第1話 その翼は運命に導かれて


調査兵団に入団したのは、こんな私でも誰かの役に立つだろうか、とただそれだけのことだった。
私の代わりなどいくらでもいる。それでもこんなちっぽけな私の命を、あの日、兵長は救ってくれた。
それからずっと私は、兵長のために命を懸けたいと強く想い続けている。


調査兵団特殊医療班の兵士として──。


「私がリヴァイ兵長の元で、ですか?」
「そうだ。早速だが明日から合流してもらいたい」
「明日から……!?」
「そんなに驚くことかい?兼ねてから君が希望していた事だろう」

調査兵団を率いる絶対的存在──エルヴィン団長は、私に柔らかな笑顔を向けながら言った。

「とは言え、いきなり全ての班を編成し直すのは難しい話だからね。まずは試しに、君にはリヴァイの班に配属してもらう。その様子を見て、特殊医療班がどんな役割をしてくれるのか、実戦でどういかせるのかもう一度判断したい」

特殊医療班の必要性を証明出来なければ、このチャンスをものに出来なければ、この話はなかったことになる。そして私の実力が試される場所は……調査兵団内でも一番厳しいとされるリヴァイ兵長の班。

「リヴァイのところじゃ不服かい?」
「いえ!滅相もございません……!」

不服なんてどころの話じゃない。私にしてみれば願ってもないことだ。
だってあの兵長の班で、兵長の傍で……兵長の……!

「青くなったり赤くなったり、何やら忙しいなナマエは」

団長に苦笑いされてしまい、思わず顔を伏せた。


リヴァイ兵長──私が心の底から尊敬してやまない人。
もちろん、団長や他の団員も尊敬していることには変わりない。その違いは「好き」という特別な感情があるかないか、ただそれだけのこと。
そう、私にとってリヴァイ兵長は誰よりも何よりも、この命に換えてでも守りたい大切な人だった。
ちなみに団長は私の気持ちなど知る由もないだろうから、私が兵長の班に配属されたのは偶然の代物だろう。

あぁ、口を滑らせていそうな人が一人いたような……。


「私がエルヴィンに?まさか!」
「本当に本当ですかハンジさん!うっかり喋っちゃったりとか……!」
「大丈夫。ナマエの気持ちは誰にも言ってないよ」

その言葉に安堵の溜息をついた。

「それよりついにナマエの実力が認められたんだね」
「そうなるんですか?」
「そうじゃなきゃ、エルヴィンは了承しないよ」

もし本当にそうなのだとしたら、こんなに嬉しいことはない。

「しかも配属はあのリヴァイの班だ。特殊医療班の代表としては本気で頑張らないと」

団長との話が終わった後、私はすぐにハンジさんの元へ向かった。兵長への恋心を知っているのは、ハンジさんとモブリットさんの二人だけだったから……。
でもこの様子だと本当に偶然なのだろう。

「私なんかに務まるのかどうか……」
「エルヴィンの事だから、務まらなかったらこの話は白紙になるだろうね。どう転ぶかはナマエ次第だ」
「分隊長。そんなプレッシャーを与えるような事を言ったら、ナマエが可哀想ですよ」

モブリットさんが、三人分のマグカップをテーブルに置いた。

「わかってないなぁモブリットは」
「何がですか?」
「ナマエはそれはもうそこらの男よりも肝が据わってて、怖い物知らずなんだよ?」

どういう意味ですかそれ。

「それで、問題のリヴァイとはどうなの?」
「相変わらず接点はないですね。挨拶する程度で、あとはいつも通り。私が一方的に想っているだけです」

そもそも私の名前を知っているのかすらも怪しい。そういえば、この不毛な片想いももうすぐ三年になる。

「え、三年間何の進展もないの!?」

そんな前のめりに聞かれたところで、悲しいくらい何もない。

「でもナマエはこの三年間、兵団内でも人一倍頑張ってましたからね。特殊医療班も結成しただけでも凄いことですし」
「それはもちろんそうだけどさ!ナマエがあまりにも健気すぎて……何度も聞くけどリヴァイのどこがいいの?」
「何度も言いますけど、とにかく仲間思いでお優しい方なんです!それに誰よりもカッコ良くて強くて男らしくて……それからそれから」
「一方的に見てるだけなのに、よくもまぁそんなにスラスラと出てくるね。ナマエのリヴァイ好きは相変わらずだなぁ」


