私じゃない"私"の話



目が、左目が熱い。

まるで焼けるような痛さを感じて左目を抑えて蹲る。
左目は激痛が走っているのに体はふわふわと浮いているような感覚がして思考が定まらない。

光へと飛び込んだと思ったのに。若草色の髪の少年へドロップキックを食らわせた後、またこうして夢の中に囚われている。


この場所は"嫌だ"本能がそう思い、何故か心臓がバクバクと煩く音を立てるのでハッ、と短く息を吸って吐く。暫くすると視界が晴れてきて、見たことがない場所……いや?知っている場所?でも知らないような、よく分からない景色が見えてきた。






始まりは父と母が仲違いしたことだった。









誰かの声が直接脳内に響き渡る。誰か?誰かじゃない。これは【】の声だ。
いや……違う、これは私じゃない。何を言っているんだと言われても仕方が無い思考の定まらなさに、もしかしてまだ寝惚けているのかもしれない。


そんな私の気持ちとは裏腹に脳内の声は淡々と続いていく。




あの時の私は幼かったが今でも鮮明にあの光景は思い出せる。

父がほかの女神を好きになった、と言って母に一方的に別れを告げたのだ。
母は勿論それに反論した。だが父はそんな母を疎ましく思うだけで二人の距離はどんどん離れていったのだ。




これは、誰の話だ?
牢屋で出会った少女が「繰り返し見る夢」は転生する前の体の記憶と言っていた事を思い出す。
その話からすると私の前世とやらはよく夢で見るカグヤ、という女神のはずだ。

だが、これはカグヤの記憶ではない。夢の記憶が正しければ自然が豊かな大地から産まれる花の女神たるカグヤとサクヤには親はいない。

だから、まるで他人事のような感覚があるが目の前で喧嘩する夫婦とそれを見て泣く【】の姿は確かに”覚えていた”。




両親が仲違いをして喧嘩する毎日、そしてそれを見て泣く私。
毎日毎日それが繰り返されてる中、私はふと、思い立った。


その頃、幼い私は「不思議な力」を使えていた。

その不思議な力は"人の記憶や感情に感化することが出来た"のだ。何故そんな力を使えていたのかは分からない。今思えばあれは「忌み子」としての力だったのだ。
でも私は力が使えることを誰にも言わなかった。それを"有効的"に使っていたからだ。



友達と待ち合わせが遅れた時、ちょっと記憶をいじって待ち合わせの時間を変えた。
母の悪い事をした私に怒っている感情を宥めさせた。
私に吼える犬に私を好きにならせた。



それくらい、だった。力を持っていたとしてもやったことも、出来たことも、子供のささやかなものだ。
その力を使って犯罪や罪などは犯したことはなく、あくまで子供の思い当たる範囲の可愛らしいものだったと、今はそう思う。

だが父と母が険悪になった時、初めて他人に私の力を使った。今までは自分自身への感情や記憶しか使ったことは無かったからそれこそ、必死だったのだ。


この"素敵な力"を使って父上と母上を仲直りさせればいいんだ!!と、


父が他所の女神なんかより母を好きになる。
母は父に怒っていたことを忘れる。


そうすることで父と母とても仲良くなった。
今までよりおしどり夫婦と呼ばれるようになった。
幸せな家族に戻れるのだ、と思っていた。






おもって、いた。












わたしはこの出来事が"罪"だと言うこと後から知った



Я



ポタリ。頬が濡れる感覚で目を開ける。


「……ゆ、め……?」

「カグヤ!!ぐぉおお!!」

頬を拭うとどうやら左目から涙が流れていた。
先程見た夢の影響だろうか?カグヤと叫んで私の顔を覗き込んできた名前を間違えまくる失礼な少年を張り倒して起き上がると腹部が若干痛む気がした。

「わりと元気じゃない……ほら、一応治癒術かけたけど痛いところは無い?」

「腹部が若干痛む……いやその前に誰だ」

「あっそっか。つい昔なじみの感覚になってたわ」


スパーダ!!と私が張り倒した少年に駆け寄る銀髪の少年には王都の時に見覚えがあったが他2名と可愛いサルのような生物には生憎初めましてな記憶しかない。それなのにやけに親しげな視線を送られてる気がして首を傾げる。

「あたしはイリア。イリア・アニーミ。前世はイナンナだったわ」

「前世、…………ってことはチトセが言っていた転生者ってやつか?」

「なんで他人事なのよ……あんたも転生者でしょ?カグヤの転生者ってさっき豚が言ってたわよ」


「豚……?すまない、状況を整理させてくれ。王都で変質者に閉められて気を失ってから記憶が無いんだ。ここはどこなんだ?」


「あー……あたしそういうの向いてないんで……ルカ!!パス!!」

「ええっ!!?ぼ、僕?!」

「おお、少年、膝枕以来だな。元気だったか?」



膝枕……?あんた知り合いなの!!?
膝枕……?てめぇなんて羨ましい!!

イナンナの転生者と名乗った赤い髪の少女とわたしが張り倒した緑の髪の少年は息ピッタリにハモる。

なんだか収集がつかなそうだ……と他人事のように3人を眺めていると「アスラ……!!」とまた新たな第三者が現れた。


今度はなんなんだ、とそちらに目を向けると殺意と憎悪をもった視線で王都の騎士服を着た兵士が、こちらを睨みつけていた。
これは、お腹が痛いから休みますとか言っている場合では無さそうだ。いやそれにしてもまた聞き覚えのあるなだ。
正確に言えば、夢の中で聞き覚えのある名前だった。


「アスラ……?」

「お前が……!!お前に殺された我が同士の仇!!」

「っルカ、カグ……おい、お前!!下がれ!!!!」



視野でわかるほどの禍々しいオーラを纏った王都兵はこちらに向かって近づいてくる。そして、



「アスラァァァァ!!!!」

「くるぞ!!」



そう叫びながら「元」王都兵だった化け物がこちらに向かって襲いかかってきた。


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