9.5

家出早々、同居人ができるとは夢にも思わなかった。おまけに相手は、素性も分からない未来からの旅行者。叔父やドロメダたちになんて説明すればいいのか。一応、ホムンクルス体を持ち帰っているので、『許可なく俺の家には来るな』とは言ってあるが……。

余計なことを口走らなければよかったと、ほんの少しの後悔を胸に頭を抱える俺に、フラメルはガッハッハと他人事のように笑い飛ばした。そっちにしてみりゃ他人事だろうが、腹が立つ。



「残念だったな、ブラック。憧れの一人暮らしは、当分先の話らしいぜ」

「いや別に、それはいいんだけどよ……」



からかうようなフラメルの言葉。悩みはそこじゃねえんだよとぶん殴ってやりたくなる。そもそも、別に俺は一人暮らしがしたくて家を出たんじゃない。帰る家があそこじゃなきゃ、俺はホームステイだろうがルームシェアだろうが何だってよかった。寧ろ人がいる方が──。

い、いや、だからってこんな怪しい奴と同居なんかできるか。けど、流石にそこは俺個人の感情の問題だ。世界の根幹を揺るがすような事件を前に、私情を挟む隙がないことぐらい俺も理解してる。だから何も言わないでおく。というのに、フラメルの攻撃はまだ止まない。



「へー、お前のことだ。独り暮らしなんて始めた日にゃ、女連れ込んで性欲発散の毎日かと」

「あんたこの一年間、俺のことそんな目で見てたのか!?」



人聞きが悪いにもほどがある。誤解されたらこれから先の生活により支障が出ると、思わず女の方を振り返ったが、首だけ女は思いつめた顔で黙りこくっているだけだった。どうやら、また何やら考えごとを始めたようで、こっちの話は耳に入っていないようだった。

フラメルは静かに、くつくつと笑う。



「冗談だ。お前の女嫌いっぷりは俺だって知ってるさ」

「一かゼロでしか物事を考えられないのか、あんた」

「実際、嫌いだろ」

「……いや、そんなことは」



ない、と思う。だが、不思議とそうも言い切れなかった。人にそんなことを言われたのが初めてだったので、意識したことすらなかったのに。俺って女嫌いだったのか。いや、そんなことはないと思う。

自慢じゃないが、俺は女子生徒に人気がある。付き合ってほしい、恋人になってください、顔も覚えてないような相手からそう言われたことさえ、もはや珍しくもなんともない記憶だ。どうも俺は背が高くて勉強ができて、おまけにかっこいいのだという。成績なら──あまり認めたくはないが──ジェームズの方がいいし、リーマスだって背が高い。見た目で言えば、同じようなのがスリザリンにもいる。そんな中で、そいつらが何故俺を良しとしたのか、俺には今一つ理解できなかった。だが現実として、俺はしょっちゅう知らない奴から声をかけられた。



『女の子からの人気ぐらいだよ。僕が唯一君に勝ち目がないと思えたのは』



ジェームズでさえ、そんな皮肉を飛ばすぐらいだ。俺にはよっぽど、異性としての魅力があるのだろう。それを特別望んだわけでもないし、あってもなくても困らないものだった俺にとっては、どこに行っても気を引きたそうにチラチラ見られる煩わしさの方が勝っていた。けど、別段興味がなかったわけじゃない。俺だって可愛い子がいれば『いいな』と思ったし、性欲発散の毎日、とまでは思わないが、ヤリてえなと性欲を持て余すこともある。ジェームズほど誰かを一心に思い続けることは俺の人生には一度も訪れなかったが、何となくいいなと思えば、告白されて付き合ったこともある。当然、何となくで付き合ったのだから、大して長続きもしなかったわけだが。

特別、女を好きだと思ったことはないのは事実だ。全く興味のない女友達の愚痴やらファッションやら流行の曲やらの話をされるよりも、悪戯の計画を練っている方が楽しかった。甘ったるい匂いが充満するマダム・パディフットの店よりも、俺は異臭悪臭で漂うゾンコの方が好きだった。けど、そんなもんだ。その程度、謂わば好みの度合いの違いだ。だからフラメルの言うように、女を女だからって疎んだことはない。……はずだ。

