My nane is・・・
月兎/1.2.3.4.5.6



私が籍を置く司法局はジャスティスタワーの中にある。
ジャスティスタワーの中にはヒーローたちの拠点がある為、ヒーローたちと顔を合わせることも珍しいことではない。
だがその日、廊下で彼と、パートナーであるバーナビーが親しげに談笑する姿を見掛け、私の中で黒い感情が動いた。
私はこの男が、ワイルドタイガーである鏑木虎徹が嫌いだ。
それに、キングオブヒーローとなったバーナビーも。
気が付けば、私は営業用の笑みを浮かべて二人に話し掛けていた。

「こんにちは。お話し中にすみません。バーナビーさん、すみませんがお時間がある時で構いませんので、司法局の私の執務室までご足労願えませんか」
「どうかしましたか」
「大したことではありません、スポンサーとの契約更新の件で変更になった箇所があるので一度、バーナビーさんにも契約書に目を通して頂きたいのです」
「わかりました、そういうことでしたら今夜にでも伺います」

彼は疑う素振りもなく、穏やかな笑みを浮かべた。



その夜、約束通り執務室を訪れた彼を、私は捕らえた。
部屋へ通し、紅茶を勧めればバーナビーは何の迷いもなく口にした。
私がルナティックだと知ったら、彼はどんな顔をするのだろう。
勿論、明かすつもりはないが。

紅茶を口にして暫くたつと、バーナビーは眠気を訴えた。

「疲れているのでしょう、少し横になっていかれますか」

そう声を掛けると頭を振ったが、すぐに眠りに落ちた。
私は彼を、私の秘密の隠し部屋へと連れ帰った。

隠し部屋には、ルナティックの衣装や仮面が置かれている。
彼に目隠しはしたが、私は敢えて隠そうとは思わなかった。
正体が知られたら、その時はその時だ。
ぐっすり眠っているバーナビーの身体から衣服を脱がし、全裸にする。
彼の身体を床へ横たえると、両手を頭上で縛り上げ、天井から垂れている鎖へと繋いだ。

まだ、目覚める様子はない。

デスクから使い捨ての注射器と薬物を取り出した。
腕を取り、アルコールで消毒した後、針を刺し薬物を注入する。
対NEXT用に開発された、まだ市場には出回っていない新薬だ。NEXTの能力の発動を抑えることができる。

準備が整うと、ビデオカメラをセットしバーナビーの姿をフレーム内に収めた。
カメラを回したのは深い考えがあってのことではない。
ただ職業柄、記録を残した方が後から役に立つという考えが身についているだけだ。
眠ったままの彼を待つのにも飽き、私はカメラを回し始めた。
彼を繋いだ鎖を巻き上げ、身体を吊り上げる。
爪先がかろうじて着く高さまで吊り上げると、巻き上げるのを止めた。
腕だけで上から吊られるのは辛いだろう、よく眠っていたバーナビーもようやく目を覚ましたようだ。

「うぅ……」

微かな呻き声が聴こえた。
視界も奪われ、状況が把握できていないのだろう。
腕の拘束を解こうとしてか、鎖の金属音が静かな部屋の中に響く。
次いで、能力を発動しようとしたのだろう、彼が全身に力を込めたのがわかった。
しかし薬のせいで能力が発動することはない。
ひとしきり彼の姿を観察してから、私は立ち上がった。

「……誰なんだ、そこにいるのは」

私はその問いには答えず、まっすぐに壁へ向かうとお気に入りの鞭を手に取った。
悪趣味なのは理解しているが、私は人を痛め付けることが好きだ。
いつもは、そういうプロを呼んで発散させているし、この部屋は元々そういう嗜好の為に用意した部屋だから道具は何でも揃えている。
何も口を開かないまま、私は彼の背後に立つと白い背中に向けて鞭を振り下ろした。

「アッ……!」

鞭が空を切り、肌を打つ音が鳴り、バーナビーの口から短い悲鳴が上がる。
一瞬脳裏に母を殴る父の姿が浮かんだが、その光景を無理矢理追い払うよう、立て続けに鞭を振るった。
バーナビーの背中に赤い筋が幾筋も浮かぶ。
ユーリは背後からバーナビーに近寄り、その赤い筋に指先で触れた。

「っ……!」

指先で筋を辿り爪を立てると、小さく呻き声が漏れる。

「……何が、目的だ?」

目的など、私にもわからない。
声を掛ける相手は、ワイルドタイガーでもバーナビーでもどちらでも良かった。
ただ、バーナビーを選んだのは、白い肌に鞭の跡が映えるだろうと思っただけだ。



こんな状況下においてもバーナビーは冷静だった。
相手からの返答はなかったが、ユーリか、彼の関係者だろうとバーナビーは推測した。
ユーリが絡んでいるのならば、殺されることはまずないだろうと考えていた。
何が目的か、考えられるとすれば、キングオブヒーローとなった自分へ対しての、例えば他ヒーローを所有するスポンサー企業、あるいは他ヒーローの熱狂的ファンからの脅し。
または、相手はただ、自分に対して歪んだ性癖を抱く人間であるという可能性。
後者については考えたくもなかったが、バーナビーは学生時代にもファンが多く、私物を盗まれたり、盗まれた服に精液を掛けられ返されたことなどもあった為、可能性としては有り得る。
けれど、これらは想像に過ぎない。
返答があるとは期待もしていなかったが、単刀直入に何が目的か尋ねた。
返答の代わりに再び、ヒュッと鞭が風を切る音が鳴り、バーナビーは奥歯を噛み締める。

「くっ……」

バーナビーが声を上げないのは意地だった。こんな理不尽な仕打ちで悲鳴を上げるなど、プライドが許さない。
しかし堪え難い痛みに生理的な涙が溢れ、目隠しされている布を濡らした。
ふと、鞭を振るう相手が移動する気配を感じた。
俯くバーナビーの顎を掴み、顔を上げさせられる。
すぐ近くに相手の吐息を感じ、嫌悪から顔を横に向け避けようとすると髪を引っ張られ強引に顔を寄せられた。
キスでもされるなら噛み付いてやろうかと思ったが、そうではなかった。
目隠しをゆっくりとずらされ、涙に濡れる眼球を舐め上げられる。
突然の行為と、予想の範疇ではあったが相手の姿を認識し、二重の驚きでバーナビーは目を見開いた。




[戻る]

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -