Helianthus Annuus | ナノ
幸運の存在 [ 130/156 ]

ドゴッドゴォンッ!
何やら後ろから騒がしい音が聞こえてくる。「戻った方がいいんじゃないかな!?」と焦り出すライフィセットやエレノアたちの心配を他所に、暫くすると音は止み、どこかスッキリした表情のエリアスとアイゼンが合流した。

「おーおかえりリア!喧嘩でもしてたのか……っいでぇ!」

バシンッッ!!いつものようにエリアスの頭を撫でようとしたロクロウの腕を容赦なく叩き落としたアイゼンは「触るんじゃねぇ」と一喝した後「億が一触れるなら10℃以下の生命体になって出直せ」と吐き捨てる。

「エリアス、さっきは言いそびれたがこれからはなるべく全身にバリアをはれ……体力の消耗は激しいだろうが傷を負うよりはマシだろう」

わかった。と素直に頷くエリアスと気遣うアイゼンの間に「うぉっほん!」とマギルゥがやたらわざとらしい咳払いでアイゼンを押しのけて間に入り、エリアスの隣に割り込む。

「勝手に二人の世界を作るでない!他にも話す事がモリモリ盛りだくさんじゃろうて!」
「あっマギルゥの手冷たい。早速冷やしてくれたんだ。優しすぎてお姉ちゃん嬉しい……」
「あんた相変わらずマギルゥと話す時はやたら饒舌になるわね……で、体温やらのやり取りはなんなのよ」

嬉々としてこれ見よがしにマギルゥと手を繋ぎ始めるエリアスにベルベットが呆れた様子で尋ねると
「進みながら話す」と何故かアイゼンが返事をした。

「あー、えと、……みんなはなんでこの神殿に?」

「……聖寮がこの神殿をカノヌシを祀る祭壇として接収して利用してるからよ。……ライフィセットがこの先に地脈点を感じ取っていて、王都から盗み出した古文書の内容を読み解く為にも来たの」

「アメノチ様の神殿がカノヌシの神殿として接収されている……」

自分を生贄にした聖隷だ。エリアスは思うところがあるのか、そっか、と言って「皆にも話さなきゃね」と少し微笑んだ。


その後、再開してからエリアスが倒れたりして禄に話せていなかったのでお互いに離れていた期間の知識の共有の為、ここまでの旅の話を聞いた。

─────エレノアが加わった理由、ロクロウの兄、海賊病。ザビーダと名乗る聖隷と再会した話など。
ベルベット達の旅筋を粗方聞き終わったあと、今度はエリアスが、ここまで合流するにあたっての話をする事になり、人魚がアメノチの生贄でその際に転生し損ねて「たまたま生まれた存在」という事……にした。


「アメノチの……贄……」

「あー……うん、ちゃんと言えば、アメノチ様に捧げられる前に、鮫とかに食べられたから……中途半端に魚なんだと思う……」
「中途半端に魚ってアンタね……」
「でも、エリアスの尾びれ、すごく綺麗だよ。人魚って綺麗なんだな、って僕すごく思ったもん」

「……ライフィセット…………なんか男前度上がった?」

「ええぇ?!ぼ、僕は思ったこと言っただけだよ……!」

ベルベットは黙り、ライフィセットは嬉しい言葉を言ってくれて、ロクロウはへー、そうなのかと軽い返事で興味無いようだ。エレノアは憐憫の目を向け、マギルゥはつまらなそうに溜息を吐いている。そしてアイゼンは火傷のこともあり、余り触れないようにと彼女達に警告をしている。
うん、やっぱり彼女達は私がどういう存在であろうと変わらないなと少し微笑んだ。世間からどう言われようとこの人たちは優しいんだ。……少なくとも、私にとってはそう思える人たちである。

「ってことはリアはあの壁画が掘られるくらい昔の人間だったってことか?」

「あ……うん。少なくとも2000年近くは前だと思う。……人間の年号はよく分からないから曖昧だけど」

「にせっ……!?人魚には寿命はないのですか?」

「どうだろう……アメノチ様の加護で生きてるものだから、それが無くなれば動けなくなる、と思う」

ロクロウが「つまり……姉さん女房なのか」とアイゼンの肩を小突いている。その返事に肩を殴られていた。意味は分からないけどロクロウはアイゼンを揶揄うの懲りないな……。

「いてて……そういえば、人魚って幸運の存在とかって言われてる伝説があるだろう?それなのに生贄として捧げられたのか?」

「多分、人魚が幸運なんじゃなくて、幸運だから人魚になったの」

「?、どういう事だ?」

「物心着く前に賽をふらされるの」

「賽って……サイコロの事?」

「うん、他にもいろいろ。コイントスとかもやったかも」

だから手馴れていたのか。とアイゼンが呟く。彼の手からパシンッと弾かれたコインにそういえばアイゼンとコイントスした時妙に馴染んでいた事を思い出して、納得した。

「昔は霊応力なんて、言葉なかったから……運がいいイコール見えない何かに、神に愛されてる子って言われてたんだよ」

「ほぇ〜、運がいいことで生贄に選ばれるなんて運が悪いことこの上ないの」

「それは私もそう思う……まあでもこうして皆と旅を出来てるんだから私は運がいいよ」

エリアスはそう言ってぎこちない笑顔で微笑んだ。



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