知らないけど"知っている"



誰かに額を撫でられた感覚がして、ハッ、と吐き出した息が詰まる。飛び起きてその額に触れた手を掴んで引き寄せる。
戦いに身を賭してユウリにとって寝込みを襲われたようなものだった為無意識からなる行動だった。

ユウリに触れた手に敵意がないことを感じて掴んだ腕をすぐに離す。その正体は色白の可愛らしい小柄の少女だった。


「す、まない。人の気配に敏感で咄嗟に掴んでしまった」

「いいのよ。気にしないで。貴女はアシハラで用心棒をされていたんだもの」

「……?私を知っているのか?」

「貴女、アシハラでは割と有名人なのよ?ユウリさん」


気が動転していた為直ぐに気が付かなかったが少女はアシハラの特徴的な服装、所謂「着物」と呼ばれる物に身を包んでいてそれを見て直ぐに同郷の者の分かったユウリは改めて「申し訳ない」と頭を下げた。


「いいって言っているのに……あなた案外人がいいのね」

「そう……か?初めて言われたな。所でえーと……」

「私はチトセ、チトセ・チャルマよ。よろしくユウリさん」


チトセと名乗った小説がそう言って手を差し出すとチリン、と彼女の髪飾りに着いた鈴が控えめに鳴り響く。
よろしく、とユウリもその手を握ると寝かされていた硬いベッドから起き上がる。

「……チャルマか、気のせいだろうか?初めてあった気がしない」


「ふふ…その言い方は軟派みたいね、それは私もよ。もしかして"前世"で何かあったんじゃないかしら?」

「前……世……?」

「!、驚いた。それも知らずにここにいたのね。貴女には同じ夢を見続けることはない?それが、前世で起きた出来事で、それを思い出した人が「転生者」って言われているのよ」

「てん、せいしゃ……」

確かに、同じ夢を見続けることに身に覚えはあった。だからといってはいそうですか、とすぐに納得が出来るはずがない。
あれが、本当にあった出来事……?


「……ユウリさんはまだ覚醒してないのね。少しずつ思い出していくといいわ」

「覚醒……?すまないチャルマ。知らない単語ばかりで意味がわからん。もう少し詳しく教えてくれないか?……いや、そもそもここはどこだ?」


ユウリには身に覚えのない場所だった為見渡すと、狭苦しいコンクリ硬めの暗い部屋だった。ひとつだけある窓には格子がしてありそこから光が差し込んでいる。
まるで牢獄だ、と枯れた声で呟く。



「ここは北の戦場近くの軍事基地よ。ユウリさん教団に入るから連れてこられたんじゃないの?」

「教団……?……アルカリの事か?!」

「……アルカよユウリさん。教団のことは知っているのね」

「ふざけないでくれ!!私は入団をするつもりは無い!」


少しずつ意識がなくなる前の事を思い出していくとそういえば仮面を着けた女に無理矢理意識を飛ばされてそこから記憶が無い。
何だかいつもとは違う変な夢を見た気がするが今はそれより教団に入団、というチトセが言った言葉に信じられない、と言った表情で慌てて部屋から出ていこうとするが唯一のドアは鍵がかかっており、何度ドアノブを回してもガチャガチャと音を立てるだけで出れそうになかった。

何度か試して最終的にはドアを蹴りあげて諦めるとチトセの隣溜息をつきながらもどる。


「……教団は入団を希望するやつを牢獄に入れる趣味でもあるのか?」


「それは違うわ。異能者捕縛適応法って最近定められた法で捕まった「転生者」たちは教団に入ると開放されるの。だからこの後直ぐに出してもらえるわ」

「捕まったままか教団に入るのかの強制2択……怪しさ満点じゃないか。……チトセは教団に入団するのか?」


「ええ。転生者……世間では異能者、と呼ばれる人達が世間から逃げて集まる場所。それが教団よ。私は……前世で大切な人がいてね、教団に入れば会えるかなって……」




少女がそう言って可憐に微笑む。その控えめな微笑みがまた親近感が甦る。

私は,この少女を知っている。


「私は、あの御方の為ならば何でもできます。」



どこで?ここではない場所だ。
同郷であるならばアシハラで?いやそれよりも"ずっと昔だ"


「ッ!!」


思い出したい,のに思い出せない。そんな謎の感覚に頭は拒絶を起こす。


「痛……っ」


「ちょっ…ユウリさん??!大丈夫!?」


「来世では、きっと一緒に…」


「ええ、ずっと約束しますわ」








「サクヤ」










頭痛が止む、夢の映像と,目の前が重なっている用な感覚がする。これは誰だ。今,目の前にいる少女は,



誰だ?



「本当に大丈夫!?急にどうしたの?!」


チトセが慌てて蹲るユウリに駆け寄ろうとした時、バァンッ!!と煩く響く乱暴に開けられたドアから一人の少年が放り出された。


「大人しくしていろ!!全く……ここまで暴れたやつは初めてだ」

「うるせぇよバーカ!!テメェどこだよここ!!今すぐここから出しやがれ!!!!」


新たに部屋に入れられた若草色の髪をした少年が門番に食ってかかるが門番の男はなんて事ないように少年をねじ伏せると、部屋から出ていく。

チトセは今門番にユウリの不調を伝えた方がいいのか悩んでいるとユウリは何度もうわ言のように「大丈夫。大丈夫よ」とチトセの頬を撫でる。



「私は大丈夫、よサクヤ。大丈夫だから」


「!!?、あ、ね……え様……?」


「大丈夫、ああ。デュ×××もそこに、いるのね。私の愛しい、いとし……」


「は?なんだお前……はっ!!?ってなんだ?!!おい、何してうぉぉぉぉおおおおおお!!?」



チトセをサクヤと呼び、先程入ってきた少年をデュ×××と呼び、明らかに正気を失っているユウリはフラフラと立ち上がって少年を抱き寄せた。
は!!?なんだこれ!!?連れてこられたの牢獄じゃなくてそういう店か?!!!!という少年の叫び声が狭い部屋に響き渡ったがユウリはそのまま愛おしげに"ソレ"を撫でて再び眠りについた。


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