隠れ部屋なのだが反応がない。本当にみな城から出たのだろうか、無事だろうかと


ギギとあちら側に動く壁に身体が強張る。ほんの僅かに壁に隙間ができて


『ダイダ様の側仕えの名前です』

「名前さんッ!」

バッと強く手を引かれて隠し部屋の中に引き入れられた。

「名前さんんん、無事だったんですね」

『みんな無事?』

「はいぃ」

後輩のメイドが泣きじゃくりながら抱きついてきた。支え切れずに膝が崩れて床にお尻が落ちる。ズキンと痛くて思わず顔に力が入る。
周りを見渡すと使用人が数人いて、皆知った顔ばかりだ。

「名前さんそのかっこうは?」

『ぁ……うん。ちょっと頼まれごとをしていたのだけれど』

「ダイダ王が拘束されてしまって」

「城を出て行けと言われたんですけど、怖くて動けなくて……それでここに」

『使用人はみんな無事?』

「おそらく。賊が何人もいて、怖くて……」


アピスのことを、彼女たちに聞いてもいいだろうか。なんと聞けばよいのか。頭がぐるぐるする。


「名前さん血でてます!?」

『え、ああ……』

「大丈夫ですかッ!」

グッと腰を上げると痛みが走る。血に濡れたズボンが太ももやお尻に張り付いてそれが余計に痛い気がする。

「少しなら薬もありますよ!外だれかいました?」

『ありがとう…ううん、誰も。人っ子一人この辺にはいなかったよ』


さすがに兵士でもないから、この歳になっ
て怪我なんかもなかなかしない。そんななか久々の怪我の痛みにそろそろ限界が来そうだった。知った顔に出会えた安堵から張り詰めていたものが緩んで麻痺していたのに途端にジクジクと痛みが強くなる。

後輩メイドと二人で隠し部屋から出て控室に滑り込む。

腰紐を説いてズボンを下げる。

「うわっ、ひどい…どうしたんですかこれ」

『急いで、馬で駆けつけたから』

「馬ですか……しばらくお使いに出るっていってましたもんね……」

『夜通し……』

「それはきついですね」


大変な状況なのに、なんだかいつもの会話みたいで少しだけ気が緩む。
血に塗れた足を洗ってぐっと包帯を巻く。強く圧迫すると少しだけマシなような、でも痛いことに変わりはない。
ズボンよりかはスカートの方が痛くないだろうと予備でかけてあるメイド服に袖を通す。
ここからでは状況がわからない

『ちょっと、痛みが強いからここで横になるわ』

「座るのも立ってるのも痛いですよね」

『何も聞こえないから、わざわざ彼らもこんな端の使用人の部屋に来ないでしょう』

「そうですね、私達もこの間に城を出る準備をしたほうがいいかもしれないですし」

『そうね』

「なにかあったら、お互い大きな声出しましょう」

『ええ。ありがとう』


一応バリケード作っときましょ!とドアの前に洗濯物を積んで彼女は隠し部屋の方へ戻っていった。それを見届けてうつ伏せになる。
考えなしに城まで戻ってきたけど、足も痛いし満足に動けない。

でもアピスが無事かわからない……

それが一番心配で

なんでもいいから無事でいてと胸が苦しい。
やっぱり探しに行くべきかとも思うのに邪魔になるかもと身体が動かない。

昔の記憶、前の戦争で城が攻め込まれた時もあの隠し部屋で使用人と抱き締めあってただずっと震えていた。大きな音と悲鳴のような音が耳に突き刺さるのをひたすらに皆で暗闇で堪えていた。力のない私達には隠れることしかできなくて、自分達の命の心配しかできなかった。音が止んで暫く立って、王様と一緒に戻って来た兵士の声を聞いて恐る恐る外に出れば日常が壊されて血にまみれていた。

またあの時みたいに、縮こまって過ぎ去るのを待つだけなのか。
アピスが、今この瞬間にも戦っているだろうに
ギュッと掌に力が入る。


ずっとひたすらに続くこの痛みにも慣れたのか感覚が麻痺してきた。
城内を進んでみるか。せめてアピスが生きてるかだけでもわからないともう冷静でいられない。ゆっくり腕に力を入れて立ち上がる。ズキリと痛む身体に奥歯を食いしばって耐える。なんとか一歩足を踏み出した



「ここにいたか!」


びくりと身体が震える。おそるおそる声の主を見ると


「わっ!洗濯物の山がっ!」

『ちょっと!大丈夫ですか!?』

洗濯物の山に潰されそうになっているサンデオ様がいた。







「とりあえずよかったですね!」

『そうね』

何がなんだかわからないけれど、とりあえず敵はもうこの城にいないらしい。
そしてダイダ様がボッジ様に王位をうつすと仰ったらしい。いろんな事が解決したようで、皆で食事でも囲むか。とそれを伝えるべく使用人を探していたらしい。
まだ城に帰ってきてない使用人の方が多いから急ぎ準備しなくてはならなくて
使用人にはまだ詳しく話が降りてきてないからわからないことがたくさんあるけれど、サンデオ様が皆無事だと言っていたので、アピスが無事ならそれでいいか。とひとまず安心する。
皆急なことで戸惑っているものの、敵はいなくなったという事に安堵してバタバタと騒がしく働いている。

「名前さん大丈夫ですか?足痛みますよね?休んでいてください」

『大丈夫』

本当は痛い。かなり
でも仕事だし、なによりアピスの無事をこの目で確認したい。"裏切った"これがどういうことかわからないけれど、今彼が無事ならやっぱり兵士の勘違いだったのだ。

食事の準備が出来たため玉座に向かう。皆そこにいるらしいのでアピスに会えるのだと胸がそわそわする。
我慢できずに、名を呼んでしまったらどうしよう。
生きててよかったと、抱きついてしまうかもしれないな。なんて
そんなこと仕事中だしみんなの前で出来るわけない。でも、今夜会いに行ってもいいかと一言話すくらいはしてもいいよね?


はやく愛しい彼の姿をこの目でみたい


ギュッと身体の前で手を合わせて握りしめる。視界におっきな身体が飛び込んできて、その姿に体が熱くなる。

このままでは名を呼んで思わず駆け寄ってしまうと、視界からすぐさま彼を外して手前にいらしたサンデオ様に声をかける。

『サンデオ様、準備が整いました』

「おお!それはご苦労、ソリー!」

サンデオ様が一番近くにいたソリー様に声をかける。


すうっと深く呼吸をする。おちつけ、ゆっくり吸って、ゆっくり、ゆっくり息を吐く。グッと視線を彼に合わせる。

グレーの色素の薄い髪はいつも通り綺麗で
しっかりとした鷲鼻はいつも通り男らしい


なのにいつも通りじゃない彼がそこにいて


アピスが笑ってる



アピスが



朗らかに、わらっている



その笑顔に私の脳みそは停止してしまった。



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