強制別路
パチパチパチ。わざとらしい拍手をしながら小太りの中年が下卑た笑みを浮かべながらその巨体を揺らしてこちらへと見下した視線を向けた。
「献体に使うのは惜しい位だ。マティウスめが持ってきた個体も中々使えると見える」
「けっ。そんな事で褒められても嬉しかねぇな」
「それで?あたし達は合格なわけ?」
「献体?……合格……?何の話だ」
スパーダ達と戦う前は前世の記憶に引っ張られていたせいで記憶が曖昧であるユウリは目の前の小太りの男……オズバルトを睨むと「随分威勢がいいと見える」と面白くなさそうにユウリを一瞥した。
「お前たち転生者はこの世界のゴミだ。だがゴミはゴミなりに役に立つ道がある。ひとつはその力を献体として我らの研究対象になるか戦場でその力を発するか、だ。そしてお前らは献体ではなく地獄の激戦区、"西の戦場"へとご招待してやろう」
西の戦場。それは王都兵とガラム兵が今現在国土争いで激戦区となっている場所だ。ルカが戦場なんて嫌だよ!と震え上がるが「貴様らの戦闘能力ならかなりの戦果を挙げられるだろう。簡単にくたばるなよ」と聞く耳を持たないオズバルドはそれだけを告げて立ち去ろうとしたが「まだ聞きたいことがある」とその手をユウリが掴みあげると彼の両隣にいた仮面を着けた男達がユウリを抑え込む。
「貴様っオズバルド様の手を離せ!」
「いっ……!、……チッ。力が入らん何をした?」
「ユウリ!」
「そのグリゴリって仮面を着けた不気味な奴ら、転生者の力を封じるのよ!」
通りで……。舌打ちして抑え込む仮面の男を睨む。のしかかられている事もあるが、そもそも体が自分のモノじゃないように重い。ユウリに掴みかかるグリゴリから助けようとしてくれたのかスパーダがこちらに剣を向ける前に、別のグリゴリによって彼もねじ伏せられる。
「不便な体だ……」
「ほほう、……よく見ると中々いい体をしているじゃないか。ん?どうだ?慰み者として使ってやるのも悪くない」
望んで転生者になった訳じゃないのにこうして無様を晒す事になりギリッ、と歯を食いしばる。押さえつけられたことにより強調された胸に下卑た視線を向けるオズバルドへ「死ね豚」と唾を吐くとさらにグリゴリの拘束が強まった。
「クソっ!!この糞ガキが!」
「ぐっ……!」
「ユウリ!やめなさいよ……この!」
「ユウリさん!」
「コイツだけ連れてこい!こいつはあの"マティウス"のお気に入りだ。アイツも気に食わんからな……嫌がらせに献体として使ってやる!」
「ユウリ―――!」
ルカ達が無理やり西の戦場行きの電車へと連れ込まれる中、ユウリは二人のグリゴリへ引きずられる形でオズバルドの後ろを歩かされる。
スパーダの叫び声が背後から聞こえてくるが、それよりもこの状況をどうしたものかと拘束している両隣りのグリゴリを睨む。
(厄介ね。本当に厄介だわ。力が使えない。……恐らくこのグリゴリとやらは死神の力を持っているのね。どうしましょうか。どうしてやりましょうか)
「……どこへ連れていく気だ」
「とある軍事基地で貴様の体を使ってやる。ゴミはリサイクル、と言うだろう?再利用だ。感謝しながらくたばってくれ」
「ゴミを増やしそうな豚にリサイクルという概念があることに驚きだな」
バキンっ。拘束が強まり嫌な音がした。折れたな……これは。しばらく黙った方が利口なのかもしれない。
無言で連れ歩かされる中、別れ際に見たスパーダのあの悲痛な顔が何故かずっと頭から離れなくてそれに更に苛苛と胸のムカつきが収まらなかった。