山吹の散る頃に




 強くならねば。

 そう決心がついたのは、母の最後の言葉を思い出した時だった。
 母は、最後まで鯉伴を想っていた。だから、娘である私に、その願いを託したのだ、きっと。

 守って欲しい、と母は言った。私はそれに頷いた。

 約束だ。

  母は私にはなにも望んではいなかった。ただ、生きて欲しいと。生きて、元気でいて欲しいと言っていた。
 母が死んだ今、私はなにも生きる術がない。目的がない。ただあるのは、胸にぽっかりと空いた、空虚の残骸だけ。何もない空白の暗闇は、いつしか私自身を飲み込んでしまう。

 目的は、既に与えられていた。
 私はそれを実行せねばならない。

 例え、母がこんなことを望んでいなくとも、私は鯉伴に逢い、話さなくてはならない。話し、怒り、母の想いを全て受け止めてもらわなくてはならない。

 今になって、鯉伴の娘になろうとは思わない。明かすつもりもなど、さらさらない。しかし、母のことはしかっかりと伝えなければならないと思うのだ。母がどれだけ、鯉伴を想っていたのかを、伝えなければならない。

 だが、これは最後でなくては。

 鯉伴がしっかりと、原作の最後まで生き残り、山吹乙女を見据え、思い出した時に。

 課題は山積みだ。まずは強くならねばならない。全ては、この世界では力だ。畏れだ。いつまでも子供のままでは駄目だ。

 強くならねば。
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