「ああ、この前あの子と話した」

あの子?

昼休みに食堂から戻る途中でそうアロケルに言われて思考をまわす。

「お前……あれはやりすぎダロ」

あの子って

「ああ……ナマエちゃん?え?なんでアロケルが喋ってんの?」

なんの接点が?とこれまた頭で考える。

「こわ……たまたま 一緒になっただけ」

ナマエちゃんはあんなふわふわしてるのにめちゃくちゃ頭がいい。基本5位以内には入ってるらしいしフルカス先生の繋がりでたまたま話したのか?と自分を少し納得させる。

「あんな……ガッツリ マーキングして」

呆れたようなアロケルの声にちょっと笑ってしまう。

「せめてキスマークは本人がわかるところにつけろ。気づいてない あの子」

「は?何見てんだよ」

「見えたんだ。肌白いから目立つ」

耳の後ろにつけたキスマーク。髪の毛で隠れるそこを見つけたってことは、ナマエちゃん気付かず髪結んでたのか?あー、かわいい。
え、見たかった。

「ピアスまで」

「あ、きづいた?」

「はぁ……」


ため息を付いてジトリとこちらを見るアロケルに、まあそうなるよなーと思いながら適当に目線を外してわかりやすい笑みを顔に貼り付ける。
やり過ぎなのは自分でだって自覚してる。
これでまだ付き合ってないだなんて、結構俺ヤバイやつだよなーなんて
あ、今度ナマエちゃんに髪結んでもらおーっと。キスマークみたい。気づいてないナマエちゃんもみたいけど、気づいて慌てるナマエちゃんも見たい。


そうこうしてるともう教室の手前まで辿り着いた。
するとまさかのナマエちゃんが教室のドアのところできょろきょろしている。

え?やば。俺に会いに来たん?こんなの初めてじゃない?
寂しくなっちゃった?ここ数日あんまり連絡も取れてなかったもんなぁ
え?俺のこと大好きじゃん。かわいい


王の教室に入っていいのかわからずに戸惑っているみたいで、うわーかわいい。と足を止めてナマエちゃんを後ろから愛でる。

「お前……」

アロケルが何か言いたそうにしてるけどそれを無視して
なんて声かけよっかなーなんて思ってたら


「あれ?どうかしたの?」

『えっ!あ!!あのッ』

教室から出てきたイルマくんに、おっとそろそろ行こうかな

『アリス……あ、アスモデウスくんいるかな?』



「は?」


低めに出た自分の声を慌てて止める。


アリス?


アリス??


は?


「え、アズくん?いるよ。呼ぼうか」

『うん!お願いします』

「アズくーん!」

少し先で繰り広げられる会話に俺はそのまま動けなくて
となりのアロケルを気にしている余裕もない。多分面白がってるとは思うけど

「ナマエ!イルマ様の手を煩わせるなッ」

『えっ……そっちが来いって言ったくせに』

は?なんて言いながら怒るナマエちゃん。え?そんな顔すんの?めっちゃ嫌そうな顔してる。かわいい。じゃないッ!

『はいこれ』

「ああ」

持っていた本を手渡して
え?なに?あの二人知り合い?
聞いてない聞いてない
アリス?は?
あのアスモデウスと?は??

『ついでにこっちも関連するのだから持ってきてみたけど』

「ナマエのわりには気が利くな」

『はいはいもう、ありがとうございますぅ』


は? 
めちゃくちゃ仲いいじゃん

は??


呆然と事の成り行きを見守る事しかできない俺と、アスモデウスの目があって
きっと俺は間抜けな顔をしていただろう。


「ナマエ、邪魔だ。もう少し寄れ」

『あっ、ごめんなさい』

入り口を塞いでいたから俺達が入れないのだろうと思ったアスモデウスがナマエを引き寄せて自身も端によった。

そう引き寄せた

腰に

手をあてて


おいこら

ナマエの腰触んな


え??なに?なに?は??


