前世の縁




恐怖で立てそうにないルカを咄嗟に庇うように大太刀を構えるとそれよりも前へ出たのは先程ユウリが吹き飛ばしてしまった若草色の少年……スパーダ、とルカに呼ばれていた彼だった。腰には揃いの双剣が備わっている。それを一瞥し、一言「行けるのか?」と並び立つスパーダに問いかけた。


相手は人ではない。いや、人"だったもの"だ。魔物ではない。それを分かっているのか、と問うと少年はニヤリと笑って「当然」とこちらを見てその双剣を構えた。



「心に剣を持ち、誰かの楯となれ!……昔、じいがよく言ってた言葉だ。お前ら!怪我しないように下がってな!!」



ぶわり。スパーダが放った声と気迫に鳥肌立つ。嫌悪からではなく、懐かしさと愛しさと、あと、………私はこの目の前の男を、否、魂を知っている。


「デュラン……」


「この気迫……!!まさか……デュランダル!!?」

私の口が勝手にその名を呼んでしまう前に、ルカが叫んだ。
そうだ、デュランダル。私の愛しい愛しいデュランダル。


剣の形をしてなくても、魂が彼が”アレ”だと認めていた。



「デュランダル……アスラの愛剣であり、親友の……剣……」


そして私の大切な大切な、× × × 。


はっ、と口を抑える。私は今なんと言った?大切な、息子?子供?いやそれらでは無い。だがそれらを告げていた場合、私は、カグヤである事を否定できなくなる。

カグヤが大切にしていた子供……それは人でも神でもなく恋人バルカンによって作られた剣なのだから。


スパーダ!!、とルカが叫ぶと同時に彼の双剣が瞬く間に元王都兵を切り裂いた。
手馴れている。剣の太刀筋に息を飲むと怪我はないか?と真っ先に私を見つめた。


「ああ、……ルカと言ったか?コイツに怪我は無さそうだ」

「ルカもそうだけどあんたもだよ、俺が思いっきり蹴っちまった。イリアが治したとは言え痛みはないか?」



本気で心配をする目だ。何故だ?先程会ったばかりの他人なのに。
他人でないとすれば、先程飲み込んだ言葉……「息子や子供」という前世の縁があるのだろう。私の人格が他人からなるものと認めたくはない。認めたくはないが……


「……距離が近い、とにかく離れてくれ」

「あ、ああ、わりぃ!」


出番を完全に取られたユウリは武器である大太刀をしまいながら「それで?」と少し距離をとって3人の少年少女を改めて睨んだ。


「3行以内で今の状況を纏めてくれ。だいぶ混乱してる」

「俺がデュランダル、
そっちがアスラ。
そいつがイナンナ。
お前はカグヤの転生者」

「ダメだ。3行以内で纏めてくれ」

「めんどくせぇなお前!!?今のでわかるだろ大体!!」


カグヤは智将だったのにお前は阿呆なのか?!と失礼なことを言う自称デュランダルをもう一度張り倒したかったが自覚すると、そういえば可愛い気がするな?????と謎の感情にいなまれる。
チトセの言っていた、繰り返し見る夢は前世の記憶。それが正しいのであれば私はカグヤ。そしてこいつらは今言った通りの転生者、なのだろう。
頭が痛い。期待をするような視線にも、私の前世の記憶とやらの「矛盾」にもこの状況の全てに。

彼らの正体はわかった。ならば次に聞くべきなのは今ここは、どこなのかという事だ。
チトセと話したあと、記憶がところどころ曖昧になっている。敵になにかされたんだろうか?いやそもそも私を連れてきた画面の女はどうしたのだろうか?疑問符疑問符疑問が募るばかりで答えはこの目の前の少年達に頼るしかないのが癪だった。


背に腹は変えられなくて、舌打ちするのを抑えて若草色の……デュランダルの転生者、スパーダに改めて目を合わせる。


「…………ここはどこだ?」

「転生者研究所とやらだってよ。俺は王都で暴れていたら捕まってコイツらは」

「同じく王都を出た所で捕まったのよ。でもカグヤに会えたし結果オーライじゃない!!」

「カグヤじゃない」

「……?違うの?でも……気配は……」

「っ……今は、カグヤじゃない」

「あっそっかそうよね。今の名前まだ聞いてなかったわ。改めて私はイリア・アニーミ。こっちはルカ、で、あっちが」

「えっと、ルカ・ミルダ、よろしく。王都ではありがとうございました……一応、アスラの転生者、です」


「こっちあっち人を指すな。……スパーダ・ベルフォルマ。デュランダルの転生者だ。会いたかったぜ、カグヤ」


握手を求める為に手を伸ばしてきた、スパーダを見て息を飲んでしまう。
デュランダル。大切な息子。求めていたはずだ。かけていた心の一部だったはずだ。



【 モノが話すか、気色が悪いな 】

「大切な大切なデュランダル……」


握手を返せずに手に太刀を握る力が篭もる。私には×つの記憶がある。ひとつはユウリとして、ふたつはカグヤとして。そして、矛盾した記憶が。


「……ユウリ。カグヤ、なのかもしれない。一時だがよろしく頼む」

「?曖昧だな。夢はカグヤの夢みるんだろ?」

「……、ああ。だが……」


スパーダを愛しいと無意識に思ってしまう気持ちと知らない他人なのにという拒絶と、カグヤでは無いなにかの記憶で板挟みになり、結局伸ばされた手を掴むことなく、目を伏せた。

「なんで、もない」





ギギギ、
壊れた歯車が動けなくて、それでも動こうとする様な気味の悪い音が心の中で聞こえた気がした。


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