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本丸を出て黒本丸に行ったら自分の本丸だった

正式タイトルは、乗っ取られた本丸を出ていったら政府によりブラック本丸に再配属されたので、行ってみたら実は前世(とうらぶユーザー時代)で自分が運営してたアカウントの本丸だった件。

見習いによる乗っ取り、ブラック本丸、既知転生、夢要素盛りだくさん、アニメ花丸を参考。







流石にこればかりはどうしようもないな、と目の前の現状から目をそらすように他人事のような呟きを溢す。
上座に座る自分、下座に座る彼女、両者の間に控える見目麗しい刀剣男士達。
下座に座る彼女より後ろにいた、面をつけた政府役員が、淡々と手に持つ資料を見ながら現実逃避に励む私に無慈悲な現実を突き付ける。


「政府職員、審神者見習い『×××』、第1582号本丸審神者『梓弓』、そして該当本丸所属刀剣男士の同意の元、この第1582号本丸並びに刀剣男士の指揮権を『梓弓』から『×××』に移行致します……双方、宜しいですね?」
「はい!」
「…承知致しております」


下が笑い、上が目を閉じる。
せめてもの抵抗のつもりだった。
下へ引き摺り下ろされることへの抵抗と。
降りろと言わんばかりの視線からの逃避と。


「(あぁ……まぁ、仕方ないか)」


この程度の抵抗しか出来ない愚かな自分への叱責を込めて、私は1人無言で頭を垂れた。





「お勤め、ご苦労様です梓弓様」
「……あぁ、うん、お疲れ様」
「以前お話しした通り、引き継ぎ後梓弓様には速やかに別本丸に移動ということになりますが……本当に宜しかったのですか?」
「…こんのすけ」
「分かっております、解っているのです、ですが、やはり納得いきませぬ梓弓様」


先程の儀式にも似た誓いを終え、古巣を出た私を待っていたのは、長い付き合いになる隈取化粧の管狐だった。

既に身支度を済ませ、備え付け以外何も残っていない審神者としての自室を出て、次の仕事先に繋がっているという直通門を前に出迎えてくれたたった一匹の戦友は、大きな目に不満をありありと写しながら私の言葉に首を降る。


「梓弓様は5年もの月日をあの本丸に費やしました!平和な世からここに来て、慣れぬ戦に、夥しい死の臭いにも必死になって乗り越えて!刀剣男士の主に相応しい働きをしておられる貴方をこんのすけはよく知っています!なのに!こんな、こんなの…あんまりじゃないですかぁ……!」
「こんのすけ、こんのすけ泣かないで、君の言葉だけで私は救われるよ、ありがとうこんのすけ、ごめんね不甲斐なくて」
「そんなわけないじゃないですか!梓弓様がどれだけ立派に役目を果たしていたか彼らとて知らぬわけが、ないのに!あのような若輩者を選ぶなんて!」


おいおいとつぶらな瞳から涙を溢れさせ、私の胸にすがり付いて泣くこんのすけを抱き締めてあやす。
ただ黙って受け入れてしまった私に代わって、そして何も言わない私に訴えるように吠えるこんのすけが一等健気で涙が出そうだ。

簡単な話、私は自分が一から運営していた本丸を追い出されたのである。
…いや、追い出された、というのは被虐的過ぎるだろうか、正しくは審神者として不適任だと審査されたのだ。

頭の出来、霊力、家柄、血統、容姿、性格、そして魂。
それら全てにおいて私は『彼女』より劣っていた。
5年間で整った環境を動かすには、私より彼女が適任だと診断されただけなのだ。
唯一勝っていた知識だって、審神者として過ごす5年間で得た経験によるもの、きっと私より早く私に追い付きそして追い抜いてしまうだろう、そうすれば私が彼女より優れている所なんてなくなる、誰だって優秀な人の元で働きたい、無能な上司は場を乱し周りから煙たがられるだけ。