『ぁッ』

咄嗟に謝ったナマエちゃんとバチッと目が合う。相手が俺だと認識して慌てたように視線を外すその様子は明らかに照れ隠しで、きょろきょろと視線を泳がすナマエちゃんは可愛い。だけど今はちょっとそれどころじゃない。


「ごめんねー」

変な間が出来てしまったからアスモデウスが怪訝な顔をした。なんとか表情を取り繕って、何でもないというふうに
二人の横をすり抜けて教室に入った。
とりあえず席についたものの、神経は全部あの二人の会話に持ってかれて
アロケルは黙って俺と一緒に二人の会話を聞きつつ俺を観察しているようだった。


「おい、おいナマエ、聞いているのか?」

『へ?あ、うん。ごめん』

「はぁ…お前は本当に………というかちゃんと摂生しているのか?」

『は、はぁ?なにそれ……ふ、太ってないしッ』

「……前より2周りはでかくなってるだろう」

『うるさいッ』


はぁ?あのムチムチがいいんだろーが!
あのくびれが目にはいんないのかよ!いや、てか。は?

やいやいいって仲の良さを際立たせる二人に苛々が募る。
なに?ほんと、はぁ?

「ああ、それと次の休みは家に来るのか?」

『ぁー……えっと』


は?



はぁ?家?はぁ???


「なんだ、どうせ暇なんだろう?」

『そんな……ことはあるけど』


いや、家って。は?


「なら来い」

『んー……わかった』


え?いや。ナマエちゃん押しに弱いのはわかってたけど

は?

ちょっと待てよ




「アズくん、今の子お友達?」

帰ってきたアスモデウスにイルマくんが声をかける。でかしたイルマくん!!

「え?いいえッ!!そんな!私のオトモダチはイルマ様だけですッ!」

「あっ、えっとー……」

違う違うそういう事じゃなくて

まあいいか。とナマエちゃんについての会話を終わらせようとするイルマくんに
おいおいちゃんと聞いてくれよ!と身体が動く。

「仲いいの?今の娘。珍しいじゃん、アスモデウスが他のクラスの子と話してるなんてさー」

すかさずイルマくんの隣に移動してアスモデウスに話しかける。

「ナマエはただ昔からの顔見知りなだけだ。それよりイルマ様、こちらですッ」

いや、顔見知り程度で教室に呼びつけるだけじゃ飽き足らず家に呼ぶのか?お前は!と思いつつもあまり突っ込んでも仕方がないとグッとこらえる。

「あっ!この本あったんだ。いいの?」

「もちろんです。ナマエに先程持って来させました。こちらの本も一緒にどうぞ」

「えっ!これあの子の本なの?お礼言わないと」

「いえいえ、もとは私の持ち物でしたので、私のものです。イルマ様はお気になさらずに」

「え……でも……こっちのはあの子のなんだよね?今度あったらお礼言わないとッ」

「そうですか……流石イルマ様です。ナマエも喜びます」

「そ、そうかな?」


そういうことか。と流れはわかったものの
いやいや、仲いいじゃん!と沸切らない。

え?え??もう……は?


ナマエちゃんのこと全部知りたいのに
この程度の事でうろたえるなんて

あーもう


やっぱあん時"好き"って言わせとけばよかったなんて


自分勝手にもほどがある。




スマホを取り出してナマエちゃんに連絡をとる。適当なスタンプを送って、次の休みどっか行かない?と続けて送る。
アスモデウスの家に行くって盗み聞きしてたくせに厭らしくも試す様なことを聞いて
なんて返してほしいんだよ。俺を優先して欲しいわけじゃないつもりなのに、じゃあわざわざなんのつもりなんだ?って自問自答する。
やっぱりこれは、どう返事が来てもいい気がしない。と取り消しボタンを押す瞬間。既読の文字が浮かんでしまった。
やばい……変にばくばくと煩い心臓を無理やり落ち着かせる。画面をタップすることが出来ずに固まった指先を無理矢理動かして、画面を閉じた。


ナマエちゃんと変な駆け引きめいたことをするつもりはなかった

俺の事で頭をいっぱいにさせたいけど、不安にさせたくはない。
いっぱい甘やかして、俺の事もっと好きになって欲しい。
ジャズくんは私の事が好きなのかもと、浮かれてふにゃふにゃになればいい。だから安心して俺に甘えて

