Helianthus Annuus | ナノ
知られたくない [ 123/156 ]

「リア、お前そんなに表情とか豊かだったか?」

「んえ?」

ベルベットのゲンコツによってひとまず着いていく置いていく議論は保留となり、皆が探しているというグリモワールという大人の女性探しを手伝うことになった。


今日はもう非番だしアイゼン達と合流した以上あのお店で働かせてもらう意味も無くなった為早い内に言いに行かないとな、と思っていると先程のやり取りを楽しげに眺めていたロクロウがニヤニヤと声をかけてきた。


「そう……かな。アイゼン達を追いかけた時に何だか不思議な場所に飛ばされてそこで過去の自分を見たからそれを思い出して、前の私を少し意識をしているの」

「確かあれ大地の記憶だったか。リアは記憶喪失だって言ってたもんなぁじゃあ、あれが素に近いのか?」

「えっと、うん多分。あんなふうに声が出たの無意識に近いから……」

「感情の起伏が戻るのはいい事だな。まあアイゼンのやつも嫉妬してるんだ。そう噛み付いてやるなよ」

「嫉妬……?えっとそれってむかむかするやつ?」

「そんな感じだ。お前があの聖寮といい感じだったのが気に食わないんだよ。プレゼントを貰ってたのもな」

「?、プレゼントってダメなことなの……?アイゼンにも貰ってるよ」


好意で貰ったものだ。服やアクセサリーもアイゼンから貰っているので悪いことではない、とは思っている。
私もお返ししようとして結局オスカーに渡してしまったがダメな事だったのだろうかとロクロウへ訪ねると彼は「そりゃあな」と笑った

「男からの贈り物なんて大半が下心だぞ。だからこそ拗ねてるんだろうな」

「したごころ……」

「特に服とか装飾の類は脱がせたいとかいみがあるって言うな。俺はそういう駆け引きは得意じゃないから贈った事はないがな」

「ぬっ」


脱がせたい。……アイゼンが????
オスカーからも身に付けるものを貰ってしまったがそれよりも今着ている自分の服を凝視する。確かに、この服は元々服を着ていない私に気を使ってくれた形状だが、だ、だが!
人間だった頃の記憶が蘇っているので人魚の頃と違って服がないという事が羞恥なのは記憶が欠如していても分かっていた。だからこそロクロウの話に混乱する。


「ははっお前そんな顔も出来たんだな」

「どんな顔…………」

「おっと、これ以上は俺もゲンコツを喰らいたくないからな。後は本人に聞けばいいさ」

「ゲンコツ……ベルベットに?」

「いや、あそこで鬼の形相をしてる心の狭い死神に」


ロクロウはそう言って今度はライフィセットへ絡みに行ってしまった。アイゼンがこちらを見ている、気がする……が先程の事があって私が距離を取っている為あくまでも視線が痛いだけだ。
彼の沸点がよく分からないがオスカーは絶対そういった意図で贈ってないと思う。

男の贈り物が下心であれば生物学上の女からの贈り物もそうなのだろうか。お礼、と思って準備していたブローチ。たしかにアイゼンに身につけて貰えたらと思っていた。
彼が私の贈った物を身に着けてくれたら私のモノって感じがして嬉し…………ガンッ!!!



「エリアス!?」

「……ごめん大丈夫。大丈夫、下心、大丈夫」

「大丈夫じゃないよね!?」


悶々と悩んでいたせいか、目の前の柱に気づかずに激突する。一昨日までこんな所に柱なんて、なかったのに。どうやら近くの屋台のために建てたようだ。その屋台の店主とライフィセットが慌てているが大丈夫。無事。自分の贈り物を身につけてくれるという嬉しさを妄想しただけなので全然平気だ。すごい音はしたが痛くは無いので無事という意思を伝えたくて微笑む。


「大丈夫……?治癒術かけておく?赤くなってるよ」

「これくらいなら大丈夫だよ。……うん、ごめんね」

「お嬢ちゃん大丈夫かい?」

「大丈夫です……えっと、この間までなかったですよねこのお店」


アイゼンも見ている為、慌てて取り繕う。気前のいい店主は新しく作った土産屋なんだよ。と笑って商品を見せてくれた。
……何だかアンニュイな雰囲気のする、ビエンフーとよく似た形をしている人形だ。

「これはアメノチ様の人形さ」

「これが?????本気???」

「会わない間にいきなり口が悪くなったわねアンタ」


ベルベットが少し驚いた表情でこちらを見た。いやだって、私これに生贄に捧げられたのか。ってなるじゃん勿論そんな事アイゼンがいる手前言えないけど。
ビエンフーと似た形状の彼女……?の人形を片手に店主は語り始めた。


