山吹の散る頃に




 ノルマを達成し、自主練や雨造の相手も終わった鯉乙は、会議が終わっただろう時間に赤河童の元へと向かっていた。

 赤河童のいる大広間は、あまり妖怪が集まらない。集まる時といえば、飯の時間と、会議の時くらいだ。

 赤河童の気に障らぬよう、妖怪の殆どはイタクや淡島の元へと集まっている。

 だから、赤河童の元に行く途中は、誰もいないので静かなのだ。
 特に大広間となると、森の奥に位置するので、更に静かになる。


(緊張するなぁ)


 久々に会う赤河童の顔を浮かべ、苦笑いをすると、奥からイタクが来るのが見えた。

「あ」

 あちらはこちらが声をかけるまで気づかなかったようで、少し驚いたような目つきになった。

「……何でお前がここに?」

 怪訝そうな顔を浮かべるイタクに、鯉乙はまた苦笑した。

「いや、少し話があって……。イタクは?」

「俺はお前の報告だ」

 それより、ノルマは達成したんだろうな?と殺人者級の目つきでいうイタクに対し、鯉乙は「もちろん!」という笑顔で答えた。

「そうか。ならいい」

「?」

 いつもはそう言うと、自主練しろだの雑用手伝えだの言うイタクが、今日は優しくそれだけを言い残し去って行く。

 少々気持ち悪さも覚えたが、それよりもイタクに自分を認められた感じがして、嬉しいと思ってしまった。
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