俺に好きだと言えばいい

ナマエちゃんは俺の事大好きなんだから
だから俺も、安心して甘やかす事だけ考えればいいはずで

だからこんな、陳腐な嫉妬はすべきじゃないのに

俺の知らないナマエがいるのだと見せつけられて胸がざわりと騒いだ。
もっと可愛らしく愛したいのに
ナマエの全部か欲しくて

みっともなくて笑いすら出てこない。





結局思った通りに『次の休みの日は予定があるの、ごめんね』と帰ってきて
謝らせてしまったと苦い気持ちになった。軽い感じで、その言葉に返信したものの
何だか少し前より返信も遅い気もするし
学校内で見かける事もないし、放課後に誘っても断られる始末で


俺だってやるべき事はたくさんあって、だからナマエちゃんだってそうなだけだって思うのに

俺のこと大好きなんだからって

わかってるのに

チクチクと、小さい破片が刺さった様に痛んで
引き抜きたいのに肉に飲まれて引き抜けないみたいな
痛みと違和感とぐちゃぐちゃになって


息がしづらい




「おーい、ぼうずー」

「チッ、んだよ」


タダでさえ気分が上がらないのに帰ったら部屋に兄貴がいてイライラする。
ヘラヘラしながら俺のソファーでふんぞり返ってスナック菓子をつまみに酒を飲むその姿に更にイライラが募る。
あ!ソファーに食べかす落としてんじゃねぇぞ!クソッ、腹立つ

「あっ!それ俺が買ったポテチ!」

「あー?イマイチだな、これ。つーか何味だよ」

新商品の季節限定ポテチをいつのまにか食べられて、酔った口じゃ味なんてわからないのか雑に流し込んで食べ終わった兄に殺意が芽生える。
はぁ……くそ、落ち着け、落ち着け俺
こんなの今に始まったことじゃないだろ

そう、今に始まったことじゃない



「すっげえうまそうな甘いにおいすんのなぁ」

「は?」

あのポテチそんなフレーバーだったか?

「そりゃまあお前みたいな童貞はいっぱつでメロメロだ」

「なんの」

はなしだと


「あ?坊主じゃ持て余すって話だ」


ドクドクと心臓が暴れ出したように煩くて


「あんなえっろい子」



視界から色が消える

警報が鳴るように耳鳴りがする

兄貴の唇の動きがやたらとゆっくりにみえる


ナマエ ちゃん


とっさに動いた身体
握った拳は兄貴の胸倉を掴んでいて
兄貴に馬乗りになったからだろう、ギギィとソファが聞いたことのない軋んだ音を立てた。
狭まった視界に顔色一つ変えない兄貴だけが映る。


「身体全部柔らかくて」


昔からだ

「純粋そうな顔してんのに」

今に始まったことじゃない


俺のモノをいつも

「えろくて従順で」

盗ってくるクズ兄貴


「俺が貰ってやるよ。ナマエちゃん」


バチンッと部屋に響いた音。顔面目掛けて殺すつもりで振り下ろした拳を簡単に掴まれる
それでも許せなくてそのまま力を込めるのにビクともしない


「ははッ、すげー惚れてんなぁ」


ヘラヘラとした笑みのまま


「みっともねぇな、坊主」




「せぇ」

「あ?」

「酒くせぇんだよ、でてけ」

ソファーから降りて掴んだ胸ぐらをそのまま引っ張る。
もう酒ねぇしなーなんて気の抜けた声をだしながら兄貴が立ち上がる。
乱暴に部屋の外に追い出してドアを閉める。なんかクズが笑いながら言っていたけど、頭に入ってこない。


なんでだ

いつだ

頭の中がぐちゃぐちゃで

最悪だ

兄貴の前であんなにわかりやすく取り乱して
こんなの

「盗ってくれ」と言ってるみたいなもので

指先が冷たい




ふにゃりと照れた様に笑って
俺の名前を呼ぶナマエを思いだす

なのに

蕩けたえろい顔のナマエがチラついて

あの赤くぽってりした唇が甘くはきだすのは

俺の名前なのかと


最悪だ



本当に

みっともない






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