猫頼み
なよなよした少年ことルカとぶつかって暫くして、ユウリは未だにニコニコと笑みを浮かべる謎の男に捕まった状態に苛立ちが限界に近づいていた。
「離 せ !」
「嫌だ」
「理由は」
「君に運命を感じたから」
「お巡りさーん!ここに変態がぁー!」
無論ユウリもありとあらゆる手で抵抗はしているが、見た目に反して意外と強い力に叶わず、スキを作って逃げようとしても巧みな会話術でかわすかわす……。
打倒アルカリ……ではなくアルカを目指すユウリにとってこの捕まっている一分一秒が勿体なく感じ、必死に捕まれた手を上へ下へ揺さぶっていた。
だがそんな抵抗も可愛いというのか男はにこやかにユウリに近づいた。
「それより君の名前を教えてよ」
「教えたら離すのか?」
「それはどうだろう?」
ユウリは握られた手を見る、握られていたのは腕だったがいつの間にかに手を握られていた。
それは所詮『恋人繋ぎ』という指を組む繋ぎかたでがっしりと握られてる。ぶっちゃけると男の手にはめられたレンズのような水晶が手に当たって痛いとユウリは彼を睨むが男は離す様子はない。
何か手を離すチャンスがないか周囲を見渡してその方法を考えていると、ふとユウリの視界に毛玉の塊が見えた。
「あっ。あんな所に猫が」
「え、」
住民街の塀の上に黒い毛並みの子猫がプルプルと震えながら鳴いていた。おそらく下りれないのだろう。
これを使わない手はない。……後はこの男が動物好きかどうかだ。と一か八かの賭けに出る。
「おい、あの猫を下ろせるか?」
「えっ?ああうん、勿論」
すると先程散々抵抗した際は離す気も無かった癖に,呆気なくユウリの手を離すと子猫に近づいていく。
これは……チャンスなのではないか?
ユウリは男にバレないようにニヤリと笑った。
「貴様の方が若干背が高いからな、頼むぞ」
男はやたら慣れた手つきで子猫をあやして此方に来るように呼んだ。ユウリとの距離は確実に離れている。
今なら、行ける。
「よしよし、おいで」
男が子猫を下ろすため両手を伸ばす。
そしてその瞬間をユウリは見逃さなかった。
「さらば!!!」
「え」
子猫を抱え満足そうな笑みを浮かべた男から見事なバックステップでユウリは彼から距離をとり、笑顔で走り去った。
「さらばだ!!願わくばもう二度と会いたくない!!」
ユウリはとにかく離れられればそれでいいと特に目的地も考えずに先程ルカが向かっていた街の南門へと走り去っていった。
もう二度と会いたくない、ねぇ。
「こっちのセリフなんだけどな……ありがとう君が助けてくれたんだね」
にゃお
と小さくなく子猫をあやす。少し正気に戻れたのはどんな理由であれありがたい。
さて、願わくばアレの言う通りもう会いたくないんだが、そういう訳にも行かないな。アレの呪いは思ってた以上だ。
先程ぶつかってしまった「彼」も本来ならそのままあとを追いたかった所だが………「彼」も呪いの影響を受けるらしい。顔を赤らめて彼女を見ていた事を思い出すと"強制的に好意的"に見せるものらしく厄介なことこの上ない。
逆ハーレムでも作るつもりだろうか。吐き気がする。
他の転生者に接触したらどうなるか分からない。早めの対処をしなければな……
「殺そうと思うと好意で埋め尽くされる。手を話そうとしても好意で離せなくなる……」
この子のように、気を逸らす「何か」や対策がないとね。
子猫を撫でる青年の手に嵌めたレンズが鈍く光を放っていた。