旅は道連れ
刺されたような鋭い痛みを感じながら起きると、左目がドクドクと脈を打っている。
「いた……っ」
止まらない痛みに何が起きたか分からず辺りを見渡すと口を開けて寝ているイリアが目に入る。
どうして彼女がここに?そもそもここはどこだ。
テントの中、という事は狭いこの空間と背中から伝わる寝心地の悪さから分かっていたが、なぜこんな場所にいるかは分からなかった。
最近気を失う度知らない場所にいることが多い気がする。いや怖いなそれ。焦りにも似た気持ちで彼女を起こさないようにテントの外へ出ると、起きたんだね。と焚き火を炊きながら柔らかく微笑む見覚えのある青年に左目の痛みも忘れて鳥肌が立った。
「なんっ、えっ?は!?お前何故ここに!?」
「熱が下がったんだね。元気になって何よりだよ」
「ユウリ!起きたのか!?」
隣のテントからはあの時であったデュランダルの転生者であるスパーダが飛び出して、抱きついてきた。
あの時の操った男と違って不思議と嫌悪感はないが、いや何だこの組み合わせ!?どこここ誰だおまえ!寝起きの頭がさらに困惑していく。
「ちょっと、離れなよ。彼女は病み上がりでしょ」
「ユウリ、熱は大丈夫か?ん……完全には下がってねぇみたいだな。今日軍事基地から薬かっぱらってくるからよ。無理はしないでくれ」
「いや、なに?なんなの怖い怖い」
謎の男の話を聞かないスパーダに私の質問をスルーする謎の男に誰か助けてくれと、逃げようと思っていると流石の騒ぎにユウリがいたテントからイリアがダルそうに欠伸をしながら出てきた。
「ふぁあーぁ……まったく男達は朝から元気ねぇ…………ってユウリ!アンタ熱は?!」
「助けてくれ訳が分からないんだ」
「ちょっとユウリの混乱に乗じてスパーダアンタ何抱きついてんの!このセクハラ剣が!!」
「いってぇな!!?」
「私の味方は居ないのか」
抱きついていたスパーダをイリアが引き剥がして先日料理に使ったお玉で彼の頭をぶん殴ると、ようやく開放されたユウリはそういえば、いつの間にかに左目の痛みが無くなってるな、と思い出したように眼帯を左目につけ直した。
するとその時、スパーダが出てきたテントからルカも出てくる。髪の毛を整えているユウリに近づくと下心を感じない手つきでそっとその体温に触れてきた。
「あっユウリさん!おはよう!熱は……あるけど昨日よりは意識ははっきりしてるね。突然こんな場所で驚いたよね……ひとつずつ説明するからまずはご飯を食べて元気をつけようか」
「アスラ……。お前だけが味方だ…………」
「えっ大丈夫……?」
Я
「……つまり私を助けるために軍事基地へ向かう道中、未知なる力を使う敵と戦うためにこいつの力を借りて勝ったからやむを得なく連れてきた、と?」
「そっちはオズバルドの前で散々暴れた結果ナーオス軍事基地に連れてかれて研究材料になる所だったのを逃げ延びたと思ったらあんな危ない森の中で気絶した、と?」
うぐっ。冷静に結論を告げられるとめちゃくちゃ私が悪いように聞こえてくる。
彼らはあくまでユウリを助けるべく動いてくれていたのだ。
確かにあのままであったら魔物に襲われていたか運がよく魔物に襲われなくても熱でくたばっていた可能性が高い。
グゥの音も出ず、最初は前世の縁という理由だけでは断ろうとしていた旅への同行も恩人であるという点を踏まえると、断り辛くなってきてしまっていた。だが目の前でニコニコと微笑む男を前にすると、嫌気がした。
「……前世の縁があるからとはいえ助けてもらったことには感謝するし、恩返しはしたいが……そのコンウェイと言ったな。お前が苦手なのでお前達の旅の同行はしたくない。以上だ」
「豪速球の言葉のボール投げてくるね。オブラートって言葉知らないでしょ君」
「もっと言ってやれよユウリ。勝手に着いてくるんじゃねぇってな」
「ちょっとスパーダ君、何ユウリの隣に座ってるんだい」
「転生者でもねェお前は知らねぇんだろうが前世のユウリと前世の俺はこれくらいの距離が普通だったんだよ!」
「ルカくんがユウリは前世では母親って言ってたもんねなら親子の距離感にしては些か不純だね」
ギャーギャーと騒ぎ立てる男2人にイリアはあいつらは今はほっておいて!と話を続ける。
「アンタを助けるのも目的だったんだけど、あの軍事基地にはナーオスの聖女もいるのよ。その人も転生者で、出来れば助けたいんだけど……アンタも来ない?」
イリアにこうして誘われるのは2度目だ。一度目は誤魔化してしまったまま別れたが、イリアの前世であるイナンナはユウリの前世であるカグヤと親友同士だった。その為、本来なら断る理由の方が少ないのだが、自分の中で、その記憶が曖昧な為素直に首を縦に振れなかった。
そんな思い悩んでいるユウリを見兼ねたのか、ルカがそっと提案をする。
「えっと、とりあえずユウリさんの解熱剤と聖女奪還の為に一緒に軍事基地には向かって、そこまでの道中で今後の同行決めるのはどうかな?」
「…………それであれば」
ルカの提案に悩んだ末に捻り出した答えに、イリアがぱぁ、と表現を明るくして喜ぶ。
「やった!改めてよろしくね!ユウリ!あたし、夢で見るカグヤとイナンナの関係に憧れていたの!」
「……あ、あ。よろしく頼む。イナンナ」
「ちょっと今はイリアよ。そう呼んで」
「イナンナ」
「……アンタ、自分はカグヤと呼ばれるのは嫌がるのにあたし達の事は前世呼びなのね……」
「……、前世で縁があって共に行く事になるなら、前世がなければ今世はただの他人だろう。ならば縁があった名前で呼ぶ」
そうだ。だから、そこで騒いでるデュランダルの転生者の少年も、ただの勘違いなのだ。
ユウリは、彼の母親ではない。
求められても、困るのだ。