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あの頃は金髪の男の子を見る度に「あの子がオウジサマ?」とジェラルドに聞いては「ちがう。それにまだ早い」なんて返されていたな。

もしやこれは、現実逃避というものだろうか。いや走馬灯?走馬灯なら私は死にかけているということになる。それはごめんだな。そんな事を考えながらもベレスはナイフを構えて男に向かって振り下ろした。




――――――それは絵本を貰ってから数年経ったある日だった。
ベレスを覆いかぶさっていた男の喉元を切り裂いたことでぼたぼたと頬に伝う赤い色に、嗚呼……やはりオウジサマなんて御伽噺でしかなかったんだな。とあの時の貰った絵本の事をベレスは冷静に思い出していた。





無表情な彼女の上からズルッ、と息絶えた男の体が地面へ倒れ込む。



この男は討伐を依頼されていた盗賊の一員だった。傭兵団の皆と上手く離れさせられ、(やられた)と思っていたらベレスが女と見るやいきなり服に手にかけ、ニヤニヤと下品な笑みを浮かべながら覆いかぶさってきたのだ。

大人しくしていれば痛い目には合わせねぇよ、と臭い息を吐きながらそう言われて降参をする振りをして隠し持ってたナイフを喉に突き立てたのだ。もがき苦しみながらクソ女と言われた気がしたが同じように「クソ男に言われたくないね」とこれもまた無表情に返していた。





ベタベタする……
そう思いながらついた血を振り払うが夥しい赤はこびりついて離れてくれなかった。


あの絵本では、オヒメサマがピンチの時、オウジサマは颯爽と現れていた。
私はオヒメサマでもなければ誰に守られるような女でもない。だからオウジサマなど幻想だったのだ。



サンタを信じられなくなったような感じかな。そういえばあの時もジェラルドがサンタの正体と知ってショックだった記憶がある。ハァ、私もまだ子供だったのか。

体は大きくなってきていたが未熟だったな。と無表情ながらにため息を吐く。

いつまで経ってもあの絵本に憧れる少女では居られない。傭兵には生と死しかない。殺すか死ぬか。だからこの男だって殺した。


だがまだ少し、オウジサマへの憧れの夢に浸かっていたベレスを襲った盗賊はよりにも撚って、くすんだ金の髪と濁った青い瞳の男だったのだ。オウジサマ、と一緒の色だった。オウジサマを実際に見たことないが北の国の王族は絵本のように金髪で青い瞳を持っているというので実際のオウジサマもこの男の色みたいなものだろう。


若干夢見てた(というのはジェラルドには内緒だ)のが打ち砕かれたのでいい機会だったのかもしれない。




「気持ち悪いな」


落ちることのない血ともう動かない男を見て吐き捨てるようにそう言って、「ああ、早く戻らないと」相変わらず何を考えているのか分からないと言われる表情で立ち上がった。






ぼたり、血と一緒に男の吐き出された精が落ちる。ああ本当に気持ち悪くて最悪だ。


来ることも無いオウジサマに夢を見ていた私も
この男も、何もかもがだ。



その日からベレスは金髪碧眼の男が生理的に苦手になった。







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