「間違いないさ!俺はアメノチ様を見たんだ。威厳たっぷりでたいそうお怒りだったよ」

「怒ってた……ってなんで?」

「聖寮はサウスガンド領で盛んだったアメノチ信仰を禁止したんだよ。それでアメノチ様はへそを曲げちまっただろうな……話しかけてみても「ふぅ……はぁ……あっそ」しか言わないんだ」

「それって……!」

「グリモワールの特徴……!」

「えっベルベット達、探してたの人間の女性じゃなかったの?」


人間だと思ってたんですよ!とエレノアもベルベットもマギルゥを睨むが本人は何処吹く風で「なんという奇遇じゃ〜!その気怠いカミサマこそグリモ姐さんじゃ!」とニヤニヤとわざとらしく笑っていた。

「人間とは一言も言っておらぬぞ?みやげ屋よ、どこで見た?」

「えっこの先のマクリル浜だけど……」

「渚でたそがれておるとは、ますます姐さんらしい!さあ海へ急ぐぞ!」

「待って、マギルゥ私にも言って姉さんと」

「お主中々にしつこいな!?」



私から逃げるようにイズルトの出口の方へスキップで駆けていくマギルゥに対してベルベットが後で覚えておきなさい……と彼女の帽子を叩く。ズレた帽子を直しながら「やれやれ短気じゃのぉ」と言いながら一足先に彼女は街の外へ逃げていった。


「……、マクリル浜……」

「どうしたの、エリアス?顔色悪いよ」

「う、ううんなんでもないよ。……だ、大丈夫」

「やっぱり大丈夫って顔してないよ……!無理せずに休んでいたら?」


マクリル浜はイズルトと隣の村のハリアの間にある海辺の道だ。
その道中の崖の上にはあの場所が……向日葵が咲き誇る私が生贄として育った祠が立っている。

ちらり、とアイゼンを見ると先程と変わらないぶっきらぼうな表情をしていてまだ怒っているのは伺える。嫌だな、見られたくない。行きたくない知られたくない。

俯くと、足元には先程オスカーに貰ったサンダルが目に入る。人として生きていたのなら慣れていたであろうそれは、今は違和感しか感じない。それがまるで人であることを否定しているように思えた。
ぎゅっとスカートを握りしめて、少し弱音を吐く。



「エリアス、本当に大丈夫……?」

「……ごめん、ちょっと気持ち悪い、かもしれない」

「無理しないで!ええと、宿屋とかで休んでた方がいいよね……ベルベット達は先に行っちゃったし、僕が説明しておくから……!」

「エリアス」


ふらり、慣れないサンダルで少しふらついた時、ライフィセットが慌てて受け止めてくれる前にいつの間にかに隣にいたアイゼンが支えてくれた。

「アイ、ゼン」

「宿屋だな。ライフィセット、マクリル浜に先行っていろ。……後から追いかける」

「う、うん!エリアスをよろしくね!」


ライフィセットが外へ出るのを見送るとアイゼンは何も言わずに私を横抱きにして直ぐにサンダルをぬがせた。
そのことで思わず、ホッ、と息を吐く。息苦しさが少しだけ楽になった気がしてなんでもお見通しなんだな、とやっぱり叶わないとそのまま彼にもたれ掛かる。
オスカーには悪いが、やはり私にこれを履く機会は難しそうだ。


「……足でまといだから、着いて行ったら怒るの?」

「……違う。お前が聖寮に狙われているから、置いていくんだ」

「それ、結局足でまといって意味でしょ……自分の身も守れないやつはいらないって」

「まあ、そうだな」

「否定してくれないんだ……」


宿屋ではなく、私が部屋を借りている場所でもいいのだがこの状況だと噂好きの店主に根掘り葉掘り聞かれそうで今はそれを相手にする元気はない。
言い返す気力はないが、サンダルを脱がせてからアイゼンの纏う空気が先程言い争っていた時より少し柔らかくなった気がして、安心感と気だるさで段々と微睡んできた。


「……マクリル浜行くの?」

「先程のライフィセットとのやり取りを聞いていると、行って欲しくないような言い方だな」

「……うん、行かないで欲しい。みんなにも本当は行って欲しくないけど、……アイゼンだけはもっとダメ……」

「何故だ?」



「………………な……いで…………」

「?、エリアス?」


────今なんて言ったんだ。アイゼンが聞き返した時には既にエリアスは彼の腕の中で眠りに落ちていた。






お願い、見ないで

私を見ないで

嫌われたくないの。
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