Helianthus Annuus | ナノ
同じ体温 [ 129/156 ]


アイゼンが触れることを躊躇っていると、エリアスは等々ぽたぽたと泣き始めてしまった。
違う、お前を突き放したいわけが無い。と悩んだ末にコートを頭から被せてなるべく素肌では振れないように、上から治癒術をかけていく。

エリアスの肌は褐色の為分かりにくいが、触れた部分がいくつか火傷のように赤くなっており、気づいた場所から治癒術をかけると少しづつ赤みが引いていく。

「……海から離れすぎると、海の生き物と死体の側面が強くなるんだと、おもう。今ここは海の中だからだいぶ回復してると思うから平気だよ。……ごめん」
「なぜ謝る」
「……ごめんね」

「…………謝るな」

何度も謝るエリアスはぽす、と頭を預けるようにアイゼンへと、倒れ込む。
以前ならそのまま撫でていたそのエメラルドの髪にも素手で触れるのを躊躇っていると、そのまま腕を回されて抱きつかれた。

服越しなら、大丈夫だろうかと彼女の行動を見守っていると、アイゼンに押し付けている顔が、じわじわと赤くなっている。思わず火傷か、と離れるように促すと「嫌だ」とエリアスは小さく呟いた。

「私は、離れたくない」
「……余り触れるなよ。お前が嫌いとか、嫌だとかじゃない。お前を傷つけなくないんだ」
「……今までは触ってくれた。頭を撫でてくれた。抱き締めてくれたのに、やっぱり私……死んでるから……?」

「っ話を聞け馬鹿が!」

エリアスの頭に被せたコートの袖の部分を掴み、無理やり顔を上げさせて視線が合うようにする。ポロポロと涙を流し続けるエリアスの水滴を拭えず、手袋の予備を持ってきてない事を後悔した。

「死体が、悲しいと思うのか?触れられたいと思うのか?離れたくないと思うのか?……涙を流せるのか?」
「っ、人間としての、機能が残っているだけだよ。生きていた時の名残があるんだ」
「何卑屈になってやがる!お前の全てを否定するな!こうして話して、泣いて、人間や聖隷と同じ事ができるお前が死んでいるはずがないだろ!!」

「でもそこの壁画にそうあるじゃないッッ!!!姉さんたちも言ってたっ!!既に死んでるって!前にも、っ後ろにも戻れない種族だって……っ!」

「お前の人生はあの石ころに記される程度なのか!?他人にどうこう言われてそうですかって納得するのか!?」
「姉さん達は他人じゃない……っ!でも、っそうだっ、って……ずっと、……言われて…………私もしんで、るって…………思って、」



「─────新しい種族だと思えばいい。転生できたと思えばいいだろ。…………死に拘るな。お前は確かに一度死んだかもしれない。そこから今のお前が生まれた。それでいい」

死体にこうして言い争いが出来るのか。
泣くことが出来るのか。
今の昂っている気持ちが生まれることがあるのか。

もう一度、アイゼンは同じ質問を問いた。だがエリアスはまだ認められないのか「でも、触れてくれないじゃない」とアイゼンの腕を掴んだ。

「馬鹿野郎!離せ……!火傷するだろうが!」
「ほら、私が死体だから触れられないんだ!」
「なんでそうお前は偏屈なんだ……っ!」
「誰かさんに似たんじゃない?!?私が陸で出会ったのはあなたが初めてだものね!」

アイゼンはエリアスの手を振り払おうとしたが、それをすれば最早ヤケになっているエリアスをさらに傷つけてしまうと、触れられている手に聖隷術をかけてエリアスの腕ごと冷やし始めた。

「!?、アイゼン!何してるの、っ」
「っお前が俺に触れたいと言うならこうするしかないだろ」
「それだとアイゼンが凍傷しちゃうじゃん……!えっと、えっ、とどうしよう私熱くできる天響術覚えてない……!」

エリアスは火、炎や光等の術は覚えていない。そのため凍りついていくアイゼンの腕にわたわたと焦ることしか出来なかった。アメノチの加護が強い為、他の属性と相性が悪いのだろう。……だがそれを知っていてアイゼンは自分の腕に術をかけたのだ。


「いいか、こうまでして俺はお前に触れたい。だがお前が火傷してしまうならこうするしかないだろ……お前はただ単に体温が低いだけの生物なんだよ。俺はそれに合わせてやる」
「う、……へ、屁理屈!ばか!」
「怒るか泣くかどっちかにしろ…………両方死体には出来ない事だ」
「……アイゼンって、一度決めたこと、ホント曲げないね。それが嘘でも……」
「嘘じゃないだろ。何度でも言うが、お前は死体じゃない。こうして今俺と喋って喧嘩して泣いてるだろうが」

はーーー、とエリアスは深いため息を着いて最早照れているのかやけどなのか分からないが、先程とは違って泣きそうな表情から一変して、冷たくしたアイゼンの腕の中でもじもじとしている。相変わらずコロコロと表情が変わるヤツだ、と今度はコート越しではなく、自分の手でエリアスの顔を上げさせた。

「……アイゼンの手冷たいね……」
「そうして感覚もあるくせに何が死んでいるだ馬鹿が」
「……私、生きてる?」
「当たり前だ。お前は"生きている"と断言出来る」
「そっか、……そっかぁ……あーあ。アイゼンらしいや。うん、そうだよね。別に死体だなんやと躍起にならなくていいんだよね……」

アイゼンの言葉に折れたのかエリアスは改めて壁画を眺め出した。【無垢なモノ】の壁画を見つめて「はは、石ころか。うん、確かにこれは落書きされた石ころだね」と微笑んだと同時に術を唱えて水で壁画を壊し始めた。


「……俺もやる」

「ふふ、いいの?遺跡壊すのとか、一番怒りそうなのに」
「これは落書きだからいい」
「っふふふ、あっはは、……程々にね。やりすぎて遺跡が水に沈んだらベルベット達には怒られちゃう」
「お前が助けてくれるんだろう」


「当然」

だって私、人魚だからね。
そう言ってエリアスは微笑んだ。
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