大好きなリヴァイ兵長との出逢いは三年前。
私にとって初めての壁外調査の時だった。
門の前に整列した調査兵団がずらりと並ぶ。緊張で強張っている者。数日前から落ち着かない様子の者。逆に高揚している者。私を含めた新兵は様々な面持ちでその日を迎えていた。
無理もない。壁外調査は生きて帰って初めて一人前、と言われているほど過酷なものだ。この門の先に出れば誰しもが死と隣り合わせになる。
けれど私の心は驚くほど落ち着いていた。

門が開き馬が駆けていく。無事に生還するぞ、と声をかけて下さった勇敢な班長の顔を忘れたことは一度もない。その班長が一瞬で死んでしまったこともだ。
順調に進んでいるように思われた私の班は、突如現れた三体の巨人に瞬く間に襲われた。響き渡る叫び声、飛び散る血と肉体、変わり果てた先輩達。残されたのは重傷を負った私と新兵の二人だけ。

「もう終わりだ!うう……っ!死にたくない……!」

巨人達がこちらをじっと見ている。これから私達は捕食されるのだろう。
泣き叫ぶ同期の前に立って刃が折れたブレードを握りしめた。無意識だった。

「ナマエ……!何を……っ!」
「ここは私が食い止める」
「三体もいるのに何言ってんだよ!無茶だ……っ!」
「分かってる。だから貴方だけでも逃げて」

あぁ、そうか。
私は少しでも誰かの役に立ちたいだけじゃない。

──少しでも誰かの役に立って、死にたかった。

だから死ぬことは怖くない。死ぬことで私の命に意味があるのなら。

もう一度ブレードを強く握り直した瞬間、私の頬に何かが勢いよく触れた。初めての感触。それも瞬く間に蒸発していく。頬を拭おうとした私の視界に映ったのは、巨人と戦うたった一人の兵士の姿。

それはまるで閃光のようで、今まで目にした何よりも眩しく思えた。

私達を一瞬で死に追いやろうとした巨人達が次々討伐されていく。信じられない光景だった。その圧倒的な力を目の当たりにしたせいか足が一歩も動かない。
そして戦い終わった彼が、ハンカチでブレードを拭きながら私達に近づいてきた。

「リ、リヴァイ兵長……!」

後ろにいる同期が大きな声でそう呼んだ。
この人があの、リヴァイ兵長──。

「残ったのはお前らだけか?」
「……はい!」
「馬に乗れ。すぐにここから移動するぞ」

同期が涙を流して返事をしている。彼もあの瞬間、死を覚悟したのだろう。
私達……助かったんだ。
殺される直前でさえ静かだった私の心臓が、物凄い音を立ててドクドクと脈打っている。今になって生きているという現実を何倍も実感しているような。

「おい。何してやがる」

兵長の声で我に返る。

「は、はい!」
「早くしろ。さっきのといい、てめぇはさっさと死にてぇのか?」
「……それで誰かが助かるのなら」
「あ?」

しまった。兵長の顔が一瞬にして歪んだ。それどころか確実に睨まれている。当たり前だ。はい死にたいですって即答したようなものなのだから、自分でもバカとしか思えない。

「あ、えと、今のは違うんです。決して死にたい訳じゃ……」
「まぁいい。さっさとここを離れるぞ」

しどろもどろしている私を置いて、兵長は颯爽と馬を走らせる。慌てて私も馬に跨がり背を追った。

「お前達はミケの班に合流させる。その後どうするかはミケの判断に従え」
「はい!」

兵長の背中にはためく自由の翼を見つめる。思い出すのは先ほどの戦う兵長の姿。強くて速くて……眩いほどの光が目に焼き付いて離れない。

「おい、そこの死にたがりはちゃんと聞いてやがるのか?」

先ほどよりもドスのきいた声が耳に響いた。
もしかしなくても死にたがりって私のこと?

