There is no one but you.
バニーが顔を寄せてくる。
俺は瞼を閉じ、それを受け入れた。
軽く、唇が触れ合って離れる。
「好きですよ」
そう、俺は多分、バニーちゃんのことが好き……
「ふぇ?」
突然の言葉に、戸惑う。
「僕が好きな相手というのは、貴方のことですよ」
見上げると穏やかな笑みを浮かべたバニーと目が合った。
あぁ、こんな表情して好きだなんて言われたら、反応に困る。
視線を反らし、俺は逃げようとした。
だが、バニーは俺を逃がさない。
「僕はずっと、両親を殺した犯人のことばかり考えてきました。ウロボロスの情報を得る為に身体を売ったこともあります」
俺は何も言えなかった、バニーの肩が震えていたからだ。
黙って、バニーの背中に腕を伸ばした。そのまま力を込めて抱き寄せるとバニーが遠慮がちに俺に体重を預けてくる。
「僕の頭の中はずっと、ウロボロスのことしかありませんでした。でも、貴方に出会って、信じろと言われて、信じてみてもいいかなと思うようになったんです」
「うん」
抱き絞める腕に力を込める。
「俺も好きだよ、バーナビー」
俺が好きだなんて言っても、バニーは素直に信じてくれないだろう。
俺自身だって、この感情に気付いたばかりだ。
だけど、すぐに信じてもらえなくたっていい。
どうせ明日も明後日もその先も、俺はこいつと一緒にいるんだ、俺達はパートナーなんだから。
ごちゃごちゃ言われるその前に、俺はバニーの唇を己の唇で塞いだ。
そして翌日。
二人揃って出勤すると、ネイサンとばったり出くわした。
「あら、おはよう」
「おはようございます」
にこやかに挨拶を返すバニー。
「おぅ、おはよ」
俺も挨拶を返したが、なんでだ?ネイサンがニヤニヤしているのは。
「その様子なら上手くいったようね?」
「えぇ、おかげさまで」
もしかして、こいつ、昨日のこと知ってるのか?
「おいおい、何のことだよ」
焦って二人の会話に割り込んだが、ネイサンに遠慮なく肩を押されてよろめいた。
「うるさいわね、私はハンサムと話してるのよ」
俺がよろめいてるうちに、二人が乗り込んだエレベーターの扉が閉まり上昇を始めた。
「あっ……」
俺は一人、ロビーに取り残された。
「うるさいのがいなくなったわ、ようやく二人きりになれたわね」
僕は肩に手を置き必要以上に顔を寄せてくるネイサンから逃れ、一定の距離を保ちつつ笑みを返した。
「そういうことは、好きな相手にして下さい」
「あら、自分が上手くいったからって、つれないのね」
「約束通り、ちゃんと協力しますよ。貴方が上手くいくように」
今回のことは、ネイサンが言い出したことなのだ。
『あの鈍いオトコは気付かないわよ、さっさと押し倒しちゃいなさい。ほら、いい薬があるのよ、これあげるわ。その代わり…私の恋に協力しなさい』
ネイサンの想い人はアントニオさんらしい。
僕じゃなくて本当によかった。
Fin.
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