そして、今に [ 108/156 ]
かつて、退魔士の影を目指した魔女は自分自身へ騙った。
あの人が傷ついたのは誰のせい?わたしのせい。
そう、だから、壊れたんだ。心が?いや姉が?いやそもそも姉なんていないじゃないか。
あれは人の形をしていなかった。人魚。人ではない。人じゃなかったらナニ?聖隷でもないアレは、ナニ?
姉じゃない。姉だとしても私のじゃない。アレはマギラニカの姉。でも私はもうマギラニカじゃないからアレはナニ?アレ、あれ?そう人間じゃないなら化け物だ。
紛い物のバケモノ、じゃあ私の姉ではないね。
マギルゥには姉はいない
そもそもマギラニカは一人ぼっちだったじゃないか、最初っから
ならば姉と勝手に名乗るアレは自分には関係ないものだった。記憶を消えているのなら尚更だ。
他人。血の繋がりなどない。
一緒にすごした時間なんて数年。
他人となるには充分だった。
マギルゥは冷めた目でアイゼンを見ていた。
「アイツがいたはずだ……!!」
ここはイボルグ遺跡。
アイルガンド領にある一帯の遺跡だ。
ベルベットのアルトリウスへの奇襲は失敗。満身創痍だったベルベット達をライフィセットが切り開いた地脈への道を使い逃げ延びた場所がここに繋がっていた。
先に出てきていたロクロウ、マギルゥに続きアイゼン、ベルベット、それに何故かついてきた女退魔師であるエレノアは各々の状況を整理していた。
その最中、アイゼンが言ったのだ。「エリアスがまだ来ていない」,と
「見間違いではないかのー」
「そんなわけがあるか。俺も見たぞ、あの空間に入る前にこっちへ駆けてきてるリアの姿をな」
「……チッ……なんであいつはまた着いてきてるんだ……」
聖寮で見た光景にエリアスは何かをフラッシュバックしたかのように倒れた。
理由も意味もわかっている。わざとらしくあの研究所への道を開いたのも彼女自身だったからだ。
これでもう着いてくることはないだろう。自分が囚われ研究されていた場所にトラウマがないとは思えない。
だからアイゼンもそれを察してアレを置いてきた。
……だが相も変わらず阿呆なアレはまたしても予想を裏切って勝手に着いてきていた。
彼らの会話を聞いていた再契約を結んだビエンフーが足元で何か言いたげにマギルゥを見つめる。
「言うでないぞビエンフー」
「でフが………エリアスって、あのエリアスでフよね?マギルゥ姐さんの……」
「何度も言ったであろう?“儂"にバケモノの姉などおらん」
マギラニカにはいたかもしれんな。
自称魔女はアイゼン達に聞こえないように吐き捨てるようそう呟いた。
そう、あれはただの化け物、人じゃない。
だから殺そうとした。自身が良い道を選ぶべくナイフを向けようとした。
姉を傷つける妹なぞいるものか。
だからあれは化け物だ
人に影響を与えてしまう。人の欲を促してしまう。
そうでなければ、
そうでならなくてはならないのだ。
「嫌な因果じゃの」
欠伸をしながらマギルゥは呟いた。