「はい、ちゃんと聞いています!」
「ならいい。またいつ巨人が現れてもおかしくない状況だ。しっかり集中しろ」
「はい!」

これがリヴァイ兵長なんだ。
こんなちっぽけな私の命を救ってくれて、今もちゃんと私達を気にかけてくれている。とても強くて優しい人。

「兵長!」
「何だ?」
「先ほどは助けて頂いてありがとうございました!」
「それは生きて壁の中に戻れたら言うんだな」

この時すでに私は兵長に惹かれていたんだと思う。
こうして初めての壁外調査から無事帰還した私は、すぐに医務室で手当てを受けた。肋骨二本と小指一本が折れていたらしい。他にも挫傷や打撲などたくさんの傷を負っていた。

「……生きて帰って初めて一人前でしたよね」
「そうね」
「でも私はただ壁の外に行っただけで、何にもしてないんです。役立たずのうえ、兵長に助けてもらっていなければ死んでいました」

たくさんの仲間を失った。悔しくて悲しくて苦しくて負った傷よりもずっとずっと心が痛い。そしてそれを医療班の人にぶつける自分が何より情けない。

「ここにいる私達医療班は、いつもこうして安全な場所にいるだけだわ。もちろん一緒に同行している医療班もいるけれど、でも戦闘に関しては圧倒的に訓練不足で不得手な者が多いのも事実」

パチンと糸を切る音がして、最後の縫合処置が終わる。

「壁外調査へ向かう背中を見ながらいつも思っているの。貴方達は私達にとっての誇りよ」

その笑顔と言葉が申し訳なくて胸が締めつけられた。

「あの、一つ聞いてもいいですか?」
「何かしら?」
「私に医療班の仕事を教えて頂くことは可能ですか?」
「それは医療班に配属希望ってことかしら?」
「いえ……もっと強くなってもっとたくさん勉強して、戦いながら助けることが出来たらなって」

これが私の原点だった。

力が欲しい。誰かを守る強い力と、誰かを助ける力。その両方が手に出来たら、私も兵長のように誰かの命を救うことが出来るだろうか。
いつか死ぬのなら兵長が助けてくれたこの命は、いつか兵長のために使いたい。そう強く願わずにはいられなかった。
それから私は死ぬもの狂いで訓練をして勉強をしてたくさんの経験を積んだ。私の希望が実を結んだのはそれから二年後のことだった。


ナマエ・ミョウジ。
調査兵団内の所属は自ら結成した──特殊医療班である。
調査兵団医療班はあらゆる医療技術と知識を駆使し、日々団員達を助けサポートしている。そんな医療班の更に上をいくのが特殊医療班だ。
任務は通常の医療班と変わらない。通常の兵士とも変わらない。医療技術を磨き戦闘訓練をし、もちろん壁外調査にも参加する。高い戦闘能力と高度な医療技術を併せ持つ集団、それが私達の特徴だった。

しかし特殊医療班が結成して一年、大きな成果は全く得られていなかった。戦闘と医療、双方のスキルを身につけることが極めて難しいことから、配属を希望する兵士も稀だった。それでも何とか十人まで増えた班員を、五人ずつ二班で構成し努力は続けていた。一方で私達の存在を否定する者がいるのも事実だった。
存続が危ぶまれる中、私は打開策を団長に提案する。特殊医療班単体で活動するのではなく、通常班への派遣を主体とした班編成。つまり五人の班があるとしたら、そこに特殊医療班が一人加わり六人の班とする形だ。何度も団長に直談判しては了承が得られず、半ば諦めていたところだった。

──それがこれまでの私の道程。

色々と思い返していると、ハンジさんに頭をくしゃっと撫でられる。

「ナマエ、ここまで本当によく頑張ったね」
「ふふ。ありがとうございます」
「成功するように私達も全面協力するよ。ね、モブリット」
「もちろん」
「ハンジさん、モブリットさん……」

嬉しくてつい目頭が熱くなっていく。

「あ、でも出来れば引き続きこっちの手伝いもお願いしたいんだけど」
「それはもう、ぜひ!」
「ナマエ、そんなにたくさん仕事を引き受けて大丈夫なのか?それで体を壊したら……」
「いいんです。それに私、お二人とお仕事するのが大好きなので」
「ナマエっ!君は本当に真面目で純粋で仕事バカで可愛いなぁ!」
「分隊長、そこは仕事熱心と言うべきでしょう……!」