だが何故か俺にはフラメルの言葉を否定し切ることができず。



「ま、何にしてもだ。慣れないだろうが、しっかりやれよ」

「……そりゃ、まあ」

「安心しろ。大抵の不満は金で解決できる。法に触れない程度なら、好きに使っていいぞ」

「いいのか!?」



思わず前のめりになる。俺だってある程度の金銭援助が受けてる。一人で生きていく分には申し分ない額を、だ。だが、それはあくまで叔父が稼いで、叔父の好意からもらえた金だ。無駄遣いする気はなかったし、俺に散在癖もない。食い物と本、あとは来学期に向けて薬品の買い足し、使い古した魔法道具と丈の合わなくなったローブの新調。それだけできれば十分だと思っていたが、そこまで言われちゃ話は別だ。ふくろう通信にだって、学生じゃ手が出せない学術書がゴロゴロ眠ってる。こりゃいいこと聞いたとばかりに指を鳴らす俺を見て、ダンブルドアが困ったように微笑んだ。



「金庫の名義は君にすべきだったかの」

「ケチケチすんなよ、アルバス。飼育──いやいや、研究費と思えば安いもんだろ、なあ?」



人の金にこれだけデカい顔できる奴も珍しい。まあ、この二人にとって金なんて稼ごうと思わなくとも湧き出るようなもんだしな。俺も遠慮なく、その財力にあやかるとしよう。



「つーわけで、グレンジャー。お前も遠慮しなくていいぞ。ホムンクルスたってレディなんだ、身だしなみにはちゃんと気を使うこった」

「(生首相手に身だしなみも何もないだろ……)」

「ああ、そうか。首と腕戻してやんねえと、それどころじゃねえか。おい、おいグレンジャー」



俺の心を読んだかのようなタイミングで、フラメルはそんなことを言う。対して思いつめたような顔で考え込んでいた女は、ハッとしたように目を瞬いた。



「お前の身体」

「身体?」

「いつまでも《首無し騎士[デュラハン]》気取ってるわけにもいかねえだろ。胴体と首をくっ付けに行くぞ。いいな」

「あ、はい」



そうしてフラメルは徐に女の首を引っ掴んで立ち上がり、ダンブルドアの方を振り返る。



「俺とこいつはしばらく席を外す。首がくっつき次第、戻る」

「それがいいじゃろう」



そう言って、二人は音もなく消え去った。まるで窓についた水滴を拭き取るようにサッパリと、その場から消えて居なくなってしまったのだ。相変わらず、どういう原理かちっとも分らない移動魔法だ。これが俺たちにも使えればと、歯痒い思いをしていると、急にどこからかアールグレイの香りが漂ってくる。振り返ると、ダンブルドアが小ぶりなティーキャディの横で、ティーポットに湯を注いでいるところだった。



「ミルクや砂糖は必要かね?」

「いや……俺、甘いものはあんま、」

「おお、そうであった。それでは、特別なブレンド・ティーを用意しよう」



そう言いながら、ダンブルドアは心なしかウキウキした様子でティータイムの準備を進めていた。その匂いを嗅いでいると、ふと自分が空腹であることを自覚し、腹もぐうと呻き声を上げた。そういや、昨日の夜から何も食ってねえんだった。そんな俺を見かねてか、目の前のテーブルにポンと音を立てて、大皿に乗ったサンドイッチが出現した。



「二人が戻るまで時間がかかるじゃろう。さあ、お食べ」



そんなダンブルドアの言葉に、俺は一も二もなくサンドイッチに飛びついた。スモークサーモン、クレソン、ハム、チキン、ピクルスなど、定番の具がずらりと並んでおり、俺はどれも一つずつ取って食べた。穏やかな表情でそれを見守りながら、ダンブルドアはティーカップを俺の方に差し出す。ダンブルドア直々に淹れた紅茶なんてそう飲めるもんじゃないなと思いながら、カップに口を付ける。アールグレイのわりに強烈な渋みが舌の上に広がり、朝の眠気も吹き飛ばすほどだった。



