パry
2011/11/11 07:30
【となりに黒羽くん】
それは見ているだけで息を呑む、呼吸一つすらはばかられる光景だった。
一段、二段、三段、………そして現在九段目。
市販品の中でも小さいサイズのトランプは、その小さなボディで巨大なピラミッドを形成しようとしていた−。
(もうすぐ最上部か…)
現在一番後ろの席から見渡せる前方では、教師が黒板に漢文とレ点と訳とを書き出している。カツカツとチョークが黒板とふれて立てる音でさえも、繊細なピラミッドに影響しないかと心配になった。
ふぅ…、と隣の黒羽が額の汗を拭った。今日の午後は小春日和とも言うべきうららかに晴れた日で、ほんの少し蒸し暑い。
俺も詰めていた息をそっと吐く。
黒羽の席には、授業中とは思えない緊張感が漂っていた。
(あとは、一番上に二枚乗せれば−)
だがしかし、そこで思わぬ事態が起こった。
ガラララ……
(!?)
窓際に座る前から二番目の奴が、突然窓を開け放ったのだ。
教室の空気が変わる。少し涼しい風が入ってきた。そう、風が。
(あ、馬鹿。焦るな!)
風で全てが台無しになるのを恐れてか、黒羽が慌てて最後の二枚を手にした。だが、そこに先ほどまでの集中力は無い。
そんなんじゃ繊細な作業など出来るとは思えない。
パタ…
パタパタパタ…
最上部に乗せたカードのすぐ下の段の端がパタリと倒れた後はあっという間だった。
崩壊を止める術もなく、無残にもカードは机の上に散乱する。
カタン…と軽い音を立て、椅子に座り込む黒羽。手で顔を覆い、背中を丸めてドヨンとした空気を醸し出している。大層ショックを受けているようだった。
(あーあ…。あ、)
残念だったな、とかコメントを言うに言えない雰囲気(そもそも今は授業中だ)、しかし何とか元気付けてやれないかと考えて、今朝方幼なじみの友人から貰ったお菓子を思い出した。「今日はポッキーの日だからお裾分けよ」とくれた物だが俺は大して甘い物を食べたい方じゃない。しかし隣のコイツは確か昼飯時に甘いパンだのイチゴミルクだのの甘味飲料を口にしていたから好きだろう。
授業が終わったらくれてやろうと考えて、俺は周りに気づかれないようにコッソリ鞄を漁るのだった。
【何なんだろなコレ】
無理矢理感溢れるポッキーネタの混入。
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