その日私は、ハンジさんの温かい腕の中でたくさん笑った。





明くる日。
ああ、どうしよう。未だかつてこんなに緊張したことはない。今まさにあの兵長の隣に立っているけれど、手足どころか全身が痺れていると言っても過言じゃない。

「今日からこいつが班に加わる事になった」
「特殊医療班から参りましたナマエ・ミョウジです。共に戦う事はもちろん、皆様の治療や看護、毎日の健康管理を担当させて頂きます。こうして特別医療班が加入することはまだ実験段階です。皆様には大変ご迷惑おかけしますが、どうぞよろしくお願いします」

深々とお辞儀をする私に拍手が送られる。

「とりあえず今日からこいつもお前らと同じ訓練を受けてもらう。特別気を使ったりする必要はない。それから今後は気分が優れない時や負傷した時は、すぐにこいつに報告しろ」
「「はい!」」
「早速訓練を開始する。お前も戻って整列しろ」

兵長の訓練は、兵団内でも一番厳しいということで有名だった。
私についていけるだろうか。意地でもついていかないと。特殊医療班の未来は私にかかってるんだから。

「ようナマエ。難しい顔してどうした?緊張してんのか?」
「ルッツさん!お久しぶりです」

訓練場所までの移動中、最後尾を歩いている私に声をかけてくれたのはルッツさんだ。私が新兵の頃、一番よく指導をしてくれたのは彼だった。お世辞にもお兄さんとは言えない年齢だしガサツなところはあったけど、面倒見がよい彼を皆とても頼りにしていた。

「お前がリヴァイ兵長の班に来るとはなぁ。驚かせやがって」
「一番ビックリしてるのは私自身ですよ」
「はっ、間違いねぇ」

この豪快な笑顔もルッツさんの特徴だ。

「うちの班は厳しいぞ。やれるのか?」
「もちろん。死ぬ気でついていきます」
「お前のそういうところ、昔と何も変わってなくて安心したよ」

そういうルッツさんも相変わらずだ。頭をグシャグシャと撫でられ、妙な安心感を覚えた。

「さぁ着いたぞ」

今日は立体機動装置の訓練だ。初日からこの訓練はハードルが高い。

「他の班員を見ながら同じようにこなしてみろ」

口で説明するよりも実践で覚えていけということか。ある意味話は早くてわかりやすい。
言われた通り次々と訓練をこなす先輩兵士達をじっと見つめる。さすがリヴァイ班の方達だ。一目で他の兵士達よりも強いことがわかる。
よし、最後は私の番だ。いつも通りにやればいい。それからここが壁外だと思って全力で戦えばいい。

「行きます!」

十五メートル級の巨人に見立てた人形達。それらのうなじを削いでいく。幾度となく訓練した巨人との戦闘実戦形式だ。
いつものイメージを思い浮かべた。速くて無駄の無い、大好きな兵長の動き。頭に描けば私にもきっと出来る。

「思ってた以上に凄いですね」
「あれが特殊医療班かぁ!噂には聞いていたけど俺よりずっと速くて正確だね」
「それは言えてるな。あいつ、また腕上げやがって。可愛くねぇな」
「ルッツさんの教え子でしたっけ?彼女」
「そんな大層なもんじゃねぇよ。あいつは一人で勝手に大きくなっちまったからな」
「へぇ。ルッツさん知り合いなの?じゃあ後で紹介してもらおっと」

最後の人形を仕留めゴールの木にアンカーを刺して止まる。平常心を保ったまま、イメージ通りの動きが出来たと思う。アンカーを外し地上に降りると、兵長とバッチリ目が合った。
前言撤回。やっぱり平常心なんて無理に決まってる。目が合っただけで心臓が跳ねてるもの。これは早いとこ慣れないと、このままじゃこっちの身が持たない。

「いいだろう」

兵長が私から目を逸らす。ひとまず及第点は貰えたらしい。
その後も厳しい訓練は続いた。置いていかれないように必死に全力でついていったけど、不思議と疲れは感じられなかった。


