×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -






愛し





彼に抱かれる時、本当に愛されているんじゃないかって錯覚してしまう。
抱き締める腕が、頭を撫でる柔らかな手が、額、瞳、頬、唇へと優しく口付ける唇が、「愛おしい」って言葉を告げているようで。

好き、好き、好き。

口に出してはいけない言葉達を、この時の私は何もかもを忘れ果てて彼への愛を叫んでしまう。叫んでしまいたいほどに、私はきっと、彼のことを愛してしまっているんだ。

辛い、辛い、悲しいよ。

「好き」の言葉に隠れたそれは声になることはなかった。「好き」だと彼に告げる度に「辛い」と叫ぶ心の声に気付かないふりをした。

あぁ、もっと私の心が言葉と共に重なり合っていたならば、苦しさを閉じ込めることなんてなかったはずなのに。寂しさを感じることなんてなかったはずなのに。

心と言葉が一つだったら。
私はどれ程救われていただろうか。

身体が揺れて、熱が高まって、唇がとろけていって、脳内がクラクラと酸素を探す。胸を締め付けるこの痛みは愛情と言う名の苦しみだった。


「…お風呂入る?」
「ん、湯はりしとったんか?」
「うん。一応ね」
「すまねぇな、借りる」


すらりとした筋肉質な身体が暗闇で映える。その背中を見つめては、小さく指先を伸ばしてその輪郭をそっとなぞってみた。先程まで感じていた身体の熱を思い出しては、胸がぎゅっと熱くなる。もう記憶に残ってしまった彼の身体のその全てに、自分じゃあ受け止め切れない何かを感じて泣きそうになったのは嘘じゃない。


「…なにしてんだ。行くぞ、風呂」


不意に引っ張られた私の腕。
いつも一人で入るじゃない。どうして今日に限ってそんなにも私に優しいの?
もう、止めよう。もう、忘れよう。彼との思い出を心の中から消し去ろう。受け止め切れない苦しみに、苦しむのはもう嫌。
そんな私の心を蝕むように、優しさが心の傷を更に深めた。本当はもうこれ以上優しくしてほしくない。そんな瞳で見つめないで。その瞳を見るだけで愛しさが伝わって息ができないよ。もう私は苦しいほどに爆豪くんのことが好きなんだから。

深い海底へと落ちて行く感覚がしては、少しだけ吐き気がした。抜け出せないその海底は、思った以上に深いんだ。暗くて何も見えなくて、一人でいると孤独に押し殺されてしまいそうで。
だけど。
そんな深い海の底でも貴方という光がいるから、私は息ができるんだ。
いっそのこと喉を押し潰してほしいだなんて、考える私は欲張りだろうか。


「…なまえ」
「なに?」


あなたは。
好きだとは口にしない。だけどその代わりに、その言葉が聞こえてきそうな程の愛情のこもったキスをする。
幻想のように感じる愛情に私はいつも溺れて沈んでいく。

本当の愛は、なに?

必死で叫ぶ心にさえ、足を止めることなんて一度も無かった。

愛しいとは、とても哀しいものだ。