さて、これからどうしようか。
当たり前のことなのだが、黒田軍の皆さんはひどくおびえている。
大の大人の集まりなのに。情けないことだ。
「ねえ、官兵衛さん」
「ひっ。な、なんで小生の名前を」
「さっきまで煩くそこの人たちが呼んでたじゃないですか」
もう面白いくらいにビクビクしてる。
改めて自分を見ると、かなり血まみれだった。
これ、いい服だろうに。
足利さんには悪いことをしたと思う。
「心配しなくても、私死ねないだけですよ。あとは普通のどこにでもいる一般人です」
一般人。
私の感覚から言うとそうなのだけど、この人たちからしたら違うだろう。
何せ、数日前までろくに着物も一人で切れなかったのだから。
一般人どころか、ただの役立たずだ。
そんな心中を知るはずもない官兵衛さんは、相変わらずおびえている。
可愛い人だ。私よりずっと年上だけど。
いいリアクションをしてくれる。
「この穴、出口はいくつもあるんですよね?」
「あ、ああ」
「それじゃあ、一番近い出口まで、連れて行ってくださいよ」
「え、それだけか?」
目をパチパチと瞬かせて(もちろん見えなかったけれど、雰囲気的に)拍子抜けしたようにそう言われたので肯定する。
なんだか安心したらしく、官兵衛さん含め、鉱夫さんたちもなんか和やかな感じになった。
うーん。不死身が目の前にいるのに、こんな感じでいいのだろうか。
こんな感じでいいんだろうな。この人たちは。
「それくらいならお安い御用だ。むしろ送らせてくれ」
朗らかに笑うこの人は、とてもじゃないが天下を目指す群雄には見えない。
その辺にいる、人のいいおじちゃんのようだ。
話を聞けば、一番近い出口は甲斐の城下近くらしい。
早くても二三日は一緒にいることになりそうだ、と。
「改めまして、私は名を夢叶と申します。縁あって足利義輝様にお世話になっている身です。どうぞ、よろしくお願いいたします」
「そうか。足利義輝にってええー!」
いいリアクションだよ、官兵衛さん。
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