ならばせめて潔く退こう、そう決めて私はなにも言わずに受け入れた、受け入れてしまった。
それが間違いだと言うこんのすけに駄目な私は何も言い返せずに「ごめんね、ありがとう」を繰り返して、そうする度に嗚咽を溢すこんのすけを抱いてやることしか出来なかった。




「それで、次に私が行くところは何処になるの?」
「ずび……政府からの指令は『第794号本丸の再運用試験を行うこと』です、現在非稼働状態にある本丸の審神者として就任するということですが…」
「まぁ、非稼働になった原因があるわけだよね…噂に聞くブラック本丸ってやつ?やだなぁ、出会い頭に斬られるのかな、それとも1人で戦場にほっぽりだされたり?戦闘は出来ないんだけど」
「そのようなことは絶対にこんのすけが許しません!もし刀剣男士が梓弓様に手を出そうものならこんのすけにも考えがありますよ!」
「こんのすけは頼もしいなぁ……なら、安心して行けるね、こんのすけ、もう行こっか、私たちがこれ以上ここに長居するわけには行かない」
「梓弓様…畏まりました、では、参りましょう」


こんのすけの言葉に頷いて、門を起動する。
ある歯車は時計回りに、ある歯車は半時計回りに、次第に速度をあげて回り出す。
速度と共に周囲に光が満ちて、私達の姿も光に同化し溶けていく。


……誰も見送り、してくれないかぁ。


悲しく思うも、それに対して文句は出ない。
ただ誰もいない広場を見つめながら、精一杯笑って言うのだ。


「今までありがとう、さようなら」


泡のように弾ける視界の中で、最後にみたのは真ん丸に見開かれた、あの、赤い――――――――――。












――――――――――――――――――――――――――――――








カチカチカチ


「出会い〜別れ〜日が昇る方〜」



カチカチカチ



「あー初期刀が今日も可愛いんじゃ〜」



カチカチカチ




「圧倒的尊み…なんなのこのアニメ…好き…語彙力落ちる…」




カチカチカチと、マウスを連打しながら視線をまた別の画面に向ける。
パソコン側では派手な戦装束を身に纏ったイケメンな男達が、刀を構える立ち絵に代わり、禍禍しい骨の敵を容赦なく斬り伏せていく。
一方視線を向けているタブレットの画面では、パソコンに写る絵と同じ容姿をした男達が、和気藹々と満開の桜の下で笑っていた。

それを眺める私もまた、頭の悪い感想を終始呟きながらにやける口許を抑えマウスの左クリックを繰り返す。


DMMゲーム、刀剣乱舞。
数年前にリリースされ、瞬く間に人気を集め数多のファンを獲得したソーシャルゲームの名前だ。
見目麗しい『刀剣男士』を使役する『審神者』となり、歴史改変を目論む遡行軍を討伐するというストーリーの女性向けゲーム。
カッコ可愛いショタからオッサン、儚い未亡人風からガチムチまで幅広く設定の盛られた彼らによって、底無し沼のように数多の人間を落としている作品である。

斯く言う私も沼に浸かった人間の1人として、今日も2画面を併用しながら楽しい審神者ライフを送っている。


というのも少し前までの話。


「いっけね、仕事行かなきゃ…うーん仕事前じゃ大阪城3階しか降りらんないかぁ、こりゃ期限中に50階いかないな…まーた毛利君はお預けか」
「あーあ、なんで確定報酬じゃなくなっちゃったんだろ、ドロ運なんて皆無なんですけど〜?」
「もう殆どカンストさせちゃったし、新しい子お迎え出来ないんじゃ極組のレベリングしかやることないんだよね…極増やすかぁ…でもなぁ、短刀は戦力的に極にしてるけど、打刀は最初に初期刀極にするっ!…って決めちゃったからなぁ、うぅ、皆…ごめんね…極が実装されるまで我慢してて…」



