推しと狐とお節介な伝書鳩

※恋愛的には二宮夢ですがほぼ東さんしか出ません














 特定の人間がツボに入ることってあると思う。私にとっての二宮くんがそれだった。

「いやもうほんと二宮くんなんなの。なんでランク戦してるのに黙々と雪だるま作ってるの。観戦席から丸見えだよね? 気付いてるよね? 分かっててやってるよね? いやもう笑わずにいられる? あの顔で! 黙々と! 雪玉転がして!! もー、なんであんなにおもしろいんだろあの子。東くんどんな教育してんの?」

「してないしてない」

 同じボーダーに所属する五つ年下の二宮くんは、ここ数年お目にかかったことのないレベルの面白人間だった。なんだろう、ああいうのを『天然』って言うんだろうか。いかにも真面目で、クールで、優秀そうな──実際そうなんだけど──顔してるのに、なんかこう、抜けてるっていうかおとぼけっていうか、とにかくこう、面白いのだ。

「あーもーほんと笑った。あの子、死ぬ前に英国博物館に寄贈されないかな」

「人権も何もあったもんじゃないな」

「だって勿体ないよ! あの面白さは後世に残すべきだよ!」

 だが、私のツボを理解してくれる人間はそういない。ボーダー隊員は比較的年齢層が若い。大学生の二宮くんは若手からすると、『怖い』『近寄りがたい』『パーフェクトヒューマン』みたいな印象があるようで、イマイチ私の二宮くん像が伝わらない。なので同い年で同期の東くんをひっ捕まえては推しトークに洒落込むのである。

「お前ほんと二宮好きだな」

「大好き。マジで推せる。私、ロンドンに永住してもいい」

 それぐらい、二宮くんを推しているのだ私は。まあ、この「好き」はアイドルとかお笑いタレントとかを「好き」というのと同じで、恋愛的な意味ではない。ただ、私が場所を問わず二宮くんトークを繰り広げるせいで、私を二宮くんのガチ恋勢だと思ってる隊員も少なくない。多少は控えねばならないか。

「ロンドンに永住されるんですか」

 なんて話していると二宮くん本人がやってきた。相変わらず険しい顔だ。だがこの顔の下にあの面白人間が隠れているのだと思うと、可愛く見えてしまうのは年上の性というやつか。

「しないよお。そもそも、ボーダー辞める気ないからね」

「そうですか」

 それだけ言って、彼はすたすた去っていった。何しに来たのあの子。さっさと遠ざかる二宮くんの後頭部を見ながら首を傾げていると、東くんが堪え切れないような顔で吹き出した。

「ああいうの見ると、お前の『推せる』って気持ち分かるな」

「でしょ? やっぱ東くんは話が分か──」

「だから、さ。いい加減、相手してやれよ」

 ……手痛い返しだ。東くんの賢さは戦術面でも勉強面でも大変お世話になってきたが、こういう時にも発揮されるんだから困りものだ。二宮くん、もうどっか行ったよな? 私は周囲に人気がないことを確認してから、ため息を吐いた。



「若気の至りだって、ああいうのは」



 後日、本人の口から「若気の至りのつもりはありません」と直接宣戦布告されることになった。東くん口軽すぎない?



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