「ホグワーツ特製ブレンドじゃ」



茶目っ気たっぷりにダンブルドアはウインクする。アールグレイとアッサム……あとケニア茶葉のブレンド、といったところか。甘味が苦手な俺でも飲みやすく、香りも芳醇だ。世界最高峰の魔法使いは、紅茶の淹れ方も一流ときた。この爺さんにできないことなんてあるのかよ、と思いながらひたすらに空腹を満たしていく。



「──さて」



大皿が粗方空になり、俺の腹の虫も機嫌が直ってきた頃だった。ダンブルドアもまたティーカップを手に香りを楽しんでいるものと思ったが、どうやらそれは俺の見間違いだったらしい。ダンブルドアは穏やかな語り口でいながらも、真摯な目で俺を見抜いたのだ。



「本来であれば順を追い、事の道筋を促すのが教育者としての在り方じゃが、我が友ニコラスが用意した時間はあまりに短い。そこでじゃ、シリウス。結論から申し上げよう。わしは校長として初の試みになるが、君に宿題を課そうと思う」



宿題、と言いながら、やってもやらなくても困るものではないことではないらしい──いや、本来宿題はやらなきゃならないものか──。自然と、俺の背筋も伸びる。だが、ダンブルドアが俺に何をさせたいか、分かる気がした。要はあの女のことだろう。わざわざフラメルの名前を出すあたり、誰の目にも明らかだ。情報を抜き出してこいとか、その活動を報告しろとか、そういう類の──。



「君には、アシュリー・グレンジャーとの仲を深めて欲しいのじゃ」

「──は?」



ダンブルドアは、殊更ニコニコした顔でそんなことを宣った。いや、まあ、そういうやり方も、回り回ってあいつの情報を抜き出すことに繋がるだろう。けど、わざわざ仲良くなる必要ってないだろ。そりゃ、親しいフリして懐柔する方が、よっぽどスムーズに情報を聞き出せるだろうが。意図が飲み込めず、思わず不躾に聞き返したが、ダンブルドアは気にも留めず俺の心を読み取ったかのように続ける。



「わしは彼女が“誰”か、非常に強い関心を抱いておる」

「そりゃ……俺だって……」

「そうじゃな。彼女が我々に敵意がないことは、もはや疑いようもない。しかし彼女はあまりに何も語れぬ立場じゃ。そこにどのような意図があろうとも、彼女の知る『未来』は、値の付けられぬほどの価値があり、同じほどの危険が孕んでおると、我々は互いに理解し、合意した。しかし──」



そこまで言って、ダンブルドアは言葉を切った。まるでこっちに問いかけているような空気に、俺は流されるようにして続きを紡いだ。



「だからって、情報が少なすぎる。研究の手掛かりになるかもしれねえってのに!」

「その通り」



そうだ、いくら敵意がなかろうと、未来を語ってあいつの知る未来を変えてしまうリスクを恐れて何も話せないのだとしても、『未来への時間旅行』なんて過去に例のない研究に着手するんだぞ。どんな些細な情報だって必要になる。何故あいつが死ぬことになったのか。何故あいつは過去にやってきたのか。その時代背景、懇意だった人間、どういう生まれで何を成して生きていたのか、そういった情報も手掛かりになるかもしれねえってのに、あいつは何も語らない。ふざけやがって。誰のための研究だと思ってんだ!



