05







とある雑誌の、Q&Aのコーナーで。

Q.好きな食べ物は?
A.特に無し。なんでもよく食べる。

これは違う。
実際、神羅の配布する簡易食糧はどんな楽しい話をしてもまずいし、実際のところ簡単な料理の方が好きだ。
高級なレストランの食事も、三ヶ月に一度程度でいい。
それに、食べ物で好き、といったら、棒アイスが1番好きだ。味は、ソーダがいい。

Q.嫌いな食べ物は?
A.特になし。上記に続き、なんでもよく食べる。

これも違う。
魚介類が、そこまで好きではない。特に、タコとかイカとか。
彼女にも、まだ言ってないことだ。
…これからも、気づかれたくない。
教える機会も、もう無いが。

Q.趣味は?
A.訓練、素振り。

これは違わない。
けど、一番で言ったら、フルートの演奏を聞いているのが好きだ。もっと限定すれば、彼女のプロとまではいかないあの親しみの持てる笛の音が、一番好きだけど…。
もう、聴けないのだろうか…。

Q.今、一番気になっていることは?
A.今後の戦況。

確かに、それも気になるが、今も昔も、一番知りたいことは彼女のことだけだ。
なぜ死んでしまったのだろう…。なぜあそこでもっと手が伸ばせなかったのだろう。彼女にもう一度、会いたい。会う方法などないのは、わかっているが。

Q.好みの女性のタイプは?
A.おとなしい女性。

確実に、違う。
彼女は"大人しい"なんて、笑えるくらい似合わない。
お転婆で、行き当たりばったりで、なのに失敗は少なくて。
明るくて、笑顔が太陽のようで、でも根は結構真面目で。
不慮の事態にも悠然として構える。
なにより。

『セフィ、セフィロス!』

今も蘇る、千夏はいつも、俺を見てくれた。
俺自身を、見てくれていた。
最後まで、俺の心配をして散った、愛しい彼女は、もう、いない。会えない。話せない。
夏の奇跡は、もう起こらない。



神羅ビル。
神羅カンパニー本社。
ミッドガルの街の中枢にそびえ立つ摩天楼。
その建物の入り口はプレートの下、スラムにはなく、プレートの上からしか入れない。
であるのに、千夏は今、神羅ビル本社に来ていた。

「ここで、待つ。ってコト」

さて、ルーファウスを助けたのはもう2週間は前のことだった。
そんな彼から、もう連絡はないと思い始めていたが、連絡がきた。

時間はあるか。

と。それだけ。
千夏はそれはそれは暇であったことを一言で、

「うん」

と返した。
結果、次の日に神羅ビルまでくることになってしまった。
プレートの上に行くにはIDが必要だったが、指示された通りに警備員に話をしたらいつの間にやら通されていた。
彼にはなかなか権力というものがあったのだなぁと、千夏はぼんやりと考えながら、待ち人をひたすらぼけっと待っていた。
神羅ビルの中というのは、それはそれは広かった。ロビーは一般市民にも開放されているようで、戦士や研究者らしき人から私服の子供までたくさんいた。
ふと、吊るされている大きなジュエリーショップの広告を見て、昔のことを思い出す。

セフィロスが渡してくれた、シルバーリング。
サイズがわからないなんて言って、ネックレスにして首にかけるものだったけど。
勘にしては尖すぎるのではなかろうか?
今でこそ言えるが、その指輪は千夏の薬指に、ピッタリと当てはまるサイズをしていた。しかも、左手の。

そして内側に刻まれた、

Sephiroth

彼自身の名前。
これでもう千夏はこの指輪を持っている限り浮気なぞできはしないのだ。こんな、恥ずかしいことをよくもできたものだ。一人でいったのだろうか?店に?自分の名前を彫ってくれと?
クスクスと笑って、これを目の前で言ってやれないことを、少しばかり残念に感じる。

セフィロス、寂しがりやだから。
寂し過ぎて、狂っちゃってそう。

くすり、と自分の考えたことに、『それはないか。』と吹き出しそうになる。
千夏は首からネックレスを外し、その指輪をチェーンから外した。
一回だけ、それを自身の手の、ピッタリと合う指にはめてみる。

「しんじてる」

指輪に軽くキスを落とし、外してケースに入れて。
自分の足元にそっと置く。置き去りにする。
待ち人が来た。ルーファウスの案内だろう。

「チナツ様ですね、こちらへ。」
「ありがとう。」

黒いスーツの人物に手を引かれ、千夏はビルの中へ消えていく。
その時に、千夏はふと、ネックレスを置き去りにした方へ振り向く。

「早くこないと、浮気しちゃうんだから。」

千夏はニヤリと、小悪魔のように笑みをたたえた。
そして、後腐れの無いよう、意を決してエレベーターに乗り込んだ。



「久しぶりだな、千夏」
「うん、久しぶり。ルーファウス、元気してた?」

黒スーツの人物に案内され、ついたのはある執務室だった。
その部屋の真ん中には、デスクと革張りの黒い高級そうなイス。
そのイスに、ルーファウスは深く座って頬杖をついていた。

