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なみだのかなた





じんわりと、汗が滲むようになってきた。
肌寒さが消え去って、訪れたのは暑い夏。少しずつだけど、前を向いて歩んでる。

写真が嫌いだったから少ししかフォルダーには残っていないけど、思い出を残したいという私の気持ちを尊重してくれて、嫌々撮ってくれたツーショット。別れた後も写真を残しておくカップルがいるけど、私には理解できない。多分、そんなハッピーエンドな別れ方をしたことがないからだと思う。同じ道を歩むと決めた二人が、別々の道を歩むことはハッピーエンドなことじゃない。「別々の道を歩む」と、どちらか片方が思ったことなのか、お互いが思っていたことなのか、状況は皆それぞれだと思うけど、やっぱりそこには何にも変えられない感情があって、だけど、それでもと、分かりあえないものがあって、受け入れることができないものがある。それがあるから別れがあって、互いに別々の道を歩むのだ。

辛くないかって?
勿論、辛いに決まっている。別れが辛くないなんて、そんな風に思えるのであればどれだけ楽だろうか。胸を撃たれたようなこの感情は、何度経験しても慣れないものだ。

だけどこの辛い気持ちも、時間が解決してくれることを私は知っていた。だって今までもずっとそうだったから。


『…辛くねぇんか、テメェは』


普段なら私との関係性に口出さない爆豪くんが一度だけ私にたずねたことがあった。まどろっこしい言い方なんて、彼はしない。いつも、こうやって、ストレートに言ってくれる。だからこそ私も、なんの迷いもなく答えれた。


『幸せだよ、』


そう言って爆豪くんの身体に抱き付いた。私は爆豪くんほどストレートじゃないから。嘘はついてないけどその言葉にまだ、身体がついていけてなかった。泣きそうになる表情を悟られないように抱き付いた私に気付いてか、優しく包み込むその腕はいつもよりも弱々しかった。

あの時の自分の言葉をふと思う。
嘘じゃないその言葉は、爆豪くんのために告げた言葉。そう思っていたけれど、それは、彼のためなんかじゃなかった。

『幸せ』と、その時は本当に感じていた。
だけどその幸せには終わりがあることを知っていた。だからこそ、私は『幸せ』という言葉を自分に言い聞かせてた。

爆豪くんのためじゃなくて、私のために。


爆豪くんのために悩んだ日々も、
爆豪くんのために泣いた夜も、
爆豪くんのために伸ばした髪も、
爆豪くんのために重ねたメイクも、

爆豪くんのためにしていたそれら全て、本当は自分を守るためのものだった。


『幸せ』と口にしていたそれは、感じことのない感情だからこそ自分にそう言って、言い聞かせていただけなのかもしれない。

嬉しかったし、辛かった。
そのどちらかだけで、本当に幸せだと感じたことは今までに一度も無かった。本当は幸せを感じたかった。爆豪くんと私だけの、二人だけの幸せを。
たどり着けなかったそれは、私達の行く末なんだろう。それを知ることができたからこそ、また、私は強くなれる。

今度こそ、本当の幸せを見つけるために。


「爆豪くん…」


色んな思いと共に、空に向かって吐き捨てた。もう呼ぶことのない名前を。


『なまえ、』


目の前が滲みそうになるのをぐっと堪えては、どこからか、私を呼ぶ貴方の声がした。懐かしく感じるその声に、もう二度と名前を呼んでもらえないと思うだけで、胸が張り裂けそうになる。
何度経験しても、別れに慣れることなんてできない。こうなる未来が分かっていたとしても、私は爆豪くんを愛していた。誰よりも、ずっと。


共に歩むことが許されなかった愛しき人よ。

心の中で私はずっと、貴方と過ごした日々を忘れない。

貴方が忘れてしまったとしても、私は忘れない。

忘れずにずっといる。

だから、たまには思い出して。私っていう存在を。

ちっぽけな存在かもしれないけど、私達が愛し合った日々に嘘、偽りはどこにも無かったはずだから。


『ありがとう』


いつかそう言えるまで、涙のかなたへ想いを運んでおこう。
いつか、また、笑顔で出会えるその日まで。


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