審神者として始めて、もうかなり経つ。
時間は過ぎ、年もとって、仕事が忙しくなるとそれに追われ、最近パソコンを開くことが面倒になってきた。
最初はスマホ版があるからわざわざパソコンを立ち上げずとも通勤中にプレイ出来ると喜んでいたけれど、それも最初だけ。
日によって起きる時間も出勤時間も退勤時間もバラバラになる今の仕事をしていると、限られた時間でしたいことも増えてくる。

ハマっている別のソシャゲ、投稿サイトで新作のチェック、日に日に溜まる疲れに息をつく。
働いて、家に帰って、ご飯を食べてお風呂に入って、お茶なんか飲んでゆっくりしたらもう寝る時間だ、明日を無事に乗り越えるために睡眠時間は削りたくない。
娯楽をするための時間はあまりに少なくて、自然と今やりたいものを優先してやっていく。
刀剣乱舞はパソコンでも出来るから、とスマホでしか出来ないソシャゲに励み、パソコンを開く時間が惜しいと電気を消して布団に籠る。

飽きた訳じゃない、というのは解って欲しい、ただ今の優先順位は低いのだ。
それでもイベントの時やパソコンを開いたときは、別の端末と同時平行で操作してでもログインしている、私が彼らに注ぐ愛が無くなった訳じゃないと、誰にでもなく言い訳しながら。




カチカチカチ


「あぁでもやっとあの子の極実装が発表されたんだっけ…!やったね私、極に出来るよ!」


カチカチカチ


「そしたらレベリングに、今までさせられなかった打刀や脇差も極に出来る!待っててねー皆ー!イベントで道具手にいれなきゃだから周回しなきゃだし、一気にやること増えるなぁ、ま!これまでのんびりやってたから他のゲームは一旦ゆっくりプレイにしてこっちに集中してもー………」


カチカチカチ

カチカチカチ

カチカチ



カチ。



「え?」


何度目か分からないクリック音が鳴り終わった直後、突然目の前が真っ暗になった。

衝撃である、何かに吹き飛ばされた衝撃、室内にいた私はまるでトラックにでも跳ねられたように浮き、そして叩き付けられた。




理解が追い付かない、目の前の状況が処理できない。
痛い体が動かなくて痛い土埃が痛い舞ってチカチカする視界痛いの向こうで聞こえる痛い痛い悲鳴も怒号もサイレン痛いも痛い痛い耳鳴りのせいで遠く痛い痛い痛い聞こえる痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いいたいイタイいたいイタい痛い!!!!



カチカチカチ



何かが廻る音がする。




カチカチカチ



何かが欠ける音がする。




「――――――待てと言うのならいつまでも、迎えに来てくれるのであれば」




閉じかけた目が泳ぐ。
あぁ、パソコンは無事だったのか。
こんなときに、放置ボイスとか、気が抜けるなぁ。

痛いのに、何故か笑みがこぼれた、ような気がした。
正直笑う力がなかったから嗤えていないだろうが。



「い、たい、な、ぁ………だ、れか……」



バキリ、と金属を踏み潰す音がした。
パソコンが壊れたか、高かったのになぁ。

気がつけば痛みは感じなくなっていた、ふわふわと、体から大事な何かが抜けていく感覚が恐ろしく感じる。
沈んで、きっと二度と浮かぶことのないだろう意識が最後にみたのは、こちらを見つめ丸く光る赤い…………………………






―――――――――――――――――――――――――――――








カチ、カチ、カチ



音が聞こえる。



カチ、カチ、カチ



これは………マウスのクリック音だろうか?



「―――――――!」



カチ、カチ、カチ



いや、どちらかといえば時計の秒針か?