「ああ、元気だとも」

返事をして、ルーファウスは黒スーツに指を動かし、何かを持ってくるような指示をした。

「そこに、座ってくれ。」

ルーファウスは指で部屋にあるソファーを示した。
こちらも、黒い革張りの高級そうなものだった。
ソファーの前に置かれたローテーブルもまた、高級そうなものだった。その上に置いてある灰皿も重量感のあるキラキラとしたもので。
千夏は少し、座るのを躊躇ったが、立っていてもどうしようもないと割り切り座ることを決意した。

「どうぞ」
「わ、ありがとう」

座ると、目の前に紅茶の入ったカップが置かれた。
砂糖と、ミルクも添えて。

「飲んでも、いい?」
「かまわないさ」

自分のために出されたものだろうに、飲んでいいかと聞く千夏に、ルーファウスは笑った。

「さて…礼の話なんだが…」
「どこでもいいよ、ステーキ以外だったら」
「肉は嫌いか」
「苦手なの。食べるのも遅くなっちゃうし、薄めのだったらだいじょぶだよ」

ふぅ、ふぅ、と。
千夏は紅茶に息を吹きかけ、冷ましながらちびちびと飲んでいた。

「それ以外で、好きに決めて?」
「わかった、そうしよう。服も、こちらで用意しても?」
「そこまで?うれしい、ありがと」

ルーファウスは当たり前だ、と満足そうな顔をした。話は続く。

「君の"彼"はいいのか?嫉妬深いんだろう」

ルーファウスは意地の悪そうな笑みを浮かべ、頬杖をつきながら聞いてきた。…が、千夏が気にする様子もなかった。
千夏はカップを置いて、その口元を綺麗に曲げる。

「私のこと、こんなに待たせてるからいいの。腹いせに浮気しちゃうから」
「私を浮気相手に選ぶとはな…。…高くつくぞ?」
「ふふ、いいでしょ。楽しみにしてるよ?ごはん」



一方その頃、千夏が置き去りにしたあの指輪の入ったケースは、幸運にもある人物に渡っていた。

「なんだぁ?これ?」

とある青年が、千夏の指輪の入ったケースを手にしていた。
興味心身らしく、拾ってすぐにを蓋を開いて中の指輪を取り出した。

「うわっ、指輪じゃん!…たかそ〜!」

青年は光に透かせるように、高く掲げて指輪をしげしげと観察していた。
そして気付く。
文字が刻まれていることに。

なんだ…?名前かな、どれ…。

青年は内側に刻まれた読みにくい文字を必死で読んだ。
答えは数分もせずわかった。

せ…せぴ…せふぃろっ…!?

「セフィロスッ!?」

ざわり。
彼の大声に周りが振り向く。それに気づいた彼は、居心地が悪そうにそそくさと退散した。

「どーすっかな、コレ」

エレベーターに逃走した青年は1人呟く。
彼はまだ指輪を四方八方から見ていた。

「アンジールに渡してみよっかな」

ちん、と音をたててエレベーターが止まる。
扉が開いた先、一人の男が立っていた。

「ザックス!!」
「あ、アンジー…あっ!やべ!」

ザックスと呼ばれた青年はアンジールと呼ばれた男の横をすり抜けて逃げようとする…が、

「逃げるな!」

惜しくも捕まってしまう。

「わぁぁアンジールお願い!報告書は勘弁〜!」
「お前のことだろうが、逃げるな!行くぞ!」

ザックス青年は、文字通りアンジールに引きずられていった。
逃れようと暴れるうち、手にもっていたもののことを思い出す。

「あっ、アンジール、これこれ!な、これのことなんだけどさぁ!」
「なんだ、ハッタリは…?何だ?…指輪か?」

ザックスが見てみてくれ、と言いながら手渡す。
ヒョイとアンジールはそれを手にとる。
いつの間にか、アンジールの手はザックスの首根っこから離れていた。

「内側、内側見てくれよ。」
「セフィロス…?あいつのか!?これ。あいつが落し物…?」
「フロントで拾ったんだ、高そうだし、一応知らせたほうがいいかと思ってさ。」

アンジールは、指輪をしげしげと見つめ、確かに高いものだとわかり理解できたようにうんうんと頷いた。

「一応、聞いてみよう。預かっても?」
「もちろん!大丈夫だ!じゃ、な!」
「ああ…。…って、待てっ!ザックス!ザックス、ザックス・フェアッ!」

ソルジャーフロアは、ドタバタと賑やかな音に包まれた。
たが、少しだけ静けさも感じられた。まさに、嵐の前であった。



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