推しと狐と役に立たない伝書鳩

※恋愛的には二宮夢ですがやっぱり東さんしか出ません

コレの続き












「東くんさあ、なんでそんな口軽いの」

「可愛い部下の恋路を応援したいだけだよ」

「一緒に! 戦ってきた! 同期も! 大事に!!」

 先日、遠回しにいなしていたはずの二宮くんからついに宣戦布告されてしまった私は、元凶を叩くべく東くんに食って掛かった。お前のせいでもう推しとか呼べなくなるじゃんどうしてくれるんだと噛みつけば、いけしゃあしゃあとこんなことを言うのだから、完全に分かっててやってる。ムカつく男である。
 
「二宮のこと悪からず思ってるんだろ? 試しに付き合ってみればいいじゃないか」

「簡単に言ってくれるよね、他人事だと思ってさあ……!」

 机に突っ伏して頭を抱える私に対し、東くんはカラカラ笑うだけ。性格が悪いことこの上なし。結束ちゃんの主張はまっこと正しい。私が保証する。大学院の研究棟なら誰にも水は差されないだろうと足を運んだが、わざわざ来て出迎えがこれでは先が思いやられる。だが、私は数少ない味方かつ理解者たり得る人間を失うわけにはいかないのだ。
 
「大体、何がそんなに嫌なんだ。現にお前だって二宮のこと気に入ってただろ」

「それ、マジで聞いてるなら東くんに恋愛説教受ける気になれないんだけど」

「おいおい、そんな斜に構えることないだろ」

「マジで言ってる!? 二宮くんと私、いくつ離れてるか知ってるでしょ!?」

「大袈裟だな。たかだか5つだろ」

「されど5つだよ!」

 あ、あれ、計算違いだ。東くんなら理解してくれると思ってたんだけどな。どうもこの顔を見るに私の苦悩は伝わっていないように見える。東くんも理解しがたいとばかりにかぶりを振る。
 
「分からないな。中学生と付き合うならまだしも」

「さんすうをお忘れなら教えてあげますけどね、私たちが大学生の頃、あの子たちは中学生だったんだよ」

「流石に暴論すぎるだろ。今じゃお互い大学生だ」

「じゃあ聞くけどね、東くん。あなた加古ちゃんに告白されたら真剣にお付き合い考えられる?」

 東くんの表情がぴしりと固まる。セレブ感満載の可愛い後輩も、二宮くんと同い年だったはず。たかが5つと彼は言う。だが、本当にそうなのだろうか。

「想像して。可愛い後輩からの告白。5歳差。恋愛に年齢は関係ないっていうけど、相手は華の大学生だよ。自分なんかより相応しい相手がたくさんいるって一瞬でも思わない? ただ年上だから、よく見えてるだけだろ、っていなさない自信はない? あの子たちに見せている顔は、年上だから自制しただけの仮面だと、どうして言い切れないの?」

「それは──」

 あの東くんを言い負かせるなんてこの先10年はないだろうな、なんて思いながら、上手い言葉を探し続ける彼を見据えるが、結局答えはなかった。ほれ見ろ、自分だって同じ立場なら困るんじゃないか。しかし、思い当たる節はないのかこの男。意外だ。なんだかんだ東塾の生徒は多い、オペレーターから戦闘員に至るまで、彼に熱を上げる子もちらほら目にするのだが。あれか、あまりに恐れ多すぎて告白までは至れないパターンか。うーん、読み違えたな。

 なんにしても、この顔を見るに多少は理解を得られたようでほっとした。
 
「ちょっとは理解できた?」

「思いのほか二宮のこと考えたんだな、とは思ったよ」

「推しだもん、そりゃあね」

 嬉しくないわけではない。顔も頭も申し分なかろう。それこそ、普段会話してたらどっちが年上が分かったもんじゃない。それでも、彼と私の間に横たわる年月は、彼が思う以上に分厚い。後先考えず彼の手を取ることを、躊躇う程度には。

「だからさあ、この件でお節介焼くのは止めてよね。私も推し活、控えるからさ」

「はいはい分かった分かった」

 後日、「あなたを年上だと思ったことはない」と私の言葉を曲解したであろう二宮くんに正面切って喧嘩を売られる羽目になった。もう東くんには相談しねえ。



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