訓練を終え最後は班員全員の健康管理をする。初日ということもあり、今日は一人一人医務室で丁寧に診察することにした。

「はい、これで大丈夫です」
「ありがとう。助かるよ」

怪我の治療や些細な症状も確認していく。
こうして接して分かったことは、皆あまり医務室を利用せず、傷や痛みを我慢する傾向にあるということだ。医務室の利用は重傷レベルじゃないと、なんて先入観でもあるのだろうか。

「ルッツさん、睡眠薬は指示された量以上は服用しないで下さい」
「おう」
「お酒と併用するなんてもっての外ですよ?」
「わかってるよ」
「怪しいな。ちゃんと守っているか私が毎晩お部屋に伺いましょうか」
「あぁ?ふざけんな」
「はいはーい。それなら俺の部屋に来てよ」
「テオ。いいところに来た。交代だ」

上手いこと逃げられた。もう、本気で心配してるのに。
代わりに座ったテオさんがニコニコと笑顔を浮かべている。

「じゃあ次は僕の番!」

テオさんはリヴァイ班の中で、ルッツさんの次に腕が立つ兵士だ。それなのにほとんど既往歴がないし、医務室を利用した記録もない。

「で、ナマエちゃんは恋人とかいるの?」
「……恋人?いませんけど。あの、そんなことより一つお聞きしたいんですが」
「ん?なになに?」
「左足、怪我してませんか?訓練中の動きを見ていると少し庇っているような気がして。もしよろしければ診察させてもらえませんか?」

あれほど軽快に話していたテオさんが急に静かになった。気に障るようなことを言った覚えは多分ない。

「ごめん。俺ナマエちゃんのこと舐めてた。どうしよう。本気で惚れちゃいそう」
「はい?」
「ぜひ左足を診て下さい!」

テオさんの笑顔が増した理由はわからなかったけれど、私の診断は間違っていなかったらしい。こうして一緒の班員になればやはり健康管理は格段としやすくなる。小さな怪我なんかにもいつでも対応してあげられるし、日々の体調の変化にも気付くことが出来る。
そして私達特殊医療班は、より戦闘技術を上げる機会を与えてもらえる利点がある。今日一日がこんなに有意義なものになるなんて思ってもみなかった。


カチャリ、と医療器具がぶつかり合う音が誰もいない医務室に響く。ふう、と息を漏らしたのもつかの間だった。

「おい」

静寂を裂く低い声に思わず背筋がピンと伸びる。その声の主が誰かなんて私には愚問だった。

「兵長。お疲れ様です」
「訓練後にも関わらずご苦労だったな」
「いえ、これが私の仕事ですので。お気遣いありがとうございます」

兵長が労ってくれた……!どうしよう。嬉しすぎて今すぐ飛び跳ねたい。いやいやそんなの絶対不審がられる。
平常心平常心平常心……心の中で唱え続けて。

「……あの時の死にたがりが、人を救う特殊医療班を結成するとはな」
「ふぇっ!?っげほ、げほ!」

バカみたいに間抜けな声が出た。

「何むせてやがる」
「いえ、っ……その、びっくりしすぎて……」

今死にたがりって言いました?絶対に言いましたよね?それってもしかしなくても、私のことを覚えていて下さってたと解釈してよろしいんですよね!?

「お前みたいな変人そうそう忘れねぇだろ」

やっぱり兵長は覚えていてくれたんだ。変人っていうの表現が良いのか悪いのかわからないけど、この際もう何でもオッケーだ。

「あの、改めまして……このたびは私のような変人を受け入れて下さりありがとうございます!兵長の班で訓練することが出来て光栄です。どうぞ明日からもよろしくお願い致します」

あと凄く凄く大好きです。口が裂けても言えないので、こうして心の中でだけは言わせて下さい。

「……あの頃から少しは成長したみてぇだが、まぁせいぜい頑張るんだな」

兵長が踵を返すと背中の自由の翼がはためいた。変わらない大好きな背中だ。

嬉しい。こんなに嬉しいことはない。今なら何だって出来る気がする。ほら何だか体もメラメラと……熱い。心なしか視界もぼやけてきた気が……。
あれ。これ本当に発熱してる……?

こうしてとても有意義な私の一日は、幕を閉じたのだった。


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