馴れ合い始まり
握手を返さなかった事は何とも言えない顔をしていたがスパーダは諦めて手を提げて「ま、よろしく頼むぜ」と笑った。
気のいい性格、という事はわかった。だが何故か私の中の燻る感情(愛しい、他人、物なのに話すな、可愛い、息子、× × × ×、 )そんなのがぐるぐるしては、吐き出せず曖昧な受け答えしか出来なくなっていた。
アスラの転生者だというルカ、とイナンナの転生者だと名乗るイリアの二人は同じく他人、だが嫌悪感などはなかった。寧ろ扱いやす…………
パァン!!!!
思わず、頬を叩く。今私は何を思った……?
「……私を何を……?」
「こっちのセリフよ!!急に自分の頬を叩いて何がしたいのアンタ!」
ほら頬はれてるわよ、強くて叩きすぎよ。
引き気味だがイリアは突如自分の頬を叩いたユウリにも治癒術をかけてくれる。
「……すまない、まだ混乱してるみたいだ」
「まあこの状況じゃ無理もないわよ。アンタ、カグヤと違ってめちゃくちゃな感じギャップすごいわね」
「お前には言われたくないセリフだな……」
「言えてるわ。今でもあの女の事思い出すとうぇってなるしね」
「イナンナの事が嫌いなのか?」
前世なのに?その言葉は飲み込んでイリアの赤い瞳を見つめると「大っっ嫌いよ」そう吐き捨て可愛らしい顔立ちを歪ませてオエッと嫌悪感を表す。
「男に媚びる事で生きるような女なんて最悪でしかないじゃない。アタシはそんなの真っ平御免よ。アンタもカグヤの嫌なところとかあったんじゃないの?」
「……どうだろうな、お前たちと違って私の夢の記憶というのはあまりにも曖昧なんだ」
治癒術をかけ終わったらしく、礼を述べて距離を取ろうと一歩下がった時、イリアは「じゃあさ!!」と離れかけたユウリの腕を捕まえて前のめりに声を上げる。
「あたし達と一緒に来ない?あんたのカグヤの記憶を取り戻せるかもしれないじゃない!!あたし達、絶賛前世の仲間募集中なのよ」
「……それは、私に利点がない」
今現在ユウリは大分混迷してしまっているが元々はと言うと、アシハラという愛しい故郷の住民を奪った教団を排除すべく旅立ったはずだ。
それが気がつけばその名を教団に無理やり勧誘されかけ牢獄されるという不条理極まりない現状に苛立ちからか声が低くなる。
目の前の少女は何も悪くない……それどころかこうして治癒術までかけてくれているというのに半ば八つ当たり気味になってしまっていた。
「利点…ああ。メリットね……メリットというか……これはあんまり言いたくなかったけどあたしはこの記憶と力のせいで故郷を追われたの。アンタもカグヤって事がバレてる訳だからあたしみたいな目に会うかもしれないし……一時の行方くらまし、って感じでどう?」
故郷を追われた?転生者だから?
好き好んでそうなった訳でもないのに、なんともまぁ難儀な事だ。
……これもつまらない八つ当たりだ。だからその言葉を飲み込んで、イリアから聞いた話でここに来る前に襲われた謎の仮面女を思い出す。
もし”アレ”が前世のせいで執着したものだとしたら確かにまた狙われたら厄介だ。そういえば街にいたあの女顔の男も「君に運命を感じた」とかやばい事を言っていた気がする。”ソレ”も前世に関する事なら私には行く先々変質者に好かれる羽目になるという事だ。
チラリ、とデュランダル……の転生者である青年を盗み見る。【私】には彼が必要だ。
「……チトセが言っていた覚醒、というのはどういう事だ?」
イリアの求めている同行への答えではなく、質問を返して誤魔化す。
彼女は特に気にした様子を見せずに「あーなんだっけなー」と言いながらアタシ説明苦手なのよ、とルカを呼んだ。
「えっと、さっき居た軍人曰く、覚醒っていうのは強く前世を思い出した……って事らしいよ。前世の力を今使えるようになってさっきの……その、ラティオ兵みたいに前世の姿に変えれるようにもなるみたい」
「お前たちはその覚醒、とやらをしているのか?」
「いや……僕達はまだ記憶が虫食い状態で全部を思い出した訳じゃなくて、力も少し使える程度だよ。だからこうして前世の縁がある人たちを探す旅をしていたんだ」
ルカのわかりやすい説明に、成程と頷くとイリアも「そうそうそんな感じよ!」と大分雑な同意で食いつく。同じくスパーダも「俺もまだ完全じゃねぇな」とルカへ肩を回した。
「ていうかよォ、お前ほんとにアスラか?情けねぇな」
「うっ……デュランダルに言われるとは思ってなかった」
「……そう、だな。まさか人へと転生するとは」
先程握り返せなかったルカの肩に回されたスパーダの手をじっと見つめる。紛うことなき人間の青年だ。前世では人の言葉を話す、物だったのに。その言葉を飲み込んで彼らの会話の続きを聞く。
「天上界において「その刃斬れぬモノは帯剣者のみ」そう歌われた無比の名剣……そしてアスラの友ってな。まあ今思えばアスラって剣に話しかける変な奴だったよな」
「そんな剣を我が子のように可愛がってたカグヤの前でそれを言うのねアンタ」
「おしとやかさの欠片もねぇイナンナの転生者には言われたくねぇな」
アンタは全然剣っぽくなくて普通の人間みたいね!そう言って舌を出すイリアとスパーダが嫌味の応酬を繰り広げていると「無駄話はそこまでだ」と先程ラティオと化した兵がやって来た奥の薄暗い通路から聞こえてきた。