「――――さま、――――様!」



いや、それも違う、これは………――。


「―み様!――弓様!梓弓様!!」
「!!?」


カチリ。
何かが填まる音がした気がした。
驚き顔をあげてみれば、黄色いふわふわの毛玉に赤い奇抜な化粧を施した狐が慌てたように私の顔を覗き込んでいた。
視線が合えば、パッと笑顔を浮かべ花が散らんばかりに綻ばせて私に言う。

―――というか。


「――…こんのすけ?」
「はい!梓弓様!こんのすけでございます!良かった、梓弓様、後頭部は痛くありませんか?ここに来て早々、梓弓様は転ばれて後頭部を打たれたのです」
「……こんのすけ??」
「はい!」
「…え?なんでいるの?」
「梓弓様!?!」


ガーン!と効果音がつきそうな程衝撃を受けたらしいこんのすけ。
え、いやだって本当に疑問だったものでつい。

…いや?疑問に思う必要が何処にある…?いや、うん???


「……こんのすけ、私は頭を打ったんだよね?なんだかここ数時間の記憶が曖昧なんだ」
「な、なんと……!!あぁ、梓弓様おいたわしや…!いっそそのまま忘れてしまわれた方が良いかと思いますが…いえ、梓弓様はそれは望まれないでしょう」


なにやら不穏な気配を察知したが、自分から聞いた手前「やっぱいいや」とは言えず、実際ここ数時間の記憶がぐちゃぐちゃに混ざって頭が痛いのだ。
少し瘤が出来てしまった後頭部を擦りながら黙ってこんのすけの話を聞く。

そして、頭を抱えて大きくため息を溢す。



そうだ、私は今、5年も勤めた本丸を出て新しい本丸…しかもブラック本丸に再就職しようとしていたんだった…!!
そしてそのブラック本丸に足を踏み込んで早々、私は何かに躓いて頭を打ったらしい。
気絶はしなかったものの数秒の意識混濁を起こし、ついさっきの問答に至る、と。

成る程、と頷く。
そして冷や汗が垂れる。


私、頭打った数秒の間に、前世の記憶思い出しましたよ????
え?数秒の間に私死にましたけど???


「おうふ…………」
「ま、まだ具合がよろしくないのですか?どうにか審神者の自室まで行きましょう!ここにいてはいつこの本丸の刀剣男士に襲われるともしれませんし…勿論そうと決まったわけではありませんが…」
「…そう、だね、そうしよう」


こんのすけに促されるまま、拙い足取りで審神者の自室とやらに向かう。
本丸はどこも基本構造が変わらないと言っていたから、探しだしてこんのすけに案内してもらわずとも場所は分かるから良いんだけど……。


私、記憶が戻った瞬間から自分の本丸失いましたけど、泣いていいよねこれ?







もー無理\(^o^)/

このあと。
最初は気付いてないけど、ユーザー時代の本丸とあまりに似てたり(死ぬ直前までやってたから編成とかレベルも覚えてる、極にしてる刀が同じだったり)。

ブラックの原因が最初の主が突然いなくなって政府は「審神者は死にました」とだけいって新しい審神者を寄越してきたからキレたとか。
最初の主が一度も部屋から出てこず、誰も姿を見ていないが、時おり聞こえる主の独り言がいつも刀剣男士を愛でたり労ったりする言葉だから好感度は普通に高かったとか。
ある日近侍だった長谷部が突然「主の霊圧が…消えた…?」事に気付いて一度も開かれたことのなかった審神者の自室に凸、そこには誰もいなかった。

政府に聞いても「死にました」の一点張り、説明なし、そのくせ次の主よーと審神者を寄越してくるものだから刀剣男士達は激おこぷんぷん丸と化しボイコット。
来る審神者を追い返し、絶対に政府の命令に従わない、だけど無駄に練度高い上極もレア刀もいるから解体も惜しまれ、今の今まで政府公認放置本丸になっていた。


ん???なんか可笑しくね??と疑問に思って色々確認して納得。

ここ、私が昔(前世で)運営してた本丸だーーーー!!!?




そこから始まるハートフルストーリー。
刀剣男士は審神者が最初の主だと気付いてもいいし気付かなくてもいい。
審神者(梓弓)は花丸を見ていたときのように脳ミソ溶かして微笑ましく刀剣男士を見守ってホクホクしてる、前の本丸?知らない子ですね……は流石に酷すぎるか?



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