「しかし、彼女の信頼を砕いてまで秘密を暴くことは有用な手段とは言い難い。彼女は一学生とは思い難いほど優秀な魔女であるとは、君も恐らく理解できていることじゃろう。《真実薬》、開心術──どれもがその信頼にヒビを入れるだけでなく、彼女の秘匿とする情報をつまびらかにするには力及ばぬ手段であると、そう考えておる」



それは……まあ、確かに、ダンブルドアの開心術に対して真向から抵抗したような女だ。無理やり口を割らせるには些か手強い相手だろうとは、ロクに閉心術を学んだことのない俺にも重々理解できる。



「そして何より、彼女は我々と──いや、この時代の全てに適応せぬよう、ありとあらゆる手段を用いて拒絶の意を示すじゃろう。気を許すことが情報の漏洩に繋がることを、あれほど警戒心の強い子であれば、十分に理解していよう」

「そんな奴と仲良くなって情報を取ってこい、って?」

「そう構えずともよい。彼女は列記とした人間じゃ。我々と同様にの。当然、隙もあれば、肩の荷を下ろす瞬間はきっと訪れよう。その一瞬を逃さず、彼女の硬い鎧を突き破ることができるのは、シリウス、君じゃとわしは確信しておる」

「……お、俺が?」

「いかにも」



ダンブルドアの真っ直ぐな目に、俺はたじろぐ他なかった。必要な行動だと、理解はできる。だが、人選ミスだと言いたかった。ダンブルドアの慧眼にどんな景色が見えてるか知らないが、俺にそれができるとは到底思えなかったからだ。

事、人間関係でいえば、俺は不器用な方だという自覚はあった。人に好かれるよう努めたことはないし、あるがまま振る舞うことを良しとした。俺がそうすればするほど、家の連中がいい顔をしないと知っていたからだ。そういうのはジェームズの得意分野だ。ジェームズはどんな奴の懐にも飛び込んでいくし──俺が知る限り、そういった意味であいつが報われなかったのは対エヴァンズぐらいだ──、『小さなふわふわした問題』のせいで他人を気を悪くしない程度に遠ざけ続けたリーマスだって振り向かせたほどだ。あいつにはそういう才能がある。それは俺にはない能力だと認めている。俺はああはなれない。正直、ジェームズが居なければ、監督生にも抜擢されるほど優等生気質のリーマスや、いつも怯えたようにオドオドしているピーターとは仲良くなれなかっただろうと、思うほど。

そんな俺が、いけ好かないなと思った女に対してアプローチして、情報を引き出せと。



「シリウス、君には彼女の人となりについてを観察し、記録し、時には話を聞き出し、わしにつぶさに報告して欲しいのじゃ。どんなことでもよい。彼女の趣味・嗜好、思想、魔法に対する価値観、どんなささやかなことでも構わぬ。わしはその情報を元に、彼女の身元──或いは、彼女がいずれ生まれてくるであろうその血筋を調査しよう」



……そうか、あいつまだこの世界に産まれてない可能性もあるのか。寧ろ、何十年と未来からやってきたという魔法省の連中の言葉を信じるなら、その可能性の方が高いだろう。あいつも人間。犬や猫の胎からは産まれてこないなら、この世界に父親や母親、祖父や祖母という存在がいるはずなんだ。ダンブルドアはそれを探るという。

だがそれは──俺がその宿題を、まともにこなせればの話だ。



「あいつの観察して、報告することはできる。でも、その宿題はできない。きっと、無理だ」

「ほう。何故かね」



やる前から何を弱気なことをと思いながら吐露する。ダンブルドアは不思議そうに眼鏡の奥でブルーの瞳を丸くしていた。何でもなにも、宿題をこなすための一番の障害が目の前に横たわっているからだ。



「俺、あいつのこと、好きになれない」



俺にしては言葉を選んだ方だ。だが、ハッキリ言ってしまえば、俺はあいつが嫌いだった。

好きになれるわけないだろ、あんな怪しい奴。悲劇のヒロイン面でこっちの信頼を踏みにじり、勝手知ったるとばかりに喋りかけてくる女。どうやって好きになれって言うんだ、あんな奴。そりゃ、俺にジェームズほどの蛮勇さがあれば、或いはリーマスのように繊細な気遣いがあれば、そうでなきゃピーターみたいに、人の命令を真面目に聞く奴だったら、話は違ったかもしれない。だが生憎と俺はシリウス・ブラックだ。ジェームズでもリーマスでもピーターでもない。嫌いな奴と親しくなるなんて、絶対できない。それができるなら、俺は今頃グリモールド・プレイスで家族と仲良く昼食を囲んでる。ダンブルドアの課題は、困難極まる。女から情報を引き出すという目的だけなら何とかしてこなしてみせよう。だが、あいつと親しくなるなんて、絶対無理だ。できっこねえ!

