仕事中毒症候群 | ナノ


▼ 仕事中毒者の日常 Act.2



カリカリカリカリ…。
シャカシャカシャカシャカ…。
…ぺらり。

薄暗い部屋に、ペンを進める音と、紙をめくる音が響く。
紙をめくる音がしては、またペンを進める音がする。
もう3時間以上、それは続いていた。
その音たちは、書類や分厚い本に囲まれ、ギリギリ書くスペースがあるような机からしている。
その机には、女性が一人。
机の上には、マグカップと書類、先の潰れた万年筆が2、3本。
左手には4本目の万年筆、右手には分厚い資料を持ち、真っ白な紙に、歪みのない綺麗で並行な文字を生み出してゆく。
積み上がる書類と本で、窓の光は遮られているにもかかわらず、気にせずにペンを進めている。
そして、そのせわしなく動く手が、腕がその書類と本の山を崩壊させようとも、そのせいで大量の埃が舞い散ろうとも、その手は止まることを知らず、まして見向きもしない。

カリカリカリカリ…。
シャカシャカシャカシャカ…。
…ぺらり。

そしてついに。
その手は止まった。
その書類をめくると、机の木の模様が目にはいる。
書く書類がなくなったのだ。
そして、その女性は前のめりになっていた姿勢から、椅子の背もたれに体を預け、楽な姿勢になる。
机の上にあったマグカップを掴み、カップを一気に煽る。
が、カップからは、一滴のコーヒーしか流れてこなかった。
煽ったカップの底を見て、彼女は思う。

このコーヒーを、注いだのはいつだったろうか…?

数時間…いや、一日…?

彼女は、そこで考えるのをやめた。
そろそろ、部下も泣き叫ぶ頃だろう。
書類提出と、コーヒーを入れるついでだ。
部屋から出よう。

彼女は、そこで初めて凄惨な光景の広がる室内に気付いた。

「あぁ…。」

散らばる書類、崩れた資料。
そして、消えた白衣。
ゴミ箱からも、ゴミが溢れ出ていた。
仕方がない、と掃除用具を取り出そうと立ち上がる。
だが…

「ごみぶくろ…?」

ゴミ袋が、見つからなかった。入れるものはたくさんあるのに、それを入れるものがまず見つからない。
まずゴミ袋を探すことから始めた。
ない床を探し、散らばるものを極力踏まないように移動する。
だが、床面積が狭すぎて、気をつけても踏んでしまう。
彼女は途中で踏まないようにすることを諦めた。

さて、いつもゴミ袋がしまわれていると思われる棚の前にくることができた。が、その棚は床がついているせいで、色々な床に散らばる障害物(モノ)で、棚の戸は開けることが不可能になっていた。
ため息を一つつき、棚の前にある障害物達を乱雑になげたり蹴飛ばしたり端に寄せたりしてどける。
やっとゴミ袋が手に入った。
もう踏まないようにするのはやめてしまったため、デスク横のゴミ箱のもとまで帰るのは早かった。

素早い手つきでゴミを全て回収する。くしゃくしゃにされたレポート用紙やちり紙、折れたペン軸、携帯食糧の袋。色々なものが入っていたが、全てまとめてひとつのゴミ袋に入れた。仕分けなど、もう知ったことではない。
ゴミ袋の口を結んで、今はとりあえず置いておき、報告書を提出用のファイルに入れる。それを左脇に挟んで、マグカップを左手に。そしてゴミ袋は右手に持つ。
あと少しで引きずるだろう位置にゴミ袋を持って、彼女は部屋から出ていった。





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