※残酷描写アリ
【黒田side】
「わあ、綺麗なおべべが血まみれだ」
「しかもこりゃあ、すごい上等じゃないか」
「あわわわわ、知らんうちに小生、どこかのお姫様を……」
いつもの不運で転がりだした鉄球が、いつもよりずっと早く止まった。
どうやらこの娘さんにぶつかったことで止まったらしい。
肋骨は折れている上に、心臓や肺なんかも潰れているようだ。
また穴蔵がどこかの庭につながっていて、そこから落ちてきたんだろう。
出来た穴は見えないから、かなりの距離を歩いてきたはずだ。
落ちた時に怪我もしていただろうに。
顔だけは無傷で、目も開いている。
綺麗な黒い瞳と、傷んでいない綺麗な黒髪。
着ているものからも察するに、かなりの上流階級の娘さんだろう。
本当に可哀想なことをした。
「せめて丁重に弔ってやろう」
そう言って死体に手を伸ばした時だった。
「死んでないですよ、私」
空耳かと思った。
けれども確かに目の前の死体は口を開いたのだ。
しかも、小生と目があった。
「あー、痛いなあ。痛い痛い」
手をついて当たり前のように体を起こす。
周りにいるものも小生も固まったままだ。
「思ったより重傷だなあ。まあ、治るか」
完全に小生達を置いてけぼりにして、自分の調子を崩さすに娘さんは喋る。
そしてその言葉通り、娘さんの手が何度か自分の傷をさすると、胸は本来の厚みを取り戻した。
折れた肋骨が治ったっていうのか。
「治ったけど、やっぱり重傷は重傷だよなあ」
妙に間延びしたというか、内容に釣り合っているようないないような話し方が、出て行ってしまった部下を思い出す。
「さて、どう落とし前つけてもらいましょう?」
にやりと歪められた唇は、どうにもこの枷をつけたやつを連想させる。
少なくとも、箱入り娘には到底できない笑顔。
又兵衛へ、小生はもう駄目かもしれない。
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