だというのに、ダンブルドアときたらクスクス楽しげに笑うだけだ。こっちは真剣に話してるってのに、なんだこの爺さん!



「んだよ! こっちは真面目に──ッ!!」

「これは失敬。年を取ると些細なことで気が高揚してしまうでな。しかしシリウス。そんな君だからこそ、わしは彼女と懇意になって欲しいのじゃよ」

「だからそれは──」



言っても聞いてるのか分からない爺さん相手に、俺は思わず声を荒げる。しかし、対するダンブルドアの表情はどこまでも穏やかで、柔らかく微笑んでいるだけだった。



「アシュリー・グレンジャーにはの、君のような存在が必要じゃ」



しかし表情に反し、そう力強く断言するダンブルドアの言葉は、俺の両肩に非常に重く圧し掛かった。そうしなければならない、そうならなければならない。ダンブルドアの言葉の裏には、そんな声が潜んでいるような気がした。あいつと懇意にすることが何故そんなにも重要なのか、そう訊ねるより先にダンブルドアの長い人差し指が立てられ、口元に寄せられた。すぐさま俺の背後には、フラメルと、白いワンピースを着た女が立っていた。どうやら、フラメルが折った腕と首は問題なくくっついたらしい。



「首つけてきた。そっちは?」

「うむ、つつがなく」

「よしきた。ホラ行くぞガキども」



そう言うが否や、フラメルは俺の腕を引っ張って無理やり立ち上がらせる。振り返った先にいるダンブルドアの目は、やはり力強く俺の両眼を見据えている。そこにどんなメッセージが隠されているのか、読み取るより先に目の前の光景がぐにゃりと歪んでいく。背中から引っくり返っていくような感覚に、ひゅっと喉が鳴る。思わず目を瞑ること数秒、目を開けてみれば見慣れぬ自宅のリビングが広がっていた。どうやら、これ以上話すことはない、と判断されたらしい。



「後でふくろうとカタログ送っとくから、必要なもんがあれば買っとけ。金はアルバスの金庫から落ちるようになってるから、好きにしていいぞ。俺らに連絡取りたきゃそのふくろうから手紙でも出してくれりゃいい。そんじゃーな、ガキども。喧嘩すんなよ」



言いたいことだけベラベラ喋ってから、口を挟む間もなくフラメルは姿を消した。残ったのはまだまだ見慣れない自室と、俺と、見慣れない女。ちらりと横目で見る女はしばらく無言のまま、何かを噛み締めるような顔でやがて俺の方にちらりと目線をやった。

冷たい、ヒトを拒絶するような目だ。



「喧嘩にはならないよう努める。それでいいね」



──女の立場を想像すれば、その態度にもいくらか納得はできた。ダンブルドアも言っていた。俺たちの思惑に相対するように、こいつは俺たちを拒絶するだろうと。親しくなってしまえば気を許し、口を滑らせてしまうかもしれない。だから拒絶する。そうすれば俺たちも深入りすることはないだろうと、思っているのだろう。普通はそうだ。

それにこいつには曲がりなりにも、壁を作るだけの理由がある。ただ危険な存在だからと、その正体を隠すために俺たちを避けていた、かつてのリーマスとはワケが違う。リーマスには申し訳ないが、こいつが内包する危険は遥か上回る。だから俺たちだって、本来なら踏み込まないはずだった。ただ、つつがなく研究が進むために、最低限のコミュニケーションが取れればそれでよかったはずだった。

あの、宿題がなければ──だが。



「……そりゃ、願ったり叶ったりだな」



しかし、俺の口から出たのは、責任やら使命感なんかクソくらえとばかりの、俺の心情あるがままのセリフだった。そんな俺の言葉に、傷ついた素振りも見せない女は、フンと鼻を鳴らすだけだった。

ダンブルドア! 俺やっぱ、こいつと『仲良く』は無理だって!


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